『ねむり』2

<『ねむり』2>
図書館で『ねむり』という本を、手にしたのです。
ぱらぱらとめくるとカット・メンシックさんの挿絵が独特で・・・ええでぇ♪


【ねむり】


村上春樹著、新潮社、2010年刊

<「BOOK」データベース>より
覚醒する新世界。目覚めつづける女の不定形な日常を描いた短編『眠り』が、21年ぶりの“ヴァージョンアップ”を経ていま再生するードイツ語版イラストレーション、日本版のためのあとがきを収録した、村上世界の新しい「かたち」。

<読む前の大使寸評>
ぱらぱらとめくるとカット・メンシックさんの挿絵が独特で・・・ええでぇ♪


rakuten『ねむり』1


この本の冒頭の語り口を、見てみましょう。
p7~9
<1>
 眠れなくなって17日めになる。
 不眠症の話をしているわけではない。不眠症のことなら少しは知っている。大学生のとき一度不眠症のようなものを体験した。「ようなもの」と断るのは、その症状が世間一般に不眠症のとされているものに合致するのかどうか確信が持てないからだ。

 病院に行けばそれが不眠症であるかないかくらいはわかったはずだ。でも私は行かなかった。そんなことをしても何の役にも立たないだろうと思ったからだ。何か根拠があったわけではない。直観的にそう思っただけだ。病院になんか行っても無駄だろうと。だから家族にも友人にも黙っていた。誰かに相談したら、病院に行けと言われるに決まっているから。

 1ヶ月ほどその「不眠症のようなもの」はつづいた。そのあいだ私は一度としてまともな眠りを迎えることができなかった。夜になってベッドに入ってさあ眠ろうと思う。するとそのとたんに、まるで条件反射のように覚醒してしまう。どれほど努力しても眠ることができない。眠ろうと意識すればするほど、逆に目が覚めてくる。酒や睡眠薬を試してみたが効果はなかった。ただ気持ちが悪くなっただけだ。

 明け方に近くなってようやくまどろみに近いものが訪れる。私は眠りの縁のようなものを指の先に僅かに感じる。でも薄い壁に隔てられた隣の部屋で、私の意識はありありと覚醒し、じっと私を見守っている。私の肉体はふらふらと薄明の中をただよいながら、私自身の意識の視線と息づかいをそばに感じつづけている。私の眠ろうとする肉体であり、同時に覚醒しようとする意識だった。

 昼のあいだ、私の頭は常に膜がかかったように霞んでいる。物ごとの性格な距離や質量や感触を見定めることができない。おして柔らかな欠落が一定の間隔を置いてゆるい波のように押し寄せてくる。電車のシートや、教室の机や、あるいは夕食の席で、私はしらないうちにまどろむ。意識がいつしか私の体から離れていく。

 世界が音もなく揺らぐ。いろんなものを床に落としてしまう。鉛筆やハンドバックやフォークが、音を立てて床に落ちる。私はそのままそこにつっぷして眠ってしまいたいと思う。でも駄目だ。覚醒がいつも私のそばにいる。私はその冷ややかな陰を感じつづける。私自身の影だ。

 奇妙だ、と私はまどろみながら思う。私は私自身の影の内側にいる。私はその鈍い無感覚な薄闇の中で歩き、食事をし、誰かと会話をかわす。でも不思議なことに、まわりの誰もそんな異様な状態に私が置かれていることに気づかない。その1ヵ月の間に私は六キロも痩せた。それなのに、家族も友人も誰一人としてその異変に気づかなかったのだ。私が終始まどろみつつ生きていたことに。



デジタル朝日にカット・メンシックさんが紹介されていたので、見てみましょう。

村上春樹作品に添える奇想イラスト ドイツのカット・メンシックさんより


村上春樹さんの短編に、ドイツ発のミステリアスな絵がついたアートブックのイラストレーター、カット・メンシックさんが来日した。2010年以降、『ねむり』『パン屋を襲う』『図書館奇譚』『バースデイ・ガール』の4冊を刊行してきた(いずれも新潮社)。村上作品は絵心を強く刺激する。

 メンシックさんは1968年、旧東ドイツのルッケンバルデ生まれ。20代で『羊をめぐる冒険』に出あって以降の愛読者。「初めて読んだときには驚きました。文体も内容も新しさがあった。そのイラストを手がけることはチャレンジで、とにかく楽しかった」

 贈り物になる大人向けの本を、というドイツの出版社の企画。メンシックさんの絵は線が強く、幻想的で、物語に登場しない昆虫や貝、クラゲが描き込まれている。「村上さんの短編には複数の層がある。書かれていないものを絵で対峙させたかった」

 図書館に本を探していた「ぼく」が地下の部屋に捕らわれる『図書館奇譚』には、村上作品おなじみの「羊男」が登場する。日本では佐々木マキさんのポップなイラストが思い浮かぶが、メンシックさんの「羊男」は不気味だ。「気に入っている登場人物。悪い人なのか良い人なのか。可哀想にも見え、シンパシーを感じます」



『ねむり』1

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