『漫画のすごい思想』1
<『漫画のすごい思想』1>
図書館で『漫画のすごい思想』という本を手にしたのです。
ぱらぱらとめくってみると、四方田さんが取り上げた漫画作家が大使の好みに近いわけで・・・またしても「先を超されたか」との思いがしたのです。
まず、冒頭の佐々木マキを、見てみましょう。
天国でみる夢
アンリとアンヌのバラード
ピクルス街異聞
図書館で『漫画のすごい思想』という本を手にしたのです。
ぱらぱらとめくってみると、四方田さんが取り上げた漫画作家が大使の好みに近いわけで・・・またしても「先を超されたか」との思いがしたのです。
【漫画のすごい思想】 ![]() 四方田犬彦著、潮出版社、2017年刊 <「BOOK」データベース>より 政治の季節からバブル崩壊まで、漫画は私たちに何を訴えてきたのか。つげ義春、赤瀬川原平、永井豪、バロン吉元、ますむらひろし、大島弓子、岡崎京子…すべては1968年に始まった! <読む前の大使寸評> ぱらぱらとめくってみると、四方田さんが取り上げた漫画作家が大使の好みに近いわけで・・・またしても「先を超されたか」との思いがしたのです。 rakuten漫画のすごい思想 |
まず、冒頭の佐々木マキを、見てみましょう。
p10~16 <杉浦茂への回帰> 1967年11月号の『ガロ』に、佐々木マキの『天国で見る夢』が掲載されたときの興奮を、わたしは忘れることができない。佐々木はそれ以前にも黒い諧謔を持ったSF短篇を二本、すでに同誌に発表していたが、この新作ではまったく違った手法、というよりおよそ日本の漫画界が始まって以来の手法を用いてみせた。 『天国で見る夢』には統一的な物語というものが存在していない。コマとコマは読み進むべき順番をもたず、無時間的な平面のうえにただ投げ出されているばかりである。登場人物はいっこうに科白を語ろうとしない。ときおり現れる吹き出しには、★や林檎の記号、数式、英語やアラビア語といった外国語が記されているばかりである。どの頁から読んでもよく、またどのコマだけを取り出して眺めていてもよかった。 後に佐々木本人が語ったことによれば、彼は全体的な構想もないまま1日1頁のペースで描き続け、書き終わった後で、トランプのカードを切るときのようにページを自由に組み換え、並べ直してみたのだという。15歳だったわたしはこの斬新なる漫画の出現に狂喜し、ただちに『ガロ』編集部に感想を書き送った。それは三ヵ月後、投稿欄に掲載された。 佐々木マキは驚きそのものだった。とはいえ前衛のつねとして、彼の出現を訝しく思う人が少なからず存在したことは事実である。その最たる者は手塚治虫で、彼は佐々木を「狂人」だと罵倒してやまず、雑誌への掲載をただちに中止すべきであるという論旨の文章を、さる総合雑誌に寄稿した。 スリリングな語りの展開にこそ漫画の妙味があると信じてきた手塚にとって、佐々木の出現は世界の終末の予兆のように漢字られたのだろう。とはいうものの佐々木はといえば、幼少時より親しんできた杉浦茂漫画の延長に自分が作画を営んでいるという強い自覚を抱いていた。彼はコマを物語の因果律へ従属させるのではなく、それ自体として完結し充足した画として、読者の前に差し出したのである。 『天国で見る夢』には、何が描かれていたのだろうか。 鉄条網で囲まれた平地を、重い鉄球を引き摺りながら延々と走っている男がいる。チェス盤の向こうではしゃいでいる道化師がいて、首吊り用のロープを眺めている女がいる。絶叫する黒人歌手がいて、溺れかけている大勢の男女の前で一人壇上に立ち、説教をしている神父がいる。巨大な舌をもった一つ目のお化けがいる。このお化けは強制収容所であろうが、飛行機の墜落現場であろうが、いたるところに出現してみせる。 (中略) 『天国で見る夢』の次に発表された『殺人者』では、逆にフィルム・ノワールを真似て、古典的なまでに人称をもった語りが作品の柱となっている。とあるバーに二人の男がやって来る。彼らの目的は、そこでロンという男を殺害することである。もう一人の若い男のほうは黙りこくったままで、何も口にしない。彼はまるでボードレールの水彩自画像から抜け出してきたような雰囲気をもち、これから行なわれるであろう殺人について、醒めきった意識を抱いている。 (中略) こうした不毛で絶望的な状況にあって、無垢なる少年少女たちの身には何が起こるのだろうか。『アンリとアンヌのバラード』『セブンティーン』『うみべのまち』『ぼうや、かわいい ぼうや』といった一連の作品には、彼らが蒙る受難が痛ましいまでに描かれている。 『アンリとアンヌのバラード』は、地上で罪を犯し地獄に送られてきた少年と少女が身の上を語るという作品である。地獄とは「不幸と苦痛のポーズはしていても、傷みはもはや感じちゃいない」場所であり、慣れてしまうことが大事だという点で、地上世界をめぐる、強烈にアイロニカルな隠喩に他ならない。 |



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