『定価のない本』1

<『定価のない本』1>
図書館へ予約していた『定価のない本』という本を、待つこと約7ヶ月でゲットしたのです。
古書店主の死から、戦後日本に潜む陰謀を炙りだすってか・・・面白そうである。


【定価のない本】


門井慶喜著、東京創元社、2019年刊

<「BOOK」データベース>より
神田神保町ー江戸時代より旗本の屋敷地としてその歴史は始まり、明治期は多くの学校がひしめく文化的な学生街に、そして大正十二年の関東大震災を契機に古書の街として発展してきたこの地は、終戦から一年が経ち復興を遂げつつあった。活気をとり戻した街の一隅で、ある日ひとりの古書店主が人知れずこの世を去る。男は崩落した古書の山に圧し潰されており、あたかも商売道具に殺されたかのような皮肉な最期を迎えた。古くから付き合いがあった男を悼み、同じく古書店主である琴岡庄治は事後処理を引き受けるが、間もなく事故現場では不可解な点が見付かる。行方を眩ました被害者の妻、注文帳に残された謎の名前ーさらには彼の周囲でも奇怪な事件が起こるなか、古書店主の死をめぐる探偵行は、やがて戦後日本の闇に潜む陰謀を炙りだしていく。直木賞作家の真骨頂と言うべき長編ミステリ。

<読む前の大使寸評>
古書店主の死から、戦後日本に潜む陰謀を炙りだすってか・・・面白そうである。

<図書館予約:(1/12予約、7/22受取)>

rakuten定価のない本


この本の冒頭あたりを、見てみましょう。
p10~12
<1 本に殺された> 
 芳松が、死んだ。
 という知らせを琴丘庄治が聞いたのは、昭和21年()8月15日、あの敗戦を告げる玉音放送のちょうど1年後のことだった。

 庄治は、神田神保町の自宅にいた。
 茶の間のまんなかにあぐらをかいて、朝めし代わりの水(ただの水)をどんぶり鉢でごくごく飲んでいた。そこに妻のしづが来て、その忌まわしい第一報をとどけたのであった。「芳松が?」

 庄治はどんぶりを置き、声を放って笑った。
「まさか。あいつは俺より五つ下、まだ三十になったばかりだ。持病もないし、戦傷もないし、あの商売繁盛ぶりじゃあ栄養失調なんてあり得ない」
「ほんとなんです」

 しづは庄治の向かいにすわり、まるで周囲に百万の公衆がいるかのように声をひそめて、
「圧死ですって」
「圧死?」
「何でも倉庫で寝てたら、まわりの本箱から本がどっと落ちてきて・・・あたしいま、そこの四つ辻でタカさんと会ったんです。タカさんはお前さんに助けてほしくて、ちょうどうちへ来るところで」

 タカというのは、芳松のおない年の妻。しづの話がほんとうならば未亡人と呼ばねばならぬところだが、その人となりを庄治はあまり知らない。ただ芳松とおなじ青森県北津軽郡五所川原町の出身で、親どうしが遠い親戚にあたるのが縁となって、お見合いで結婚したというどこにでもある話を聞いたことがあるくらいだった。

「とにかくタカさん、うちの前で待ってるんです」
「よし」 
 庄治は立ちあがり、水でふくれた腹を手でなでて、
「それじゃあ、まあ、芳松の死に顔をおがんでやるか」

 軽い口調。庄治は鼻歌さえ歌っていた。どうせ二、三冊頭にぶつかっただけだろう。だいたいしづは、いつも話が大げさなんだ。
 しかしタカに連れられて神田猿楽町の倉庫へ行ってみると、庄治は、
「よ、芳松・・・」

 現実をみとめざるを得なかった。
 倉庫は平屋。もともと誰かの木造住宅だったもので、「マッチ箱」と陰口をたたかれるほどの安普請ながら、空襲を受けずに残ったのを、最近、芳松が買い取ったのだった。

 その玄関を入ったところの四畳半に、芳松はあおむけになっている。
 胴はすべて本の山で覆われていて、頭と、肩の一部と、両脚のひざから先だけがかろうじて外気に接していた。顔は、何しろ背丈ほどの本の山の向こうにあるから見づらいが、くわっと目を見ひらいている。ほとんど即死と見受けられた。

「芳松。お前は、本に殺されちまった・・・」 
 本はみな洋装本。つまり一般の人々がふつう、
「本」
 と言われたとき、まっさきに思い浮かべる物体だった。

柳田國男『蝸牛考』。アリストテレス『ニコマコス倫理学』。『大百科事典』全28巻。『日本経済大典』全54巻『国訳漢文大成』全88巻。
・・・どれもこれも堅牢な表紙、裏表紙、および背で保護された数百枚の紙のたばだ。紙の1枚1枚はぺらぺらだけれども、数百枚がかさなれ、カタン糸で綴じ合わされると、鉄石さながらの固さになる。



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