『草原からの使者 沙高楼奇譚』2」

<『草原からの使者 沙高楼奇譚』2>
図書館に予約していた『草原からの使者 沙高楼奇譚』という本を、待つこと1週間ほどでゲットできそうです。
浅田さんの傑作短編集とあれば、まず「外れ」はないだろうし、期待できそうやでぇ♪


【草原からの使者 沙高楼奇譚】


浅田次郎著、文芸春秋、2005年刊(画像データは2011年版)

<「BOOK」データベース>より
ロンドンの超高級カジノの一夜は夢のように過ぎたー。大資産と才気、家柄、すべてを持った青年の驚愕の告白とは。総裁選の真実、大馬主が体験した運命の勝負、そしてアメリカ人退役軍人たちの「もう一つの戦い」。金と名誉を得た者だけが味わう甘美と戦慄を、浅田次郎が精緻に織り上げた傑作短編集。
【目次】
宰相の器/終身名誉会員/草原からの使者/星条旗よ永遠なれ

<読む前の大使寸評>
浅田さんの傑作短編集とあれば、まず「外れ」はないだろうし、期待できそうやでぇ♪

<図書館予約:(9/05予約、9/13受取予定)>

rakuten草原からの使者 沙高楼奇譚



安倍さんの三選もあるかもしれないとの予想もあるが・・・
そんな政界うらばなしのような短編を、見てみましょう。
p15~18
<宰相の器> 
 燭台の炎に脂ぎった顔を晒したまま、鏑木は老紳士を見据えている。
「ひとこと申し上げたいのですが」
「どうぞ」
 と、老紳士はそらとぼけるように、乾いた掌を鏑木に向けた。
「世の中には、無駄飯を食って生きている人間は多いものです。要るも要らぬも、そういう人間が説教をたれる資格はありません」

 鏑木の顔からは、ずっと絶やすことのなかった笑みが消えていた。
 女装の主人がとっさに話題を転じた。
「そういえば、あのときの総裁選は意外な結果に終わりましたね。下馬評では、主流派の芝大三郎さんと、若手議員にかつがれた党幹事長の龍岡完次さんの一騎打ちということでしたのに、何だかわけのわからないうちにダークホースの清水谷先生が総理におなりになった。今から考えましても、狐につままれたような気がいたします。わたくしなど、全社を挙げて龍岡先生を応援しておりましたのよ。そりゃあもう、このビル一棟分ぐらいのご助力はいたしましたのに」

 まるで地唄舞の振りのように、女装の主人がそう言って艶やかに扇を翻すと、室内にはつかの間の笑い声が満ちた。
「それはお気の毒に。実はかく申し上げる僕も、柴先生のご支援をいたしておりましてね。さきほどの悪態は、やはりビル一棟分ほどの恨み節なのです。そのようなわけですから、どうぞお気になさらずに」

 老紳士が微笑みかけると、鏑木もようやく笑顔を取り戻した。
「その節は、とんだご迷惑をおかけいたしました」
「いや、今さら君に頭を下げられても始まらん。まったくあの総裁選の結果は、いまだに合点がいきませんな。龍岡さんに負けるならともかく、清水谷が総理だなどと、呆れて物も言えん」
「その弁解を、話の続きにお聞き下さい」
 笑い声は剣で薙ぐように静まった。

 あの年の総裁選は、立候補届出の前から一騎打ちの様相を呈しておりました。
 柴大三郎は初の出馬ですが、閣僚経験も当選回数も豊富で、いかにも順番が回ってきたという感じでしたな。
 一方の龍岡完次は、若手議員の後押しはあるものの閣僚経験に乏しく、議員としての派閥も傍流に属するものでした。

 しかし、いざ票読みをしてみますと、これがなかなか手強い。龍岡さんもやはり二世議員なのですが、生来押しの強い性格で、何よりもリーダーシップを求める議員たちに期待あれていた。全国の党員の人気を公平に判断すると、これはもう龍岡さんの圧勝です。
 そのうえ、主流派の中から何人かの離党者と派閥離脱者も出まして、票の行方はまったくわからなくなった。

 何しろ柴先生は、二十代での初当選以来、65歳の今日まで選挙に負けたことがない。それが乾坤一擲のこの正念場で、票が読めぬと知ってすっかり怖気づいてしまったのです。
 みなさまもご承知の通り、総裁選挙には途方もない金が飛び交います。立候補予定者のうち、話題作りのような感じで出馬表明をした清水谷先生は、最初から危ない橋を渡る気はないのですが、柴先生と龍岡先生はいわゆるガチンコ勝負です。わかりやすく言うなら、これで負けたら無一文どころか、財界の支援者たちに大変な不義理をすることになる。二度目はない、と言ってもいい。つまるところ、負ける戦なら出ないほうがいいに決まっているのです。

 不出馬を表明して相手に道を譲れば、相応の見返りもあり、交渉次第では次なる禅譲の密約をかわすこともできる。もっとも、そういう見返りや密約は、あんがい裏切られることも多いのですが。
 勝利を信じて出馬すべきか、ここは涙を呑んで次の好機を待つべきか。

 ところでこの決断は、一にかかって先生ご本人にある。なぜかといえば、いったんチャンスがめぐってきた以上、取り巻きはみな、やめろという消極的意見は口にできないからです。それを言ったら最後、側近としての足場をなくしてしまう。早い話が、当落の予測などは一切眼中になく、行け行けと誰もが言う。

 無責任なものですな。総選挙ならばともかく、総裁選に落ちて困るのはご本人ひとり。当選すればみんなが政権のブレーンになれる。そういう責任負担からしても、周囲は全員口を揃えて、行け行けですわ。


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