吉岡桂子記者の渾身記事34

<吉岡桂子記者の渾身記事34>
朝日新聞の吉岡記者といえば、チャイナウォッチャーとして個人的に注目しているわけで・・・・
その論調は骨太で、かつ生産的である。
中国経済がらみで好き勝手に吹きまくる経済評論家連中より、よっぽどしっかりしていると思うわけです。
吉岡


朝日のコラム「多事奏論」に吉岡桂子記者の記事を見かけたので紹介します。
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2020年1月25日(多事奏論)新型肺炎「忖度」はウィルスを広げるより
 少し老けたが見覚えのある顔だ。
 中国で呼吸器疾病で有名な医師、鍾南山(チョンナンシャン)さん(84)である。感染が世界に拡大する新型コロナウイルスの調査に武漢市へ赴いた専門家チームのリーダーに就いていた。


 「ヒトからヒトへの感染が認められる」。習近平国家主席自らが封じ込めを指示した20日、国営放送の取材に対して当局が認めてこなかった懸念を初めて明言した。

 新型肺炎SARSと呼ばれていた重症急性呼吸器症候群が中国で蔓延した17年前。鍾さんは広州市の病院で治療にあたり、英雄視された。病診の正しさだけではない。実態を隠して幕引きを急ぐ政府に対して「医学的には抑え込んだとは言えない」と喝破した。地方政府などによるごまかしの手法も暴いた。「多くの同僚が倒れているのに、ウソはつけなかった」そうだ。

 当時、新米特派員として上海へ赴任したばかり。何が事実かわからない状況で取材していた私にも、印象深い人だった。
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 その鍾さんは、10年前の新型インフルエンザ騒動で再び登場した。各地を視察後、言った。「死者数の発表は信じられない。ごまかしている地域がある」「情報の透明性と公正さが感染拡大を防ぐ大前提」。彼は共産党員である。反体制というよりも、一人の医師、人としてのモラルを感じた。

 「なぜまた鍾南山なのか」――。
 前国家主席胡錦濤氏の出身母体でもある中国共産主義青年団の機関紙中国青年報がこんな見出しの論説を載せていた。「(公式発表を)疑い、監視し、追及し、自分の意見を持って判断しなければならない」。地方政府の情報隠しに手を焼く中央政府の嘆きが浮かび上がるようだ。

 そして、今回もまた、鍾さんだった。習政権は、人々に情報を信じてもらい、部下や地方政府にウソをつかせぬように彼の信用を使ったのだろう。過去の行動に裏打ちされた言葉だから人々に届く。習氏のお墨付きに安心したのか、この日を境に地方政府から発表される患者数が急増した。

 信用は人に宿る。権威や機械だけではつくれない。スマホの決済や位置情報から顔認証システムまで、感染経路を追う技術は格段に進化した。だが、どんなデータを集めようと結局は扱う人に左右される。
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 危機は政治を試す。胡・前政権の発足と重なったSARSは、伝染そのもの以上に情報隠しが強い反発を招いた。権力闘争が絡んで、政治的にも危機に直面した胡氏は実態を隠した幹部らを更迭し、鍾さんら良心的な医師や独自の情報を発信するメディアを評価してみせることで乗り切った。

 これをひとつのきっかけとして、普及期にあったインターネットが官製メディアを超えて新しい情報源として世論をより動かすようになった。ネットでつながった人々が当局とは距離を保ち、環境や教育などの市民活動に取り組む芽もでてきた。権威主義的な中国社会で、何かが変わるのではないか。そんな期待が生まれた時期である。

 だが、習政権のもとで逆回転している。言論の統制は強まり、ネットは監視の道具と化した。政治闘争を兼ねた腐敗退治は効果をあげたが、異論封じが体制内で過剰な忖度を招いている。国際社会における中国の影響力は、17年前の比ではない。情報の開示と共有はもちろん、独裁政権のトップが事態を誤認しないことの重要度は高まっている。習政権になって伝染病に限らず、何人の新しい鍾さんが生まれただろうか。

 自らの専門や担当する分野において、権力におもねらず自らの考えを述べることを積み重ねて信用を得た人の声は、いざというときに説得力を持って響く。逆に言えば、こうした人々の存在は、国家や組織の統治の危機管理としても必要なのだ。トップが目を背けたくなる事実を遠慮なく提示できる専門家は、社会の力だと思う。なにも、中国だけの話ではないけれど。(編集委員)

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多事奏論一覧に吉岡記者の中国論が載っています。
<吉岡桂子記者の渾身記事33>:2019年12月21日
<吉岡桂子記者の渾身記事32>:2019年11月23日






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