『螢・納屋を焼く・その他の短編』1

<『螢・納屋を焼く・その他の短編』1>
図書館に予約していた『螢・納屋を焼く・その他の短編』という本を、ゲットしたのです。
年末のNHKで村上春樹原作『バーニング』という韓国版映画を観たのだが・・・
その勢いでこの本を予約していたわけです。


【螢・納屋を焼く・その他の短編 】


村上春樹著、新潮社、1987年刊

<「BOOK」データベース>より
秋が終り冷たい風が吹くようになると、彼女は時々僕の腕に体を寄せた。ダッフル・コートの厚い布地をとおして、僕は彼女の息づかいを感じとることができた。でも、それだけだった。彼女の求めているのは僕の腕ではなく、誰かの腕だった。僕の温もりではなく、誰かの温もりだった…。もう戻っては来ないあの時の、まなざし、語らい、想い、そして痛み。リリックな七つの短編。

<読む前の大使寸評>
先日、NHKで『納屋を焼く』という韓国版映画を観たのだが・・・
その勢いでこの本を予約していたわけです。

<図書館予約:(1/04予約、1/14受取予定)>

rakuten螢・納屋を焼く・その他の短編


「納屋を焼く」の語り口を、見てみましょう。
p52~54
<納屋を焼く>
 最初に知りあった時、彼女は僕にパントマイムの勉強をしているの、と言った。
 へえ、と僕は言った。たいしてびっくりもしなかった。最近の若い女の子はみんな何かをやっている。それに彼女は何かに真剣に打ちこんで才能を磨いていくといったタイプには見えなかった。

 それから彼女は「蜜柑むき」もやった。「蜜柑むき」というのは文字どおり蜜柑をむくわけである。彼女の左側に蜜柑が山もりいっぱい入ったガラスの鉢があり、右側に皮を入れる鉢がある(という設定である)本当は何もない。彼女はその想像上の蜜柑をひとつ手にとって、ゆっくりと皮をむき、ひと房ずつ口にふくんでかすをはきだし、ひとつぶんを食べ終えるとかすをまとめて皮でくるんで右手の鉢に入れる。

 その動作を延々と繰り返すわけである。言葉で説明すると、これはべつにたいしたことではない。しかし実際に目の前で十分も二十分もそれを眺めていると(僕と彼女はバーのカウンターで世間話をしていて、彼女は話しながら殆んど無意識にその「蜜柑むき」をつづけていた)だんだん僕のまわりから現実感が吸いとられていくような気がしてくるのだ。これはすごく変な気持だ。
 昔アイヒマンがイスラエルの法廷で裁判にかけられた時、密室にとじこめられて少しずつ空気を抜いていく刑がふさわしいと言われたことがある。どんな死に方をするのか、くわしいことはよくわからないけれど、僕はふとそのことを思い出した。

「君にはどうも才能があるようだな」と僕は言った。
「あら、こんなの簡単よ。才能でもなんでもないのよ。要するにね、そこに蜜柑があると思いこむんんじゃなくて、そこに蜜柑がないことを忘れればいいのよ。それだけ」
「まるで禅だね」
 僕はそれで彼女が気にいった。

 僕と彼女はそれほどしょっちゅう会っていたわけではない。だいたい月に1回、多くて2回くらいのものだった。我々は食事をしてからバーに行ったり、ジャズ・クラブに行ったり、夜の散歩をしたりした。

 彼女と2人でいると、僕はとてものんびりとした気持になることができた。やりたくもない仕事のことや、結論の出しようもないつまらないごたごたや、わけのわからない人間が抱くわけのわからない思想のことなんかをさっぱりと忘れ去ることができた。彼女にはなにかしらそういう能力があった。彼女の話す言葉の殆んどには百パーセント意味なんてなかったけれど、それに耳を傾けていると、遠くを流れる雲を眺めている時のように、ひどくぼんやりとして心地良かった。

 僕もいろいろと話をしたけれど、たいしたことは何ひとつ話さなかった。話すべきことはべつに何もなかった。
 本当にそうなのだ。
 話すべきことなんて何もないのだ。

ウーム 『バーニング』には、似てると言えば似ているなあ・・・彼女の「蜜柑むき」に他人をまきこむところなんか独特な場を醸しだしているし。

年末のNHKで観た村上春樹原作『バーニング』を付けておきます。

2018年12月29日村上春樹原作『バーニング』放送!より


 NHKが、アジアを代表する映画監督たちと、村上春樹の短編小説の映像化に挑戦します!

 第一弾は「納屋を焼く」。監督はカンヌ国際映画祭など、世界で評価の高いイ・チャンドン。監督は原作にある小さな謎を大胆にアレンジ、舞台を現代韓国に移し、謎が幾重にも広がるミステリー・ドラマを生み出しました。いったい何が真実で、何が現実なのか・・・。

 主演の3人は、若者の将来に希望を持てない“無力さ”や、やり場のない“怒り”を、見事に演じています。さらに、吹替を担当したのは、柄本時生(ジョンス役)、萩原聖人(ベン役)、高梨臨(ヘミ役)の3人です。緊張感あるストーリーを声の演技で盛り上げています。繊細な心の動きをつむぎ出す演技に注目です。

 村上春樹の短編小説を原作に巨匠イ・チャンドン監督が仕掛けた究極のミステリー「特集ドラマ バーニング」。12月、BS4Kの開局特番として、また、地上波では総合テレビの年末特集の1本として登場します。

【あらすじ】
小説家を目指す青年ジョンス(ユ・アイン/柄本時生)は、同じ農村で育った幼馴染の女性ヘミ(チョン・ジョンソ/高梨臨)と都会の片隅で再会する。惹かれ合う二人。しかし、ヘミがアフリカで出会った謎の男ベン(スティーブン・ユアン/萩原聖人)を紹介したことで、3人の運命は複雑に絡みはじめる。ある日、ヘミと一緒にジョンスの家を訪れたベンは、夕暮れのベンチで秘密を打ち明けた。「僕は時々ハウスを燃やしています―」この時から、ジョンスの周囲で不思議なことが起こり出す・・・。



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