『紅蓮亭の狂女』2

<『紅蓮亭の狂女』2>
図書館で『紅蓮亭の狂女』という本を、手にしたのです。
清国皇帝一族に接近した軍事探偵ってか…
軍事探偵というのは007のようなものなので期待できるかも♪


【紅蓮亭の狂女】
狂人

陳舜臣著、毎日新聞社、1994年刊

<「BOOK」データベース>より
清国皇帝一族に接近した軍事探偵が体験する魔訶不思議の世界―表題作ほか、文学者・郁達夫の死の謎に迫まる「スマトラに沈む」など六篇。

<読む前の大使寸評>
清国皇帝一族に接近した軍事探偵ってか…
軍事探偵というのは007のようなものなので期待できるかも♪

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「ウルムチに消えた火」の語り口を、見てみましょう。
p209~211
<ウルムチに消えた火> 
 神戸でも一流の中華料理店『万花園』の主人王功器が、心臓麻痺で死んだ。年は62だった。
 告別式で江学清が友人代表として、弔辞を読んだ。終りのほうになると、彼のひろい肩がはげしく揺れた。声には出さないが、彼の心が慟哭していることは、みんなにわかった。

 「無理もない。それこそほんとうの竹馬の友だったのだから」
 と、人びとは囁きあった。
 
 初七日の晩、江学清は王家を訪ね、油紙につつんだ長さ20センチ以上もある、ふとい蝋燭をとり出した。ずいぶん古いものらしく、根もとのほうがぼろぼろになっていた。

 王功器の息子が、
 「小父さん、なんですか、そのおんぼろ蝋燭は?」
 ときいた。

 「これを仏前にともしてほしい。むかし、故郷で私の家で造っていたものだ。動物性油脂をぜんぜん使っていない。神仏用の精進蝋燭だよ。40年まえのものだが、まだ使える」
 「ほう、精進料理というのはよくきくけど、精進蝋燭なんて初耳ですね」
 大学で応用化学を専攻している王の息子は、ナイフの刃を焼いて、ぼろぼろになった根もとを5センチほど切りとった。それでやっと、燭台に立てることができたのである。

 江学清はその蝋燭に火をともし、おだやかな丸味を帯びた黄色い焔を、じっとみつめた。
 亡友とともにすごした青春の日の形見を、彼はいま燃やしているのだ。
 江学清が線香をあげたあと、王功器の息子は彼を応接間に案内して、
 「父はどうしたわけか、若いころの思い出話などしたことがありません。亡くなられてみますと、むしょうに父のことを知りたくなりました。いったい、父の生まれたウルムチというのはどんな町だったのですか?」
 ときいた。

 ウルムチは新疆省の省都である。左宋裳将軍がかつて新疆でヤクブ・ベグの叛乱を鎮定したあと、キ下の将兵でその地に留まった者が相当いた。江学清と王功器も、現場除隊軍人の三代目である。新疆と天津を結ぶ交易ルートの繁栄によって、彼らが生まれたころ、両家はウルムチでも指折りの豪商となっていた。

 店は隣合せだったので、同い年の二人は、物心のつくころからの友人である。
 清朝が崩壊して、中華民国となったのは、二人が七つのときだった。しかし、西域の町ウルムチはしごく平穏だった。

 「らくだの糞と羊肉のにおいのする、おだやかな町だったよ」と江学清は言った。「わしらがちいさかったころ、中国は内戦時代だったが、新疆省だけに平和があった。神様がいたからなんだ。わしらはおやじたちから、こんなに平和に暮らせるのも、省主席楊増新のおかげだと、いつも言い聞かされた。子どものころ、わしらは楊増新を神様だと教えこまれたのだ」
 「ずいぶんえらい人だったのですね?」
 「そう、たしかに傑物だった。スウェン・ヘディンという探検家が、楊増新を地上最高の専制政治家だと書いているが、誇張ではない。ただし、けっして前向きの政治ではなかったね。近代化を抑える、新疆をそのままの状態にしておいて、なにも手をつけない、よけいなことをすると、かえって世の中がみだれる。…これが楊主席の考え方なのだ。そして彼は独裁者だった」
 「小父さんや父は、それに抵抗を感じなかったのですか?」
 「わしときみのお父さんは、13のときから6年間、隣の甘粛省の蘭州の中学に入れられた。きみのお父さんは、いつもわしよりすこしだけ成績がよかった。…そこで新しい教育を受けたんで、ウルムチに帰ってから、楊主席のやり方に疑問をもつようになった。それもきみのお父さんのほうが先だったよ」
 「やはり、いろんな悩みがあったのでしょう」
 「それはあった。…そんなことは、いずれあとで、ゆっくり話してあげよう」


「ウルムチに消えた火」の続きを見てみましょう。ウルムチのクーデターの後です。
p237~240
 炎熱地獄とは、ウルムチの夏の監獄のことをいうのであろう。コンクリートの床は、焼鉄板のようだった。
 クーデターの参加者は逮捕され、2、3人ずつ分散されて獄室にいれられた。江学清は王功器と同じ部屋におしこまれた。
 拷問はあったが、尋問らしい尋問はなかった。すでに誰かが、みんなしゃべったのであろう。

 江学清も王功器も、まる裸にされた。獄卒や兵卒が、いれかわり立ちかわりあらわれて、ところきらわず革の鞭で打った。皮膚がやぶれ、全身が赤くはれあがった。

 背中が焼け、顔が燃え、血とまじった汗が床のうえに落ちるとじゅっと音を立てた。
 一人の兵隊は、
 「金樹仁庁長は、おまえたちを蹴り殺してこいと命令したんだ」
 と言った。
(中略)

 彼らは死を覚悟した。
 しかし、明け方近くになって、意外なことがおこった。数人の獄卒が来て、二人を抱え出したのである。
 監獄の裏門があいていて、そこに1台の幌をかぶせた荷車が待っていた。ほの暗いランプのあかりで、車のそばに、二人の父親がいるのが見えた。

 父親たちは獄卒にぺこぺこ頭をさげていた。
 二人は幌のなかに投げこまれ、やがて車はうごきだした。
 おやじたちは、買収に成功したのだ。莫大な金をつかって。
 あとできいたところによると、彼らの家族は、ウルムチじゅうをかけずりまわって、新しい死体を二つ手に入れ、身代りに持って行ったそうだ。

 熱烈な楊主席の崇拝者である江学清の父は、泣きながら言った。…
 「気ちがい息子め! わしたちのまえから、とっとと消え失せろ、まとまった金はくれてやるから」


『紅蓮亭の狂女』1

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