「全国アホ・バカ分布考」読書レポート#5

<人の失敗や愚かしさは、蜜の味♪>
京の都で生み出されたアホ・バカ方言には、辛辣な比喩もあったが、笑い合うことを好んだ都会的なセンスがあったようです。
この本の半分くらいまで読み進んだが、歴史的資料に踏み込んだ松本プロデューサーの論調はなかなか快調でおま♪


<競われた言葉のセンス>p229~232
 以上に見てきた多くのアホ・バカ方言も、どうやら圧倒的多数が中世から近世にかけての上方、なかんずく京の都で生み出された言葉であったと思われる。分布図に載せた二十余語の他に、京の町でまだこんなにも数多くのアホ・バカ表現が生み出されていた。そんなアホ・バカ表現とは、いったい何なんだろう?
 「惚れ者」「惚け者」と、人をぼんやり者として評価し、「虚仮」「本地なし」と仏教語を転用し、「田蔵田」「鮟鱇」と間抜けた動物の名で呼ぶ。「唐人」「陪堂」も似たようなたとえである。また「温い」「疎い」「とろい」「半可くさい」と形容詞まで意味を変えて登板させ、「あやかり者」「根性良し」と表向きだけは最高に褒め上げる。「七厘」「八分」と具体的に不足する分量を示し、「ボボラ」と外来の植物まで持ち出す。さらに「安本丹」「運尽く」「表六玉」「すかたん」「嘲斎坊」「頬垂れ温い」と語呂の面白さまで配慮する。
 よくもまあ、こんなに色々な工夫が凝らされたものだ。「戯け者」や「足らず」など、格別には芸のないものもあるが、とはいえこれらも比喩の一種であることに違いはない。アホ・バカ表現こそ、まさに言葉遊びのアイデアの玉手箱と言うことができるだろう。
 こういう言葉が京の町で次々と開発されるにあたっては、おそらく、庶民の遊びの精神が作用していた。人は人をけなすために最大限の知恵を絞り、あらゆるボキャブラリーを動員して、表現のユニークさ、絶妙さを競ったのである。それは稚気愛すべき、都の庶民の企てだった。こんな時、「痴」や「愚」、あるいは「無知」などをストレートに表すような言葉、あるいは差別的な言葉は、当然のことながら最初から排除された。そんな一片のデリカシーもない、または遊び心もセンスの冴えない発想こそ、まさに恥ずべき「ナンセンス」さだったからである。

 日本人はなぜ、人をけなすためにこのように表現のユニークさを競い、またセンスを争ったのだろうか?
 それは古来、人の失敗や愚かしさを「ぼんやり者」や「間抜け」の意味でけなして笑うことが、とても面白い楽しみだったからだろう。つまりアホ・バカ表現は、喧嘩に便利なように、相手をただ深く傷つけるためだけに用いられてきたのではないということだ。もっと多く、それは日常の楽しみのためにあった。
 あるとき私は税金を数万円分還付してもらおうと意気揚々と税務署におもむき、逆にその場で十数万円を追徴されてしまったことがある。あとになってこのことを、税制上有利な扱いを受けている構成作家の仲間たちに話したら、みんな私をバカにして大笑いした。 「まるで田蔵田やおまへんか」
 笑われて、かえって私は心和んだ。
 中世や近世の人々も、日々の営みの中で、親しい仲間同士お互いをけなし合い、笑い合うことを好んだのだろう。そうした新しいけなし言葉は、それぞれの時代の都の庶民の息づかいを伝えるものでもあるはずだ。
(中略)
 さあ、心静に耳を澄ませてみよう。活気あふれる京の町のさんざめきに混じって、都の陽気な民衆が、中世アホ・バカ表現を勢いよく投げ合っては、さも愉快そうに哄笑し合う声が、五百年、六百年の時を超えて、すぐ耳元にまで響いてくるような気がするではないか。

いじめ問題が吹き荒れる殺伐とした世の中であるが・・・・昔の日本人は、まだ楽しく暮らす術が備わっていたようですね♪
では、今の世の何が悪いのか?と思うわけです。


【全国アホ・バカ分布考】
アホ
松本修著、新潮社、1996年刊

<「BOOK」データベースより>
大阪はアホ。東京はバカ。境界線はどこ?人気TV番組に寄せられた小さな疑問が全ての発端だった。調査を経るうち、境界という問題を越え、全国のアホ・バカ表現の分布調査という壮大な試みへと発展。各市町村へのローラー作戦、古辞書類の渉猟、そして思索。ホンズナス、ホウケ、ダラ、ダボ…。それらの分布は一体何を意味するのか。知的興奮に満ちた傑作ノンフィクション。

<大使寸評>
番組に依頼した人の着眼がよかったのか、それを採用し追及させた松本修プロデューサーが偉かったのか♪

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ノンフィクション100選★全国アホ・バカ分布考|松本修


全国アホ・バカ分布図
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