『邪悪なものの鎮め方』

<『邪悪なものの鎮め方』>
図書館で『邪悪なものの鎮め方』という本を、手にしたのです。
内田先生には『呪いの時代』という著作があるが、この本もその系統であろうかということで借りることにしたのです。


【邪悪なものの鎮め方】
内田

内田樹著、バジリコ、2010年刊

<「BOOK」データベース>より
「邪悪なもの」と遭遇したとき、人間はどうふるまうべきか?「どうしていいかわからないけれど、何かしないとたいへんなことになる」極限的な状況で、適切に対処できる知見とはどのようなものか?この喫緊の課題に、ウチダ先生がきっぱりお答えいたします。村上春樹『1Q84』の物語構造、コピーキャット型犯罪が内包する恐るべき罠、ミラーニューロンと幽体離脱、被害者の呪いがもたらす災厄、霊的体験とのつきあい方から、草食系男子の問題にいたるまで、「本当ですか!?」と叫びたくなる驚愕の読書体験の連続。不透明な時代を生き延びるための「裏テキスト」。

<読む前の大使寸評>
内田先生には『呪いの時代』という著作があるが、この本もその系統であろうかということで借りることにしたのです。

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反米の大使としてはアメリカという題材が気になるわけで、そのあたりを見てみましょう。
p128~133
<アメリカの呪い> 
 合気道のお稽古のあと、東京新聞の取材。お題は「イラク派兵の総括」である。
 イラク派兵の政治的総括について、私に新聞紙上で申し上げるほどの識見があるとは思われないのであるが、先方が「お訊きしたい」というのに「いやです」というのも大人げないので、コーヒーを飲みながらあれこれ駄弁を弄する。

 『街場のアメリカ論』でも『九条でどうでしょう』でもくり返し書いていることだが、日本の世界戦略は「日米同盟を強化することを通じてアメリカから離脱する」というトリッキーな構造を持っている。

 日本がアメリカの軍事的従属国という屈辱的地位から抜け出す方法を「リアリスト」の政治家たちはひとつしか思いつかない。それはアメリカに徹底的に臣従することによって、アメリカからの信頼を獲得し、「では日本は自立してよろしい」というお許しを頂くという「暖簾分け」ポリティクスである。

 「従属することを通じて自立を果たす」というこの戦略が他の国々からどれほど没論理的なものに見えるか、これらの「リアリスト」たちはたぶんまったく理解していない。

 先年、日本の安保常任理事国入りに世界のほとんどの国が冷淡な対応をした。そのときに挙げられた理由は「日本を常任理事国にしても、単にアメリカの票が一つ増えるだけだから」というものであった。それに対して「いや、それは違う。日本はアメリカに対しても反対すべきときは反対する」と言って、「例えば」と説得力のある事例を挙げることのできた外交官はどうもおられなかったようである。少なくとも私は日本がアメリカの政略に反対して、国際社会から「日本もやるじゃないか」と見直された事例を知らない。

 「アメリカに従属する」ことを唯一の外交戦略だと信じているような国を「一人前」の国として遇するような国は存在しないという平明な事実を痛苦に受け止めている政治家も外交官も存在しないということが「日本が一人前の国ではない」ことの粉うかたなき証拠であると私は思う。

 しかし、現実がこうである以上、「誰の責任だ」と言っても始まらない。どうして「こんなふう」になってしまったのか。これからどうなるのかを語らねばならない。
 私が見るところ、直接の原因はアメリカの(具体的にはマッカーサー元帥の)かけた「呪い」である。

 マッカーサー元帥は戦艦ミズーリでの連合国への降伏文書調印の4日後、9月12日の記者会見で「日本はこの戦争の結果、四等国に転落した、日本が再び世界的強国として登場することは不可能である」と断言した。これは51年に上院軍事外交委員会で述べた日本人の精神年齢は「12歳」という評言とともに、日本人の深層にトラウマ的ストレスとして刻み込まれた言葉である。

 この「四等国」と「12歳」の呪いは私たちが思っている以上に深い。そして、日本人はこの「目に見える呪い」のほかにもうひとつ「目に見えない呪い」をこのときにかけられた。この「目に見えない呪い」の方がおそらく政治的にはるかに重要なものだ。

 それは「呪いはそれをかけた者によってしか解除できない」という呪いである。アメリカによってかけられた呪いはアメリカによってしか解除できない。私たちはそう信じている。「日本はもう四等国ではない。日本は世界の一等国である」「日本はもう12歳ではない。日本は国際社会の成熟したフルメンバーである」という宣言をアメリカに下してもらうことによってしか、アメリカによってかけられた呪縛は解けない。

 日本人はそう信じてしまった。
 「従属を通じて自由になる」というすぐれて日本的なソリューションはこの呪縛が生み出したものである。このねじくれた理路はおそらく日本人以外には理解できないだろう。
(中略)

 安倍内閣が主導した改憲運動の狙いは、9条2項を廃することだが、その直接の目的はアメリカの海外派兵に自衛隊を差し出すということである。戦後60年間、これほどアメリカに尽してきたのにまだ「自立」を認められないのは、「アメリカのために日本人が死んで見せないからだ」と思い込んだ政治家たちの結論である。私はこの思いをある意味で「可憐」だと思う。

 けれども、気の毒だけれど、そんな切ない心情をアメリカの戦略立案者はまったく考慮しないであろう。日本人兵士がいくら死んで見せてもアメリカは日本にかけた「呪い」を解く気はない。
 だって、先方にははなから呪いなんかかけた気がないんだから。かけてもいない呪いをどうやって解除したらよいのか。

 アメリカの対日政策は首尾一貫している。戦勝後、圧倒的な軍事力の差を見せつけて、「原爆の脅威」の下で統治理念そのものを変えた。憲法9条2項は誰が見ても、日本を軍事的に無害化するための制度である。アメリカにとって日本はヴェルサイユ条約以来の仮想敵国である。二度とアメリカと戦争する気がなくなるまで、徹底的に叩くというのは合理的な判断である。

 その後、朝鮮戦争が起きる。日本の旧ミリタリストたちは「」の旗印を掲げて、アメリカにすり寄ってきた。それでは、日本を国際共産主義運動との戦いの最前線基地として有効利用しようということで、自衛隊の創設が指示された。自衛隊は日本を軍事的に有用化するための制度である。

 アメリカは日本をまず無害化し、軍事的な危険がなくなったと知って、これを有効利用うることにした。それだけの話であう。9条と自衛隊の間には何の矛盾もない。どちらもアメリカの国益を最大化させるために採用された政略である。

 別にややこしい呪いなんかかけていない。きわめてビジネスライクかつ率直に、アメリカの国益に資するようなふるまいを日本に要求し続けているだけである。別に牛の刻に貴船神社に行って呪殺行をしてわが国の生命力の枯渇を祈ったわけではない。きわめてオープンに、合理的な施策を通じて自国の国益を追求しているだけの話である。


以前に読んだ『呪いの時代』3です。

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