『村上春樹ロングインタビュー』

<村上春樹ロングインタビュー>
『村上春樹ロングインタビュー』というムック雑誌が積読になっていたが…
暇な大使は、再読しようと思い立ったのです。


【村上春樹ロングインタビュー】
村上
考える人 2010年 08月号 、新潮社、2010年刊

<内容紹介より>
特集 村上春樹ロングインタビュー 日常から離れた新緑の山にこもって、たっぷりとお話をうかがった3日間。
【1日目】 一人称から三人称へ 『ノルウェイの森』のこと 僕と鼠の物語の終わり 歴史少年だったころ 物語の間口と奥行き プリンストンへ 「第三の新人」講義 『アンダーグラウンド』と『サハリン島』 『アフターダーク』と『1Q84』 『1Q84』はいかに生まれたか クローズド・サーキット 手を握りあう 物語を掘りだす 文体が支える BOOK3 女性たちとセックス  「1Q84」という世界 パラフレーズすること
【2日目】 プリミティブな愛の力 『静かなドン』から始まった 話し言葉と語りの力 メタファーの活用と描写 BOOK4の可能性 近過去の物語 十歳という年齢と偶然を待つこと 父的なものとの闘い 漱石のおもしろさ 芦屋から東京へ 心理描写なしの小説 自由であること、個であること 時間が検証する 十歳で読書少年に 芦屋のころ 19世紀的な小説像 自我をすっぽかす小説 長距離ランナー 
【3日目】 リスペクトの感情 古典の訳し直し サリンジャー、カポーティをめぐって カーヴァーの新しい境地 20世紀の小説家の落とし穴 アメリカの出版界 オーサー・ツアー 全米ベストセラーリスト エルサレム賞のこと 短篇小説と雑誌の関係 今後のこと。

<大使寸評>
村上さんがインタビューで、小説を書く舞台裏とかノウハウを惜しげもなく語っています。
小説を書きたいと思う大使にとって、たいへん参考になります♪

Amazon村上春樹ロングインタビュー


『1Q84』誕生の舞台裏が語られています。
p32~33
<『1Q84』はいかに生まれたか>
村上:僕の場合は、題から始まる小説と、あとから題をつけるのに苦労する小説があるけれども、これは完全に題から始まった小説です。『1Q84』という題で小説を書いたら、どんな小説ができるだろうなというところから始まったんです。最初はまったくタイトルしかなかった。

Q:『1Q84』で何をどう書いていくかは、タイトルのあとで始まったということですね。そういうとき、小説の構想は、どんなふうにできてくるものなんですか。

村上:小説の構想はまったくありませんね。

Q:では、バッハの平均律クラヴィーア曲集の第一巻、第二巻に倣って、BOOK1、BOOK2で24章ずつというのは、いつ思いつかれたんですか。

村上:青豆と天吾を交互に出していこうと思いついた時点で、これは平均律のフォーマットでやろうと決めたんです。僕は「縛り」が好きだから。でも最初書き出したときには、話がどう展開していくのか、頭の中にもぜんぜん構想はなかった。

Q:青豆的なるもの、天吾的なるものの人物造形というのは、最初にぼんやりとでも浮かんではいたんですか。

村上:人物造形なんてぜんぜんなかった。とにかくまず名前を決めたんです。青豆という名前を思いついたときに、あ、これはいけるな、と思った。つぎに天吾という名前を思いついて、この小説はきっとおもしろいものになるとわかりました。そういうのって名前だけでわかるんです。余談だけど飛騨の高山のほうに、青豆さんという一族が実際にいらっしゃるみたいです。出版社あてにメールをいただいたと聞きました。

 『1Q84』という題はできた。青豆、天吾という名前もできた。キャラクターは書いているうちに自然に肉付けができてくるだろう。あとは出だしです。どのようにして、青豆が高速道路の非常階段を降りていくシーンが出てきたか? 首都高速が渋滞になったとき、車を止めて、非常階段を降りていった人がいたという話を、ニュースで耳にしたことがあったんです。

Q:実際にあんなことがあったんですか?

村上:場所とか事情とか、具体的なことはもう思い出せないんだけど、そういうニュースが妙に頭の中に残っていました。それ以来、首都高速を走るたびに非常階段を目で探すようになった(笑)。

 渋滞中の3号線を運転しているとき、三軒茶屋のあたりの非常階段を降りたら別の世界になっている、というのはどうだろうと、ふっと思いついたんです。そこが『1Q84』の世界だったらどうだろうと。

Q:非常階段を降りていけば、物語が動いていくだろうと。

村上:そう。その時点では、何がどう変わっていて、そこで何が起こるかは、僕にもぜんぜんわかりません。見当もつかない。でもわからないなりに、とにかく青豆を渋滞の中に置き、非常階段を降りさせてみようじゃないか。どうして彼女はそんなに急いでいるんだろう? 何かの使命をおびているのだろうか、そんなふうに書き進めているうち、話が少しずつ固まってきます。

 第一章を書き終えて天吾の第二章になったところで、さあ、天吾という男性はいったいどんな人間で、何をしているのだろうと考えます。彼も何か個人的な問題を抱えているらしい。そしてその話がどこかで青豆と結びついてくるはずだ。

 たとえばこの二人は、昔別れたきり、お互いを強く深く求めあっているのかもしれない。「100パーセントの女の子」という短い短篇小説を覚えていますか?

Q:覚えていますよ。「4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて」(『カンガルー日和』所収)

村上:あれ、なんだか世界的に人気があるみたいです。外国の大学で教材にしているというのを何度も聞いているし、映画科の学生が世界各国でもう7、8本映画にしています。申込みが多すぎて、今のところ打ち止めにしているくらいです。学生の撮る自主映画だから公開されたりはしないんだけれども、僕も4本くらい見たかな。どれもけっこうおもしろい。

 この話のいったいどこが、これほどみんなを刺激するんだろう、この短い話をすごく大きく膨らませたら、いったいどんな物語になるんだろうというようなことを、前からちょくちょく考えてはいたんです。

 そういういろんな思考の断片やら記憶やらを、穴に投げ込むみたいに片端から投げ入れていく。すると自然に、自発的に話が動いていきます。この段階では自発的というのが大事なんです。

Q:最初の段階では、「さきがけ」的なものや、リーダーのような存在は、片鱗もなかったんですか。

村上:オウム裁判を傍聴しに、東京地裁と高裁に通って、ノートに何冊も裁判記録をとっていました。
(中略)
 
 『アフターダーク』にもそのへんの僕の感情や、いろいろな暗い思いが、あちこち染みでています。自然に出てきたものです。しかし『1Q84』みたいな長大な物語の中に、それをどう出していくかは、むずかしい問題になります。中篇と長編とでは、マテリアルの持つ重みも当然違ってきますから。

 『1Q84』の場合でいえば、ストラクチャー(構造)そのものに、そのモチーフが持ち込まれ、組み込まれているんじゃないか。そんな気がします。

Q:村上さんは被害者のインタビューを行ったあとで、オウム側の取材も続けていた。双方にある真実が、軋轢を起こすことはありませんでしたか。

村上:被害者が、実行犯は死刑にして当然だという気持ちはわかります。その人たちを実際目の前にしてきた僕としては、そういう気持ちに対してノーとは言えないし、また言うつもりもありません。だけど、もし加害者である彼らの立場に立たされたとしたら、今現在自分たちがいるこの世界に、おそらく現実という実感が持てないだろうなということも、理解できるんです。

 『1Q84』のように、非常階段を降りただけで違う世界に入ってっしまうという状況は、そういう実感と重くかさなっています。ただの虚構、小説装置としてのパラレルワールドみたいなものではなくて、そこには現実の生々しい怖さがあります。それに比べれば、「さきがけ」とオウムとの事実的相似性など、あくまで表層的なものです。それよりはストラクチャー自体の怖さのほうが、僕にとってははるかにリアルであり、切実です。

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