敗北日本 生き残れるか

<敗北日本 生き残れるか>
経済同友会の代表幹事の小林喜光さんがインタビューで「技術は米中が接近、激変に立ち遅れ、挫折の自覚ない」と説いているので、紹介します。


(小林さんへのインタビューを1/30デジタル朝日から転記しました)

1946年、新進の企業人83人がつくった経済同友会。経済再建を誓った設立趣意書には、「全く新たなる天地を開拓しなければならない」「同志相引いて互に鞭(むちう)ち脳漿をしぼって」と熱い言葉が並ぶ。以来70年余。同友会を率いる小林喜光さんの頭を離れないのは、日本が2度目の敗北に直面している、との危機感だという。

Q:「平成の30年間、日本は敗北の時代だった」と最近発言されています。経団連、日本商工会議所と並ぶ日本を代表する経済団体のトップで、かつ三菱グループの大企業(三菱ケミカルホールディングス)の会長でもある方の言葉として、敗北とは衝撃的です。
A:なんてことを言うんだ、と各所でおしかりを受けます。しかし事実を正確に受け止めなければ再起はできません。例えば30年前で世界の企業の株価時価総額を比べると、トップ10入りした米国企業はエクソン・モービルなど2社ほど。NTTや大手銀行など日本企業が8割方を占めていた。中国は改革開放が始まったばかりで影も形もありませんでした。

 これが今では、グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンという『GAFA』と、アリババ、テンセントなど米中のネット系が上位を占め、モノづくりの企業はほとんどない。日本はトヨタ自動車が四十数位で、そこまで差がついた。企業の盛衰が反映する国のGDP(国内総生産)でも伸び悩む日本に対し、米中は倍々ゲームで増やしていったのです。

Q:日本の一人負けですか。
A:テクノロジーは、さらに悲惨です。かつて『ジャパン・アズ・ナンバーワン』などといい気になっているうちに、半導体、太陽電池、光ディスク、リチウムイオンバッテリーなど、最初は日本が手がけて高いシェアをとったものもいつの間にか中国や台湾、韓国などに席巻されている。もはや日本を引っ張る技術がない状態です。

 米中間でせめぎ合いが続く通信の世界でも、次世代規格の5Gに至っては、日本メーカーのシェアはごくわずか。牽引役は中国の華為技術(ファーウェイ)が先行し、北欧のエリクソン、ノキアがどうにか追随している状況です。自動車の自動運転や遠隔医療など次世代の基幹的技術になる5Gでこの有り様では、敗北と言わずに何を敗北と言うんでしょうか。
    ■    ■
Q:おおかたの国民、さらに国民が選んだ政治家たちに、おっしゃるような深刻な危機感はないと思います。
A:事実を事実として受け止めないから『GAFAみたいな世界もすぐ追いつける』とのんきな気分でいられるんでしょう」

 そもそも失われた20年とか、デフレマインドの克服とかいうこと自体が本末転倒です。安倍晋三政権で、アベノミクスが唱えられ『財政出動、金融の異次元緩和を進めるから、それで成長せえ』といわれました。しかし本来は時間を稼ぐため、あるいは円高を克服するために取られた手段で、それ自体が成長の戦略だったわけではないのです。この6年間の時間稼ぎのうちに、なにか独創的な技術や産業を生み出すことが目的だったのに顕著な結果が出ていない。ここに本質的な問題があります。

Q:失業率が下がったり、株価が上がったり、と足元の状況に満足しているのでしょう、安倍政権の支持率は高いままです。
A:内閣府の2018年6月の調査でも74・7%の国民が今に満足していると答えています。18~29歳では83・2%ですよ。心地よい、ゆでガエル状態なんでしょう。日本全体は挫折状態にあるのに、挫折と感じない。この辺でいいや、と思っているうちに世界は激変して米中などの後塵を拝しているのに、自覚もできない。カエルはいずれ煮え上がるでしょう。

 国家の未来図が描かれないままの政治が、与野党含めて続いてしまったためです。今さえよければ、自分さえよければ、という本音の中で、国民も政治家も生きてきた。周りが敵ばかりのイスラエルや、覇権を維持するためには科学を前に進めなくてはならない米国などと違い、皆で楽しく生きていきましょうという空気が取り巻いて敗北を自覚しない。運動会で『みんな一緒にテープを切りましょう』と競争自体を忌み嫌った時期もあった国だから無理もない。

Q:敗北が見える、自覚できる事態になると、どんな状況が待っているのでしょうか。
A:地政学と地経学という二つの次元があるでしょう。地政学では三つの選択肢がある。今は米国依存ですが、さらに従属を深めた米国の別種の州として生きていく。これを断ち切れば、うっかりすると中国の一つの市、北京や上海になる形もあり得るでしょう。どちらも嫌だ。日本は日本だと、独立を守り、米中の間で中立を保つことも可能性としてはある。

 経済、技術を通した地経学的な見地が死活的に重要です。現在は歴史的な革命期にあると皆が認識すべきです。5GもAIもサイバーセキュリティーも、日本は本当に遅れてしまい、基幹的な技術を欧米や中国から手に入れなければ産業、社会が立ちゆかなくなる。外国政府や企業の意向を無視しては国家全体が成り立たなくなる。リーディングインダストリー(成長を引っ張る産業)を自国の技術で育てることができず、他国の2次下請け、3次下請けとして食いつなぐ国になってしまう。

Q:おっしゃる通りなら非常に恐ろしい世界です。そこから抜け出すのも至難なことでしょう。しかし息継ぎのために国債が乱発された結果、財政に余力はなく、持続可能性が疑問になっています。
A:GDPを増やそうとして逆に国内の総負債を増やしたんです。6年間で約60兆円のGDPが増えたといいますが、国と地方の借金は175兆円も拡大しました。これで次の世代に引き継いでいけるでしょうか。一方で5Gや半導体、量子コンピューターなど、次世代が利用する技術の研究開発費は欧米や中国に出遅れている。

Q:しかし、アベノミクスに小林さんを含め財界も手をさしのべました。結果的に時間稼ぎに加担した責任は軽くないでしょう。
A:非常に問われている。矜持を持つ財界人が少なくなりました。

Q:どういうことでしょう。
A:経営者として、あるいは社会的公器のリーダーとして、社会に対して強く関わって変革していこうという意志を持った人の絶対数が減ったんです。かつて土光敏夫さんが臨時行政調査会を率いて行政改革を進めた頃、財界には高い権威がありました。

 でもネット社会のいまは、財界トップと言っても、持っている情報が一般の社員と比べて特段に優れているわけでもないから、社会的地位も特段に高いわけでもない。そうした状況で、官邸1強体制の中、経済財政諮問会議や未来投資会議など政府の意思決定過程に組み込まれてしまえば、できることもたかがしれている。

    ■    ■
Q:変えていくためには。
A:まずは財界トップに権威のない時代だと自覚する。だからこそ財界人だけで群れて固まらず、学界や知識人、若い人たちも含めた幅広い団体、いわば知的NPOを作って意見を交わし、社会に問いかけ、政治に注文する。そういう柔軟な形でないと世の中は動かなくなっている。まず知的NPOとして活動する場として、今度の大阪万博などは、よい機会になると思います。お金集めなどは二の次です。世界に向けて何を考え、何を訴えるのか、それが本質です。

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Q:日本の衰退が心配な半面、世界は一国主義や分断が広がっています。
A:一国主義を主張する政治家は選ばれた存在に過ぎず、選んでいるのは国民です。悪いのは国民です。各国で国民が劣化したんです。偽りと真実を見極めることが民主主義の原点なのに、それができずに独裁者を生む。プーチン氏や習近平氏であり、西側でもそういう連中ばかりになってきた。劣化は老いから始まったと思います。老いて勉強しない。考えない。新しいものに果敢に挑み、切り開くエネルギーも枯渇してきました。

Q:先進国は老いたのですか。
A:文明は老いるものです。ローマしかり、大英帝国しかり。新しい血と混ぜることを嫌えば衰退に向かう。それが世界史です。トランプ氏が壁造りに躍起になっていますが、外国からいろんな人がやってきて活性化してきたというエネルギーを馬鹿にしてはいけない。

 日本は『弱きを助け強きをくじく』といった大和心は残しつつ進取の気性を培わないと、挫折したまま滅んでしまう。単なる労働力として外国人を入れるのではなく、勉強する、考える日本人を増やす触媒の役割を担ってもらうべきです。

Q:社会にはストレスが生まれませんか。
A:だからいいんです。無用な対立はいけないですが、異文化と接することで日本本来の文化も磨かれる。陳腐化したものは淘汰される。そうした新陳代謝を怠ったのが、残念ながら平成時代の一つの性格です。異文化とワイワイガヤガヤやって実力がつくのです。(聞き手 編集委員・駒野剛)

     *
小林嘉光:1946年生まれ。相関理化学を専攻。イスラエル留学などを経て74年、三菱化成工業(現三菱ケミカル)に。2015年から経済同友会代表幹事。


敗北日本 生き残れるか小林嘉光2019.1.30

この記事も 朝日のインタビュー記事スクラップR10に収めておきます。

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