『尼僧とキューピッドの弓』

<『尼僧とキューピッドの弓』>
図書館に予約していた『尼僧とキューピッドの弓』という本を待つこと3日で超速ゲットしたのです。
地元の図書館所蔵で、予約ゼロの場合は、やはり超速ゲットになるんでしょうね。



【尼僧とキューピッドの弓】


多和田葉子著、講談社、2020年刊

<「BOOK」データベース>より
ドイツの田舎町に千年以上も前からある尼僧修道院を訪れた「わたし」は、家庭を離れて第二の人生を送る女性たちの、あまり禁欲的ではないらしい共同生活に興味が尽きない。そんな尼僧たちが噂するのは、わたしが滞在するのを許可してくれた尼僧院長の“駆け落ち”という事件だったー。紫式部文学賞受賞作。

<読む前の大使寸評>
地元の図書館所蔵で、予約ゼロの場合は、やはり超速ゲットになるんでしょうね。
なお、手にしたのは2010年刊のハードカバーでした。

<図書館予約:(6/03予約、6/06受取)>

rakuten尼僧とキューピッドの弓


この本の冒頭の語り口をちょっとだけ、見てみましょう。
p7~9
 わたしは気がつくといつも、他に歩行者のいない道をたった一人、歩いている。一両編成の電車が小さな駅に着いた時には、他にもニ三人降りた人がいたはずだが、ひらりと姿を消してしまった。おそらく駅の裏に駐車場があって、そこに車をとめておいたか、車で誰かが迎えに来ていたのだろう。

 駅から自宅へ、自宅から職場へ、商店街へ、いこいの森へと、いつも車で移動する町の住人たちは、出発点と目的地の間に無限に広がる荒れた地帯を目にすることはないおだろう。野原の柔らかい緑が戻ることはもうないが、だからと言って都市の賑わいもない、工業化のしくじりで、いじくられて荒された中途半端な土地をわたしは一人とぼとぼ歩いて行くのである。

 左手に倉庫のように大きな家具店が現れた。地価が安いのか、地味な長椅子や食卓を雑然と並べているが、客の気配はなく、店員がいるのかどうかさえ分からない。右手に飲み屋が一軒あり、入り口の扉が少しあいていた。昼間なのにかなり暗い店内で、硬貨を飲み込んでは噛み砕いていく遊戯機械の電光がチカチカ点滅し、機械が一人遊びでもしているのか、時々ガチャガチャ音がする。

 立ち止まって見ていると、イタチのような男が奥から出てきて外の様子をヌッとのぞいた。目が合ったので、わたしはあわててその場から逃げた。男の視線は、客を待つというよりは、敵を待つ視線だった。

 W市は、ハンブルグとブレーメンとハノーヴァーを線で結べばできるはずの三角形の真ん中にあるが、この三角形が正三角形でないことは誰にでも想像のつくことであり、そういう三角形に本当の中心点があるのかないのかは、わたしには解らない。あるかないか分からない中心点に達するのに時間がかかるのは無理もない。

 W市の人口は二万四千人と言われるが、住人の多くが町中ではなくまわりの村々に散らばって住んでいるそうで、町そのものは小さいと聞いていた。ニーダーザクセン州で育った人間なら、子供の頃、不思議な鳥たちを世界中から集めたこの町の鳥公園に遠足に行ったことがあるかもしれないが、他の州の住人はこの町の名前さえ聞いたことがないのが普通だろう。

 駅の脇から町中へ向かう道路はかすかに下り坂になっているので、かなり遠くにある交差点までよく見える。その交差点を左に入れば教会があると聞いていた。途中どこかで道路を左に渡ろうとしてみたが、町は小さくても道路は渡る隙を与えないほど交通量が多く、結局、渡れないまま交差点のところまで来てしまった。そこで信号が青になるのを待って渡って左の道に入ると、駐車場のあるかなり大きな教会が姿を現わした。

 わたしの目指す修道院はこの教会に身を寄せているはずだったが、教会のまわりを一周しても修道院の入り口らしきものは見あたらない。教会のまわりをうろうろしているうちに、自分が空き巣のように見えはしないかと心配になってきた。道に人影のない町ほど、自宅の窓から退屈しのぎに外の様子を監視している人間の数は多い。

 捜しているうちに自分が何を捜しているのか忘れ、教会のまわりをただゆくりとまわっていた。はたと気づくと、修道院の表札の前に立っていた。門の前にまだ新しい箪笥と長椅子が捨ててあった。誰か死んだのか、それとも引っ越ししていっただけだ。
 透かし模様の鉄門をきしませて押し開け、修道院の敷地に踏み入った途端、お天道様の光がぎゅっと濃くなって、耳のまわりが静まりかえった。暖かい静けさだった。


「わたし」は修道院で出合った尼僧たちに、密かに名前をつけるのだが・・・
透明美、貴岸、老桃、陰休という名前など、なかなか多和田流の趣きがあるのです♪

多和田流の造語といえば、なんと言っても“パンスカ”がすばらしい・・・
すなわち汎スカンディナビア語である。パンスケに近い発音に衝撃を覚える太子でおます。

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