『科学する心』1

<『科学する心』1>
図書館に予約していた『科学する心』という本を、待つこと1ヵ月ほどでゲットしたのです。
福岡伸一は科学者から科学的物書きとなったが、池澤夏樹はその逆で、物書きが科学エッセイストをめざしているような感じですね。


【科学する心】


池澤夏樹、集英社インターナショナル、2019年刊

<「BOOK」データベース>より
大学で物理学科に籍を置いたこともある著者は、これまでも折に触れ、自らの作品に科学的題材を織り込んできた。いわば「科学する心」とでも呼ぶべきものを持ち続けた作家が、最先端の人工知能から、進化論、永遠と無限、失われつつある日常の科学などを、「文学的まなざし」を保ちつつ考察する科学エッセイ。

<読む前の大使寸評>
福岡伸一は科学者から科学的物書きとなったが、池澤夏樹はその逆で、物書きが科学エッセイストをめざしているような感じですね。

<図書館予約:(5/11予約、6/15)受取>

rakuten科学する心



「第7章 知力による制覇の得失『サピエンス全史』を巡って」を、見てみましょう。
p148~151
■なぜサピエンスは繁栄したのか
 ではなぜサピエンスは農業に移行したのか?
 この説明はなかなか衝撃的だ。
 人類は農業革命によって、たしかに手に入る食物の総量を増やすことはできたが、食料の増加は、より良い食生活や、より長い余暇には結びつかなかった。狩猟採集で暮らしていた頃の方がずっと呑気で愉快だった。農業に移行した後、もしも千年前を回顧できる知者がいたらそう思って嘆いたことだろう。

 英国の詩人、オーデンが書いて大江健三郎が中篇のタイトルに引用した「狩猟で暮らしたわれらの祖先」というフレーズからはそういうノスタルジックな幸福感が滲み出る。

 農業への移行に長期戦略があったわけではない。変化は少しずつやってきた。採集してきて食べた草の実が少し住まいの近くに落ちた。季節が一巡するとそれが芽を吹いて育って実をつけた。では蒔いてみたら、敢えて草の実をそこに捨ててみたら? あるいは狩った山羊が仔を連れていたので、仔の方は殺さずに連れ戻って飼った。かわいいがしかし育ててから屠れば食べられる。

 知力で自然に手を加えればその分だけ自然は利をもたらした。一段階ずつが誘惑的で、もとに戻ろうなどとは誰も考えもしない。そうやって財の余剰を増やしてゆくうちにサピエンスは財の虜になっていった。

人類は農業革命によって、手に入る食糧の総量をたしかに増やすことはできたが、食糧の増加は、より良い食生活や、より長い余暇には結びつかなかった。むしろ、人口爆発と飽食のエリート層の誕生につながった。平均的な農耕民は、平均的な狩猟採集民よりも苦労して働いたのに、見返りに得られる食べ物は劣っていた。農業革命は、史上最大の詐欺だったのだ。

 サピエンスは地球上の生物の進化史において明らかに特異な例だ。突然変異と生態系のニッチとの相性、その結果の自然選択、などなどのゆっくりとした進化の原理にいきなり知力というまるで別の手法が乱入する。これは作用が速い。だから数万年で地球ぜんたいを席巻してしまった。
 当事者であるサピエンスがこの事態の全容を掌握しているわけではない。農業という新しい営みの方へおずおずと近づいた先で気づいたら、彼らはとんでもないジェットコースターに乗せられていた。目先の利を追ううちに見も知らぬところに来てしまった。

 ユヴァル・ノア・ハラリが言うとおりこれは正に罠だ。魚を捕る梁と同じく、逆棘が生えたトンネルである。ひたすら前に進むしかない。いずれは身を滅ぼすのではないかという不安のうちに、しかしさしあたりは新しいテクノロジーに誘惑されて、今日より豊かな明日を信じて、月間残業百五時間に耐える。正規の労働が1日8時間週5日だったとすれば総計は250時間を超える。狩猟採集時代とはとんでもない違いだ。農業に始まる生産革命は結局は我々自身を家畜化した。自縄自縛ではないか。
 ここに家畜の福祉のことを重ねてみよう。ハラリはこう言う…

多くの乳牛は狭い囲いの中で、定められた生涯のほぼ全期間を、自分の排泄物の中で立ったり、座ったり、寝たりしながら過ごす。機械で餌とホルモン剤と薬剤を与えられ、別の機械で数時間ごとに搾乳される。そこに存在するのは、乳牛というより、原材料を取り込む口と、商品を生み出す乳房でしかない。

 つまり誰も幸福でないのだ。
 読んでいて思ったのだが、『サピエンス全史』はこれまでぼくが考えてきたこととずいぶん重なる。とりわけ『楽しい終末』などと。

 しかし、ぼくが悲観的だったのに対して、彼はサピエンスの未来を中立の視点で見ている。農業革命と労働時間については前述のように悲観的なことを述べるし動物の福祉にも言及するけれども、その一方で資本主義が機能していることも認める。


以前に読んだ『サピエンス全史(上・下)』です。「農業革命は、史上最大の詐欺」と言い切っているのがすごい。

【サピエンス全史(上)】


ユヴァル・ノア・ハラリ著、河出書房新社、2016年刊

<「BOOK」データベース>より
なぜホモ・サピエンスだけが繁栄したのか?国家、貨幣、企業…虚構が文明をもたらした!48ヶ国で刊行の世界的ベストセラー!

【目次】
第1部 認知革命(唯一生き延びた人類種/虚構が協力を可能にした/狩猟採集民の豊かな暮らし/史上最も危険な種)/第2部 農業革命(農耕がもたらした繁栄と悲劇/神話による社会の拡大/書記体系の発明/想像上のヒエラルキーと差別)/第3部 人類の統一(統一へ向かう世界/最強の征服者、貨幣/グローバル化を進める帝国のビジョン)

<読む前の大使寸評>
副題に「文明の構造」という概念があるとおり・・・刺激的な切り口である。

rakutenサピエンス全史(上)


サピエンス全史(上)2:農業革命は、史上最大の詐欺
サピエンス全史(上)1:農耕がもたらした繁栄と悲劇


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