『あとは切手を、一枚貼るだけ』1

<『あとは切手を、一枚貼るだけ』1>
図書館で小川洋子×堀江敏幸共作の『あとは切手を、一枚貼るだけ』という本を手にしたのです。
巻末を見ると、文芸誌に2017年7月~18年8月まで連載されたエッセイを単行本として構成したもののようです。
いわば出版社の企画の勝利というか、一粒で三度美味しいケースでんがな♪


【あとは切手を、一枚貼るだけ】
  

小川洋子×堀江敏幸著、中央公論新社、2019年刊

<「BOOK」データベース>より
かつて愛し合い、今は離ればなれに生きる「私」と「ぼく」。失われた日記、優しいじゃんけん、湖上の会話…そして二人を隔てた、取りかえしのつかない出来事。14通の手紙に編み込まれた哀しい秘密にどこであなたは気づくでしょうか。届くはずのない光を綴る、奇跡のような物語。

<読む前の大使寸評>
巻末を見ると、文芸誌に2017年7月~18年8月まで連載されたエッセイを単行本として構成したもののようです。
いわば出版社の企画の勝利というか、一粒で三度美味しいケースでんがな♪

rakutenあとは切手を、一枚貼るだけ


太子は鳥がからむお話しが好みであるが・・・
この本で『幸福の王子』が語られているあたりを、見てみましょう。
p251~252
<十三通め>
 ちょっと、旅に出ていました。そう遠くじゃありません。初めてのところでしたが、近々行くことになるのは分かっていましたし、どんな場所か、数えきれないくらい何度も思い描いていたので、新鮮な驚きよりはむしろ、懐かしさを覚えるほどでした。

 想像とさほどかけ離れてはいなかった、ということです。本当はもっと先まで行くつもりで、準備もできていたはずなのに、予定通りにいかないのが旅の常。途中で引き返す事態になったのは、自分でも思いがけない成り行きでした。

 それに引き換え、渡り鳥たちの旅は何と潔いのでしょうか。行く、と決めたら行くのです。ひるんだり、ぐずぐずしたり、感傷に浸ったりする鳥は一羽もいません。地図も羅針盤もなく、ラジオの気象情報とも無縁のまま、誕生した時に与えられた身一つで旅立ちます。

 もし彼らが渡りをしなければ、どれほどの悲劇が起こるか教えてくれたのは、子どもの頃読んだ絵本、オスカー・ワイルドの『幸福の王子』でした。王子の使者となり、銅像を飾る宝石を貧しい者のもとへ届けていたツバメは、南の国へ渡る時を逃し、寒さに震えながら息絶えます。
 銅像の足元に横たわるツバメの姿が、あまりにもぐったりとして弱々しく、かわいそうでならなかったのを思い出します。

 もちろん目が空洞になり、全身の金箔をはがされ、人々から蔑まれる銅像も気の毒ではありますが、それでも彼は王子です。タイトルに掲げられる主役です。けれどツバメは、見返りを求めない愛の代償として死んでゆく、一羽の鳥にすぎません。

 ツバメの死骸は、死が意味するものをすべて含んでいました。生きている間、自由に空を飛んでいた鳥は、重力に敗北した時、他の生きものよりずっと決定的な死の塊に閉じ込められるのかもしれません。数年後、私の両手に納まったポッチの死骸は、南の国へ渡れなかったツバメの影と重なり合いました。

『幸福の王子』を読んでしばらくは、秋も深まる頃、まだ町に残っているツバメを見ると、たまらなく心配になったものです。学校への道を歩きながら、もし鳥の死骸が落ちていたらどうしようと、びくびくしていました。 

手紙に編み込まれた哀しい秘密とやらには・・・気付かない鈍感な大使でんがな。

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