『歓待する文学』1

<『歓待する文学』1>
図書館で『歓待する文学』という本を手にしたのです。
小野正嗣が選りすぐりの作品について十三回の放送で紹介する構成であるが、取りあげた作品が、ええでぇ♪


【歓待する文学】


小野正嗣著、NHK出版、2018年刊

<「BOOK」データベース>より
文学は私たちの心にどう入り込み、個人の生活や社会に影響を与えるのか。芥川賞作家である著者が欧米、アフリカ、中東、アジアの選りすぐりの作品を紹介。書き手がどのような土地に根ざし、どういう言語で作品を生み出したのか、それが読み手にどう作用するのかを探る。

<読む前の大使寸評>
小野正嗣が選りすぐりの作品について十三回の放送で紹介する構成であるが、取りあげた作品が、ええでぇ♪

rakuten歓待する文学




多和田葉子『雪の練習生』が語られているので、見てみましょう。
p124~126
<第9回 文学は獣も人も自由にする>
 2017年2月にJapan Nowという日本の文化を紹介する大きなイベントがイギリスで開催されました。日本から招かれた作家の一人として僕も参加しましたが、
そこで多和田葉子に会いました。

 ちょうど彼女は、ドイツ政府から派遣されてオックスフォードに滞在いているというおとで、Japan Nowのロンドンでのイベントに合流したのでした。大英図書館に付属するホールで開催されたイベントで、彼女は英語で自作について語りました。

 休憩時間(そういえば多和田には『球形時間』という作品があります)に、言葉を交わしたイギリス人聴衆が、「彼女の英語はドイツ語の訛りがあってチャーミングだ」と言っていたのが印象的でした。その話のなかで彼女が話していたのは英語に訳されたホッキョクグマの物語でした。

 その数ヵ月前、僕はフランスのアルルにいました。アルルには国際文芸翻訳センターがあります。世界中から翻訳者たちが一定の期間滞在して自身の仕事をするレジデンス制度を実施すると同時に、地域住民に開放した作家の労働会をやっています。僕は若手翻訳者のためのワークショップ・プログラムの講師として参加したのですが、到着してすぐに多和田葉子の朗読会が行われたことを知りました。

 多和田葉子の翻訳者がフランス語で、多和田葉子は原語であるドイツ語で朗読し、素晴らしいパフォーマンスであったと、翻訳センターのスタッフが目を細めて嬉しそうに語っていました。何を読んだのですか、と尋ねると、ホッキョクグマの話よ、とそのスタッフっは答えました。そうです、朗読されたのは、日本では『雪の練習生』として読まれている作品でした。

 それにしても多和田葉子はどこの国の作家なのでしょうか。彼女が日独両方の言語で執筆する作家であることは知られています。そして両国において高く評価されています。先に扱ったクッツェーの『マイケル・K』の着想の源になったのは、ドイツのロマン主義の作家クライストの『ミヒャエル・コールハース』なのですが、このクライストの名前を冠した文学賞を多和田葉子は受賞しています。日本の近代文学史を考えたときに、このように二つの言語のあいだを往き来しながら書く作家はいなかったと思うのです。その意味でも多和田葉子はとても例外的な存在です。

 多和田葉子は非常に多産な作家ですが、数ある作品のなかでも『雪の練習生』は代表作のひとつと言っても過言でないでしょう。

『雪の練習生』という謎めいたタイトルでhわかりませんが、これがホッキョクグマの物語であることは、外国語訳のタイトルでは明示されています。英訳はずばり、Memoirs of a Polar Bearです。つまり「ホッキョクグマの回顧録」。ちなみに、フランス語訳と同様にこれもドイツ語からの翻訳です。

 そのフランス語訳のタイトルは、Histoire de Knutで、「クヌートの物語」となります。フランス語訳の紹介を見ると、この小説が実在のホッキョクグマの話に着想を得ていることが明記されています。

 クヌートは2006年生れのホッキョクグマで2011年に亡くなるまでベルリン動物園の人気者でした。生れてすぐに、東ドイツのサーカスで曲芸をしていた母熊に育児放棄されて、飼育員たちによって育てられました。
『雪の練習生』は、このクヌートに至る三代のホッキョクグマの物語です。

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