『カザアナ』2

<『カザアナ』2>
図書館に予約していた『カザアナ』という本を、待つことおよそ半年でゲットしたのです。

おお 監視社会化の進む閉塞した時代という近未来がどんなものか・・・興味深いのです。


【カザアナ】


森絵都著、朝日新聞出版、2019年刊

<「BOOK」データベース>より
平安の昔、石や虫など自然と通じ合う力を持った風穴たちが、女院八条院様と長閑に暮らしておりました。以来850年余。国の規制が強まり監視ドローン飛び交う空のもと、カザアナの女性に出会ったあの日から、中学生・里宇とその家族のささやかな冒険がはじまったのです。異能の庭師たちとタフに生きる家族が監視社会化の進む閉塞した時代に風穴を空ける!心弾むエンターテインメント。

<読む前の大使寸評>
監視社会化の進む閉塞した時代という近未来がどんなものか・・・興味深いのです。

<図書館予約:(9/21予約、3/18受取)>

rakutenカザアナ



敵方の大将とでもいう人物を、見てみましょう。
p169~172
<3>
<日野章人。72歳。参考ナンバー5668>
<財務官僚の父親と旧華族の血を継ぐ母親の長男として生れ、東京大学法学部を卒業後、22歳で当時の通商産業省へ入省>
<25歳で官房総務課総括係長に就任>
<28歳で米国スタンフォード大学へ留学>
<30歳で経済産業省産業技術政策課長補佐に就任>
<31歳で日銀幹部の一人娘と結婚>
<43歳で大臣官房秘書課長に就任>
<49歳で産業技術環境局長に就任>
<56歳で観光省観光産業局長に就任>
<65歳で退官し、景勝特区審議会の会長に就任>

 大人の女は一人で戦う。
 日一日と近づいてくる夏祭りに備え、毎日のように額を突きあわせている藤寺を守る会の四人をよそ目に、私はまず敵の身辺調査から開始した。

 ヒショに浚ってもらった経歴が物語るのは、逆風のかけらも感じられない順風満帆な人生だ。いい家に生まれ、いい大学を卒業し、いい省へ入省。キャリア組としてトントン拍子に出世を重ね、事務方トップの座は逃しはしたものの、その代償とばかりに景特審の会長の座を射止めている。

 では、その人となりはどうなのか?
 表のデータが讃える十全十美の人物像に納得のいかない私は、顔なじみの情報屋を飲み屋へ誘って突っこんだ裏話を探った。

<官僚時代の日野は絶対に損をかぶらないことで有名だった。如才なく経ちまわり、言葉巧みに相手を誘導するのが得意。首を斜めにふらせたら右に出る者がいなかったが、その一方で、失敗を押しつけられた部下たちからの恨みも買っていた>
<日野が要領よく天下った景特審の委員は九割方が元観光省職員で、非常勤でありながらも驚くほどに高給。そもそも景特審自体、省員の天下り先を増やすために新設されたとも言われている>
<景特審の委員には評判の悪い輩が多い。視察を名目に各景勝特区を繁く訪ねては、現場を知らないエリート目線で居丈高にふるまい、破格の接待を受けている。各企業からの袖の下も常態化している>
<会長はほとんど名誉職であり、月例会議以外での日野はもっぱら会食や接待ゲートボール、各催しでの貴賓の挨拶に明け暮れている。基本、出たがりの日野はスピーチが長いので有名。内容はもっぱら説教と身内の自慢話>
<ヌートリアの攻撃予告が撒かれた四日後、日野は突如、夏祭りと同日にホノルルで開催される「海と珊瑚の国際会議」への参加を表明した。海と珊瑚に何の用があるのかと疑問視されるも、誰も面と向かって意見はできずにいる>

 72の歳まで公職に仕え、こつこつ忠勤を尽してきた十文字さんが、なぜこんな男に足蹴にされなければならないのか。
 日野の華々しい経歴ならびに禍々しい裏側を知るほどに、私の怒りはふつふつと高まった。
 おそらく出世コースをたどる人間には天賦の危機回避能力があり、巧みに得を拾い、難事から身をかわす術に長けているのだろう。あるいは、難事を他者に被せる術に。

 が、今回ばかりはそうはさせない。藤寺夏祭りの開会のスピーチは日野が引きうけた仕事だ。
 では、どうやって日野にそれを履行させるのか。
 具体的な方法を考えると、これがなかなか難しい。まがりなりにも日野は国策を担う諮問機関のトップだ。参考ナンバー最底辺の私ごときがたやすく近づける相手ではないし、たとえ近づけたところで直球の抗議が通用するとも思えない。

 では、どんな変化球が可能なのか。
■日野に開会のスピーチをさせる方法。
 夏祭りまであと十日に迫ったある晩、無為に過ぎていく時間に焦りをおぼえた私は、頭の整理もかねて考え得る手段を紙に書きだした。仕事に行きづまったときにもよく使う手だ。国が堂々と国民を監視しはじめてこの方、洩れたらまずいメモには電子媒体ではなく、必ず紙を用いてる。

■日野の不要なホノルル出張を海外メディアに暴かせ、国際世論に訴える。
 書いているそばから、これはないなと筆圧が鈍った。日常茶飯事のテロに翻弄されている海外メディアが食いつくほどのネタではないい、たとえ運よく報じられたとしても、国際世論と国内世論のあいだには深い断絶がある。いにしえブーム以降の日本人はどんどん内向きになって、海外からの声に耳を傾けなくなっている。

■電子媒体で告発記事を発信し、国内世論へダイレクトに訴える。
 これもすこぶる難しい。現体制に批判的な文章は、たとえ発信したところで即刻、社安局のネット巡回に削除されてしまうし、悪くすれば引っぱられる。そもそも、後発文によって日野のイメージを損ねたところで、開会のスピーチには直結しない。

■野党議員に相談して協力を乞う。
 書いた先からこれにもバツをつけた。野党議員は何人か知っているものの、少数すぎる彼らにはもはやなんの力も気概もなく、与党からも官僚からも徹底的になめられている。
■ヌートリアに頼んで告発文を上空からばらまいてもらう。
 これはちょっと楽しそうだ。が、現実的ではない。こんな依頼ができるようなヌートリアとのパイプがあるならば、まず藤寺への攻撃をやめてくれと頼む。

■日野の弱みを握って脅す。
 姑息だ。というか犯罪だ。

■が、現実的だ。
 私は「現実的」の三文字を凝視した。結局のところ、私ひとりで為し得るのはこの程度かもしれない。スマートとは言いがたいけれど、この際、贅沢は言っていられない。


『カザアナ』1

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