『某』2

<『某』2>
図書館に予約していた『某』という本を、待つこと5ヵ月ほどでゲットしたのです。

この本は小川洋子さんが『博士の本棚』で奨めていたので、即、図書館予約したものです。
この本はSFではなくてファンタジーのようですね。太子の好きなジャンルとはいいがたいが・・・とにかく読んでみるか。


【某】


川上弘美著、小学館、2019年刊

<「BOOK」データベース>より
名前も記憶もお金も持たない某は、丹羽ハルカ(16歳)に擬態することに決めた。変遷し続ける“誰でもない者”はついに仲間に出会うー。愛と未来をめぐる、破格の最新長編。

<読む前の大使寸評>
この本はSFではなくてファンタジーのようですね。太子の好きなジャンルとはいいがたいが・・・とにかく読んでみるか。

<図書館予約:(10/27予約、4/05受取)>

rakuten


文夫時代の一部を、見てみましょう。
p93~95
<文夫> 
 丹羽ハルカと野田春眠と、山中文夫がきれいに溶けあった今の自分の状態は、いったいどんな感じなのかと、蔵医師はしばしば聞く。
「こう、ジグソーパズルが全部はまって絵があらわれたような感じ、とか?」
「ちがいます」
「じゃ、どんななの」
「でこぼこが、少し平らになったような感じ、かな」
「そういえば、山中文夫特有の、機械っぽい喋りかたじゃなくなってるよね、最近」
 と指摘したのは、水沢さん。

「じゃあ、今の自分は、前の自分にあらず、なのかな」
「だとすると、名前、変えてみる?」
 と、蔵医師。

「でも、外見は変わってません」
「じゃあ、そろそろ違う人間になってみたら?」
「いえ、まだしばらくは、山中文夫で」

 今までの全部の自分がきちんと統合された体の目で見る世界は、ほんの少し、以前の山中文夫だけだった世界よりも、にごっている。そのにごりが、自分には面白い。学校という場所は、怖い場所だ。さまざまな恐怖心や、敵愾心や、自意識や、思いがけないくらい大きなエネルギーが、そこいらじゅうに満ちている。にごった景色の中で、うずまいている。

「如月さんは、好きな人とか、いるんですか」
 ある日聞いてみたら、如月さんは、じっと自分の顔を見た。

「なあに、あたしのことが、好きになったの?」
「いいえ」
「なんだ」
「で、いるんですか」
「いない。あたし、ほんとは男が嫌いなの」
「じゃあ、女で好きな人がいるんですか」
「女も、あんまり好きじゃない」
「なるほど」
 なるほど、じゃないわよ。如月さんはつぶやき、ふん、という顔をした。人間が好きじゃないから、如月さんは苦しそうな笑いかたをするのか、と、納得しかけたが、それも違うような気がした。

「でも、芦中先生は、けっこう好き」
「恋愛ですか」
「ちがう。あの人、なんか、人のことあんまり見てないから、楽なの」
「教師としては、それは欠点ではないでしょうか」
「そうかもね」

 山中文夫が次の者に変化するのは、翌年の三月である。年度の変わり目だから、今がちょうど都合いいんじゃないの。蔵医師が言うので、そんなものかと軽く思い、山中文夫の次の者になることにしたのだ。今までだって簡単だったのだから、次も簡単なのだと、その時は高をくくっていた。とんでもないことだった。

『某』1:冒頭の語り口

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