『山藤章二・昭和よ』3

<『山藤章二・昭和よ』3>
山藤さんのエッセイ集ということだが、ぱらぱらめくっても挿絵がいっさいないのです。・・・つまり、エッセイだけで読ませる内容なんでしょうね♪


【山藤章二・昭和よ】


山藤章二著、岩波書店、2019年刊

<「BOOK」データベース>より
元号がかわる節目を迎え、平成への思いを綴ろうとしたけれど、脳裏に浮かぶのは昭和の出来事ばかりー。昭和十二年に生まれ、戦争、復興からバブル景気まで、激動の時代を生き抜いた著者は、「私の芯の部分は昭和という時代によって培われた」と語る。本書では、昭和を振り返りながら、八十二歳のいま思うことを、おなじみの一人語り調で、包み隠さず書き下ろす。ユーモラスで、とりとめのないようだが、時代を読み解く感性の鋭さが、随所に光るエッセイ集

<読む前の大使寸評>
山藤さんのエッセイ集ということだが、ぱらぱらめくっても挿絵がいっさいないのです。・・・つまり、エッセイだけで読ませる内容なんでしょうね♪

rakuten山藤章二・昭和よ



「見返り美人図」のパロディーを、見てみましょう。

<見返り老人図>p73~75
 そういえば、最近、私は反省ばかりしている。これは老境に入った人間に共通する心情なのか、個人的な資質なのかはよく解らないけど、気がつけばふり返ってばかりいる。
 菱川師宣がそばにいてくれたら、早速にスケッチして浮世絵に仕上げてくれるのだが、生憎と時代が違う。もっとも「見返り美人図」じゃ、広く売れるわけでもないし、切手にもならないが。何を反省しているのかというと、自分の歩いてきた道を、いささか誇張して人に伝えていることである。

 長期入院を期に再び仕事を続けた。八十歳からの現場復帰は分野を問わずあまり例のないことなので、一部のマスコミ人はそこに関心をもったのだ。インターバルの間に何か心境の変化というようなものがあったのか、休みの前と後とではどこがどう変わったのか、という類いのことをいくつか訊かれた。「人生の贈りもの」という、“語る自分史”とでも言うべきコラム欄に登場させて貰ったりもした(『朝日新聞』)。たぶん、八十歳からの再出発という椿事がこの人選に働いたのだろう。

 案の定、訊き手である記者はそのことに触れてきた。このコラムは、記者が作文することを少なくして、なるべく訊かれ手の活きた言葉を紙面に載せたいと、あらかじめ言われていたので、私も言葉を選んで答えないといけないと承知していた。本当は休載の前と後と言っても、同一人物がやっていることだから、そうドラスティックな変化などないのだが、正直に、「特別なことは何もないのです」じゃ、あまりに愛想が無さ過ぎる。ここはひとつ、嘘をついてでも新聞記者や読者の期待(?)に応えなくちゃいけないと思った。

 嘘と言ってしまったら身も蓋もない。心の中に思ってもみなかったことを伝えたら百パーセントの嘘である。そうではなく、脳内に去来するこの思いをどう伝えたら訊き手がホゥ、と思ってくれるかなと、懸命に考えた。

「そうですねぇ、変化と言っても私自身の中で起きている小さな変化で、作品上できらかに違うような大変化ではないのです。で、あえて申し上げれば、視点の変化ですかね。ブラック・アングルというのは基本的に時事漫画のページですから、なるべくホットな話題をギリギリまで待って、ネタにする、というリズムがあって、それを四十年間続けてきたのです。それはそれで風刺漫画としての社会的使命を果してきたと思います。

 そこで越妙なタイミングで長期入院と相なった。まるで神様が見ていてドクターストップならぬゴッドストップがかかったというわけです。座りっ放しで仕事をしてたもんだから膝に来たんです。「変形性膝関節炎」というのが正式の病名です。膝の軟骨がすり減っていまったことから来る、老人の症状です。あ、病気の説明じゃなかった、筆者としての心境の変化でしたね。はい、わかりました。

 えーと、視点の変化という所まで話をしたんでしたね。ええ、大丈夫ですよ、認知症の方は。こうして前に話した所まで覚えているくらいだから脳は大丈夫です。は? 以前よりむしろ明瞭になってます、だって? ああた、それは言い過ぎですよ、脳はボケていませんけど、前より良くなっている、なんてことはありません。運転免許証、ちゃんと七十五歳のときに返納しましたけど」


 百日間の入院で私の中になにがしかの変化があったことは確かなので、それを表現しなければならない、端的に、解りやすく・・・。
「そうねぇ、変化を説明すると・・・、いままでは世の中や人物を虫の眼で見ていたのに対し、休暇の後は鳥の眼で見るようになった、ということですかね」。言ったあとで、我ながらうまい言葉を見つけたなと思った。これなら、訊いた方も解ったような解らないような、それでいて整理された表現ではないか。哲学者が吐いた明言はみな短いではないか。


『山藤章二・昭和よ』2:四字熟語
『山藤章二・昭和よ』1:人生の贈りもの

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