『カシス川』3

<『カシス川』3>
図書館に借出し予約していた『カシス川』という本を、およそ半年待ってゲットしたのです。
胃を全摘した大使にとっては「がん」ものは、まあ、ツボともいえるので借出し予約していたのです。


【カシス川】
カシス

荻野アンナ著、文藝春秋、2017年刊

<出版社>より
7年前に彼を癌で亡くし、父を見送った私の腸に、癌が見つかった。
これで私はようやく休める、私は腹の中に「楽園」を抱え込んでいるのだ。
告知を平然と受け止めた私は、ともに暮らす要介護4の母との入院を心に決めた。

<読む前の大使寸評>
胃を全摘した大使にとっては「がん」ものは、まあ、ツボともいえるので借出し予約していたのです。

<図書館予約:(1/20予約、7/13受取)>

rakutenカシス川


猫男が登場するので、見てみましょう。
p44~46
<鵺> 
 私はそのうち男を「高橋さん」と呼ぶようになった。「佐藤さん」のこともある。テレビの画面がキムタクだと「木村さん」になる。どうせ相手は「にゃあ」としか答えない。

 それでも名前が出たとたん、猫男は私の話し相手になった。
 「大腸がんの抗がん剤は手足が荒れるのよ」
 病院の医師には保湿を心がけるよう言われている。しかし現実には、クリームを塗ったとたん、トイレやら料理やらで手を洗うはめになる。

 「手術してから頻便なの。わかる? ウンチがちびちび何回も出るの。そのたびに手を洗うから保湿どころじゃないのよ」
 猫男は食事時の尾篭な話にもたじろがない。その代わり返事もない。
 「今朝、二度寝いたら嫌な夢見ちゃった。胃の中が血でいっぱいになってるの」
 「にゃあ」
 「昨日テレビのドキュメンタリー観たじゃない? 母親の介護をしているジャズ歌手の話。今日、お母さんに話したら厭味だと思ったみたい。『お前は長生きする。私の歳になって私のことを考えてみて欲しい』って」
 「にゃあ」

 翌日は母に付き添って病院へ行く。
 「私は抗がん剤で白血球が減っている時期だから、本音では、外出したくないわけ。嫌がってる気持ちって、伝わるみたいね。『どこまでお前に迷惑かければ済むねんやろか』って言われちゃった」
 「寝る」
 猫男は最初、いびきをかくふりをする。そのうち本当に寝てしまう。規則正しい寝息の横で、私は天井を見つめている。

 駅のホームに、パジャマの私が立っている。前の女性が傘で私を威嚇した。私は声を絞り出した。
 「手術した体なのに、やるならやりなさい」
 パジャマをめくり、腹の傷跡を見せた。発車のベルが鳴り止まない。実は電話のベルだと半分気付いている。母が留守電に吹き込む声を聞きながら、ホームを歩いている。階段を降りた先の通路が私の家らしい。そこで目が覚めた。


『カシス川』2:アンナさんの入院記
『カシス川』1:アンナさんの母子関係や病歴

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