『文芸誤報』3

<『文芸誤報』3>
図書館で『文芸誤報』という本を手にしたのです。
先日読んだ同じ著者の『文学的商品学』という本が面白かったので、この書評集も期待できそうである。


【文芸誤報】


斎藤美奈子著、朝日新聞出版、2008年刊

<「BOOK」データベース>より
2005年以降の文学を読みまくり全172冊+α。
【目次】
1 嬉し恥ずかしデビュー作(『となり町戦争』三崎亜記/『四十日と四十夜のメルヘン』青木淳悟 ほか)/2 書き続けるのが作家の仕事(『みんな元気。』無城王太郎/『幸福な食卓』瀬尾まいこ ほか)/3 天下分け目の賞の行方は(2004年下半期芥川賞予報/『対岸の彼女』角田光代 ほか)/4 功なり名とげてなお精進(『鉄塔家族』佐伯一麦/『死の棘日記』島尾敏雄 ほか)/5 旬な脇役、評論とエッセイ(『愛と死をみつめて』大島みち子+河野実/『世界文学を読みほどく』池澤夏樹 ほか)

<読む前の大使寸評>
先日読んだ同じ著者の『文学的商品学』という本が面白かったので、この書評集も期待できそうである。

rakuten文芸誤報



『星の王子さま』の翻訳ラッシュが語られているので、見てみましょう。
p248~251
<『星の王子さま』サン=テグジュペリ>
 2005年『星の王子さま』の翻訳ラッシュだった。初版から60年が経過、内藤濯の訳による岩波新書版『星の王子さま』の版権が切れたのを機に、各社がこぞって新訳を出したためである。現在のところ6社! なぜそんなに? 人気商品だから?

 岩波版を含めた7冊を読み比べてみて理由がすこしわかった。この物語には翻訳上のキーワードがいくつかあり、それをどう訳すかで解釈が変わってくるのである。
 というわけで、しばらく『星の王子さま』の読み比べを試みてみたい。

 まず気になるのが、冒頭の有名な逸話に出てくる「Boa」である。もともとの内藤濯訳では「Boa」は「ウワバミ」と訳されていた。
<ぼくのかいたのは、ぼうしではありません。ゾウをこなしているウワバミの絵でした>

 6社のうち「ウワバミ」を踏襲していたのは小島俊明訳だけ。倉橋由美子訳は「大蛇」。池澤夏樹訳と山崎庸一郎訳は「ボア」。「ボア科のヘビの総称」と註をつけている本もあった。「ウワバミ」という語ではもう通じないとの判断か。ボアはボアだとの解釈か。 しかし、この際いってしまおう。ここは断然「ウワバミ」が正しいと。

 ボア科のヘビは19属59種が知られているが、それは通常2~4メートルのヘビである。一方、『星の王子さま』のボアはゾウを飲み込むほどの大蛇なのだから、むしろ古代ローマ以来の伝説の大蛇と考えるべきで、それをヨーロッパではボアと呼んでいたのである。日本語に訳せばまさに「ウワバミ」。

 「大蛇」でもまちがいではないが、ウワバミには大酒飲みの意味もあるように、何もかも飲み込む大蛇のニュアンスがある。せっかくそんないい語があるのに、なぜ訳し直す?まして『星の王子さま』ではじめてウワバミという語に出会う人だって多いのに。

■「飼いならす」ってなんのこと?
 しつこく『星の王子さま』の新訳読み比べである。
「ウワバミ=Boa」に続いてもう1ヶ所、各書が留意をうながしている意味深な単語がある。「apprivoiser=飼いならす」である。これは王子さまがキツネと出会う場面に登場する。

 内藤濯訳の岩波版ではこうなっていた。
<「ぼくと遊ばないかい ぼく、ほんとにかなしいんだから…」と、王子さまはキツネにいいました。/「おれ、あんたと遊べないよ。飼いならされちゃいないんだから」と、キツネがいいました。/「そうか、失敬したな」と、王子さまがいいました。/でも、じっと考えたあとで、王子さまは、いいたしました。/「<飼いならす>って、それ、なんのことだい?」>

 この後、王子さまが「<飼いならす>って、それ、なんのことだい?」と何度もキツネに問いかけているように、ここは『星の王子さま』の解釈にかかわる重要な箇所である。

 これを内藤濯訳と同様に「飼いな(慣)らす」と訳しているのは池澤夏樹訳、小島俊明訳、山崎庸一郎訳の3冊だった。この3冊はしかも内藤訳では「仲よくする」「じぶんのものにする」などと訳し分けていた部分も「飼いならす」で統一している。

 光野博司訳は少しやわらげて「手なずける」、川上勉訳+廿楽美登利訳はさらにやわらげて「なじみになる」、倉橋由美子訳は意訳に近い「仲良しになる」である。

「飼いならす」とは人間と動物(家畜)の間でしかふつうは使わない単語である。擬人化されたキツネとの会話にこの語が登場するのはたしかに違和感がないではない。しかし、ここはやっぱり「飼いならす」なのではないか。
(中略)

 王子さまとキツネの間に横たわる見えない壁。単純な友情の物語ではないのである。

ウーム けっこう難しいお話なんですね。

太子の蔵書録から『星の王子さま』を付けておきます。

【Le Petit Prince】
星
Antoine De Saint-Exupery著、HEINEMANN EDUCATIONAL、1968年刊

<「BOOK」データベースより>
ふるさとの星を出発した星の王子さまは、命令好きの王さまの星や、うぬぼれ男の星などを旅します。最後に地球にやってきて、サハラ砂漠で飛行機を修理中のパイロットに出会います。心をとらえて離さない不思議な物語。

<大使寸評>
私が買ったのはHEINEMANN EDUCATIONAL社(英国)のハードカバーであるが、さすがにこの本はアマゾンで出なかったので、アマゾンのMariner Books社の情報を載せました。

AmazonLe Petit Prince


『文芸誤報』2:『ツアー1989』中島京子
『文芸誤報』1:『沖で待つ』絲山秋子

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント