『作家の旅』3

<『作家の旅』3>
図書館で『作家の旅』というビジュアル本を、手にしたのです。
コロナ・ブックスというシリーズであるが、全編にわたってカラー画像満載でありこれぞ太子好みのビジュアル本でおます。


【作家の旅】


平凡社編、平凡社、2012年刊

<「BOOK」データベース>より
日本人になったギリシア人、魔都・上海、移動写真館、草競馬、バスでひまつぶし、金沢グルメ、放浪、沖縄島唄、イラスト地図、フローラ逍遥、イタリア歩き…作家15人の旅路。
【目次】
ラフカディオ・ハーン 小泉八雲/萩原朔太郎/林芙美子/村松梢風/寺山修司/山口瞳/田中小実昌/吉田健一/種田山頭火/宮脇檀/竹中労/春日井建/堀内誠一/澁澤龍彦/須賀敦子/記憶のお土産

<読む前の大使寸評>
コロナ・ブックスというシリーズであるが、全編にわたってカラー画像満載でありこれぞ太子好みのビジュアル本でおます。

rakuten作家の旅


林芙美子のわりと豪快な旅情を、見てみましょう。
p26~27
<自分で稼いだお金でパリに行く:川本三郎>
 昭和5年(1930)、はじめての小説『放浪記』が思いもかけず大評判となり、それまでの貧しい暮らしが嘘のように印税でうるおった林芙美子は、翌6年、フランスへと旅立った。

 憧れの地である。当時、日本からフランスへは船で行くのとシベリア鉄道で行くのと二つの方法があったが、林芙美子はシベリア鉄道を選んだ。そのほうが旅費が安いから。いくら『放浪記』がよく売れたからといって、28歳の新人作家に経済的余裕があるわけではない。しかも前年から始まった大恐慌のため世の中の景気は悪い。経費は切りつめなければならない。

 日本人にとって海外旅行など夢のまた夢だった時代、若い女性がフランスに行く。大変なことである。貧乏のなかで育った林芙美子は海外旅行をするにあたっても、つねにお金のことを考えたに違いない。

 国の留学生だった森鴎外や夏目漱石とも、親の援助があった永井荷風の海外留学ともまったく違う。若い女性が、自分で稼いだ金で海外に行く。自立した旅である。林芙美子のパリ行きはそこに大きな特色がある。あの時代、若い女性がよくぞ敢行したと思う。大仰でなく快挙である。

 しかも、基本的にはひとり。シベリア鉄道にも一人で乗った。さすが『放浪記』の作者と感嘆する。

 パリには昭和6年の12月から翌7年の5月まで滞在した(途中、約1ヵ月ロンドンに行っている)。

『林芙美子全集 第4巻』の「巴里日記」(昭和52年)によると、林芙美子のパリ暮らしは、無論、贅沢なものではない。庶民的なホテルやアパルトマンで暮らす。
 キッチンが付いている部屋なので自炊を心がける。町に出て、市場の商店街を歩き、魚屋や八百屋をのぞく。肉屋の店先に牛の頭が並んでいるのにびっくりするのが可愛い。

 ピエモントというイタリア産の米を買ってきて、それを炊いて、魚屋で見つけたイクラと食べる。おにぎりを作る。林芙美子は料理好きだからこういうことが苦にならない。

 近代日本にとってフランスは、英米、ドイツに比べて魅力のない国とされていた。とくに普仏戦争に敗れてからは、富国強兵を目ざす日本のお手本にはならなくなっていた。

 しかし大正から昭和にかけて、フランスは芸術の国として、画家や文学者には憧れの国になってきた。林芙美子は一時は画家になりたいと思っていたほど美術好きだった。だから自然に「フランスに行きたい」と夢みた。林芙美子は永井荷風を敬愛していたが、それも永井がフランス文学者だったからだ。荷風の『ふらんす物語』をぼろぼろになるまで読んだ。フランスへの憧れは深いものがあった。

 だからパリの暮らしではよく町を歩く。なんと着物で下駄をはいてというのが、また型破りで面白い。林芙美子は身長が142センチしかなかった。フランス人から見れば子供だったろう。カフェの主人に可愛がられたことが目に浮ぶ。

 フランス語の勉強がしたいと学校に通うが、さすがにこれは長続きしなかったようだ。節約をしながらも、音楽会に行き、美術展にも通う。セーヌ河畔の古本屋でコローの画集を50円(当時のサラリーマンの1ヵ月分の給料)で買う。芸術のためにはケチをしないのが好ましい。

 異国での半年のひとり暮しのために、疲れと栄養不足から夜盲症になったりもするのだが、昭和のはじめ、海外旅行がまだ珍しかった時代に、若い作家がこんな、自前の、自立した旅をしたことには頭が下がる。

『作家の旅』2:須田敦子の説く旅情
『作家の旅』1:記憶のお土産

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