『献灯使』4

<『献灯使』4>
図書館に予約していた『献灯使』という本を待つこと10ヵ月ほどでゲットしたのです。
腰巻には「デストピア文学の傑作!」とあり、5編の短篇集となっています。期待できそうやでぇ♪



【献灯使】


多和田葉子著、講談社、2014年刊

<「BOOK」データベース>より
鎖国を続ける「日本」では老人は百歳を過ぎても健康で、子供たちは学校まで歩く体力もないー子供たちに託された“希望の灯”とは?未曾有の“超現実”近未来小説集。

<読む前の大使寸評>
腰巻には「デストピア文学の傑作!」とあり、5編の短篇集となっています。期待できそうやでぇ♪

<図書館予約:(12/09予約、10/13受取)>

rakuten献灯使

堀江栞

「献灯使」の続きを、見てみましょう。国際海賊団、言語の輸出入にふれたあたりです。
p110~112
<献灯使> 
 国際海賊団に入っている日本人たちは日本を無断で離れたため、もう帰国する権利がなない。「帰国するよりも、いろいろな国から来た同僚たちといっしょに海賊の仕事をしていた方が金も儲かるし命も安全だ」というとんでもない手紙を新聞に投稿した日本人がいた。それを読んで義郎は大声をあげて笑ってしまった。新聞がそういう投稿を載せるということは、言論の自由もまだトキみたいに絶滅したわけじゃないんだなとも思った。

 海賊組織なのでバイキングの伝統を誇るノルウェー人やスウェーデン人が活躍しているには何の不思議もないが、海に縁のなさそうなネパール人やスイス人なども参加しているそうである。日本人もかなりの比率で参加しているということは、鎖国の遺伝子など存在しないということだろう。

 南アフリカ政府はあらゆる海賊と断固として戦う姿勢を示している。義郎はこの間足を運んだ「サメの将来とかまぼこの未来」についての講演会で、国際海賊組織の話を聴いた。講演原稿には検閲がないのでナマの情報が耳に入ることがある。義郎は歩いていける十キロ範囲内で講演会があると必ず出掛けていく。講演会場はいつも満員だった。

 南アフリカとインドは、地下資源を暴力的なスピードで工業製品に変えながら安価を競うグローバルなビジネスからいち早く降り、言語を輸出して経済を潤し、それ以外のものは輸入も輸出もしないという方針をとっていた。南アフリカとインドは「ガンジー同盟」という名前の同盟を結び、世界の人気者になりつつあった。

 この仲のよいペアに嫉妬する国もいくらかあった。二国が喧嘩をするのはサッカーについてだけで、人間と太陽と言語に関しては意見がいつもぴったり一致していた。南アフリカとインドは、諸外国の専門家たちの予測に反して、経済的にどんどん豊かになっていった。

 日本の政策も、地下資源の輸入と工業製品の輸出をとりやめたところまでは同じだが、輸出できるような言語がなかったので、そこで行き詰まってしまった。政府は沖縄の言葉が日本語から完全に独立した一つの言語だという論文をお抱え言語学者に書かせ、中国に言い値で売りとばそうと企んだこともあったようだが、沖縄はそんなことは許さない。もしも沖縄の言葉を売り飛ばすつもりならば、これからは果物をいっさい本州に出荷しない、と強く出た。

 義郎の朝には心配事の種がぎっしりつまっているが、無名にとって朝はめぐりくる度にみずみずしく楽しかった。無名は今、衣服と呼ばれる妖怪たちと格闘している。布地は意地悪ではないけれど、簡単にこちらの思うようにはならず、もんだり伸ばしたり折ったりして苦労しているうちに、脳味噌の中で橙色と青色と銀色の紙がきらきら光り始める。寝間着を脱ごうと思うのだけれど、脚が二本あってどちらから脱ごうかどうしようかと考えているうちに、蛸のことを思い出す。もしかしたら自分の脚も実は八本あって、それが四本ずつ束ねて縛られているから二本に見えるのかもしれない。


更に読み進めました。
p118~120
「無名、まだ着替え終わってないのか。学校遅れるぞ」
 と言いながら、曾おじいちゃんが近づいてくる。激しい声を出そうとしているのは分かるけれど、ちっとも恐くない。

 無名の襟首から立ちのぼる子どもの甘い匂いを義郎は深く吸い込んだ。この匂いだ。娘の天南がまだ赤ん坊だった頃、抱き上げて顔を近づけるとこの匂いがした。それは女の子の匂いなのだと勝手に思っていたが、無名はこの匂いを濃厚に発散している。天南が大人になって飛藻を生み、ある時靴下を履かせてやってくれと頼まれて、りんごに袋を被せるみたいに靴下をはかせた時、子供の小さい足に激しいいとおしさを感じたことは今でも覚えている。

 しかし飛藻は、無名ほどいいにおいはしなかった。幼い飛藻の身体から発散されるにおいには、すでに泥と汗が混ざっていた。飛藻は小学校に入学する頃には靴下など無視して、裸足で運動靴の踵を踏みつぶして、「行って来ます」も言わずに勝手に外に遊びに行くようになった。落ち着きも思いやりもない子だったけれど体力はあった。

 無名が生まれて飛藻が戻ってきた時、「自分の子がかわいくないのか」と思わず陳腐な台詞を吐いてしまった義郎に対して、飛藻はその場の勢いで、「俺の子かどうか、どうしてわかる」と言い返した。義郎はどきっとした。売り言葉に買い言葉の口喧嘩で言ったことに真実を求めても仕方ないと思い、飛藻の言葉をすぐに忘却炉に投げ込んでしまったが、だいぶ後になって灰の中からささやき声が聞こえてきた。無名の父親が本当に飛藻なのかどうか、飛藻自身も自信がないのだということだ。

 無名の母親は、おしどりでもペンギンでもなかった。貞節という言葉も書けず、腰が軽く、浮気が日常、責められても上の空、罪の意識はなく、うわばみみたいによく飲む女でもあった。もうとっくに灰になっているので、無名の父親が誰だったのか訊きたくても訊くことができない。たとえ生きていたとしても、ひょっとしたら本人ももう覚えていないのかもしれない。

ウーム 元気な曾おじいちゃんは別にして、無名のすさまじい家庭環境である。

『献灯使』3:日本の鎖国
『献灯使』2:ナウマン像
『献灯使』1:冒頭の語り口


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