『私たちの隣人、レイモンド・カーヴァー』2

<『私たちの隣人、レイモンド・カーヴァー』2>
図書館で『私たちの隣人、レイモンド・カーヴァー』という本を、手にしたのです。
レイモンド・カーヴァーという作家は知らないのだが、村上春樹が精力的に翻訳した作家となれば気になるのである。

それから、本の表紙に「村上春樹翻訳ライブラリー」とあるのだが、村上さんの翻訳者としての実力がしのばれるのである。


【私たちの隣人、レイモンド・カーヴァー】


村上春樹編訳、中央公論新社、2009年刊

<「BOOK」データベース>より
密なる才能、器量の大きさ、繊細な心…カーヴァーは、彼について語るべき何かをあとに残していくことのできる人だったーJ・マキナニー、T・ウルフ、G・フィスケットジョンほか、早すぎる死を心から悼む九人が慈しむように綴ったメモワール。

<読む前の大使寸評>
レイモンド・カーヴァーという作家は知らないのだが、村上春樹が精力的に翻訳した作家となれば気になるのである。

rakuten私たちの隣人、レイモンド・カーヴァー


この本に登場する9人については知らないので、冒頭のジェイ・マキナニーという作家のエッセイを、見てみましょう。
p15~17
<レイモンド・カーヴァー、その静かな、小さな声>
 レイモンド・カーヴァーが亡くなってから1年が過ぎた。彼のことを思うと、私の脳裏にはあるひとつのイメージが繰り返し繰り返し浮かんでくる。それは人々が彼の方に身を屈めて懸命に何かを聞き取ろうとしている光景だ。彼はぼそぼそと口ごもるように喋る。
 T・S・エリオットが師であるエズラ・パウンドのことを「ほとんど耳の聞こえない人に、家が火事だということを懸命に伝達しようとしている男」と評したことがあるが、レイモンド・カーヴァーという人はまったくその逆である。

 煙はすでに部屋に充満し、炎がカーペットをなめているというのに、カーヴァーはまだ「なんだか、うん、つまりその、ちょっと熱くなったみたいなんじゃないかな」なんて言っているかもしれない。そしてあなたは椅子に座って体をふたつに折るように前屈みになって、「え、なんだって、レイ?」と質問しているかもしれない。彼が何かを固持して譲らないというようなことは一度もなかったし、何かを強く主張することさえほとんどなかった。そういう意味では、彼は教師らしくない教師だった。

 私は一度カーヴァーのインタビューに二時間半同席したことがある。そのライターはインタビューが進行するにつれてどんどんテープレコーダーを彼の方に近寄せていって、最後には「すみません、膝の上に載せていただけませんでしょうか?」と頼むことになった。数日後にそのインタビュアーは私のところに電話をかけてきて、取り乱した声で、録音した声がほとんど聞き取れないんですと言った。彼の喋り方は「物静かな声」というような生やさしい言葉ではとても追いつかないような代物だったし、それは話題がやむをえず一般論や規範といった領域に入っていくと輪をかけてひどくなった。

 とにかく彼はぼそぼそとした声で喋った。それは単なる肉体的神経症に見えなくもなかったけれど、結局はそれも彼の、言語に対する畏怖の念とでもいうべき深い謙虚さと敬意から発した作用だったのだ。今の私にはそう思える。それは、言葉というものはとてもとても慎重に扱われなくてはならないという彼の思いを反映したものだった。

 教室で、あるいはテス・ギャラガーとともに暮らしていたシラキュースのヴィクトリア風の家の中で彼が文章を書くことについて語るのを聞けば、彼が文豪たちの言葉を愛する作家であることがわかるはずだ。その言葉を文豪たちから受けついでいあがらも、彼は自分はひょっとしてそのような道具を手にする資格がない人間ではないだろうかと心配しているのだ。彼の作品のどのセンテンスにも、言語に対するそんな敬意(畏れにも似た謙虚さ)が感じられるはずだ。

 1970年代にカーヴァーの小説にめぐりあうことは、我々の世代の作家の多くにとって、文字とおり目も洗われるような経験であった。あるいは20年代にヘミングウェイの文章が世に現れたときも、それと似たようなものだったかもしれない。事実、カーヴァーの言語はヘミングウェイのそれに明白に類似している。簡潔さと明晰さ、反復、話し言葉に近いリズム、外見描写の正確さ。しかしカーヴァーは、そこからロマンティックなエゴイズムを完全に取り払ってしまった。


この本も村上春樹アンソロジーR3に収めるものとします。

『私たちの隣人、レイモンド・カーヴァー』1

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