『献灯使』3

<『献灯使』3>
図書館に予約していた『献灯使』という本を待つこと10ヵ月ほどでゲットしたのです。
腰巻には「デストピア文学の傑作!」とあり、5編の短篇集となっています。期待できそうやでぇ♪



【献灯使】


多和田葉子著、講談社、2014年刊

<「BOOK」データベース>より
鎖国を続ける「日本」では老人は百歳を過ぎても健康で、子供たちは学校まで歩く体力もないー子供たちに託された“希望の灯”とは?未曾有の“超現実”近未来小説集。

<読む前の大使寸評>
腰巻には「デストピア文学の傑作!」とあり、5編の短篇集となっています。期待できそうやでぇ♪

<図書館予約:(12/09予約、10/13受取)>

rakuten献灯使



「献灯使」の続きを、見てみましょう。日本の鎖国にふれたあたりです。
p51~55
<献灯使> 
 義郎は、自分が孫に教えたことが間違っていたことを認めるしかない。「東京の一等地に土地があれば将来その価値が下がるということはありえない。不動産ほど信用できるものはない」と孫に言った覚えがあるが、一等地も含めて東京23区全体が、「長く住んでいると複合的な危険にさらされる地区」に指定され、土地も家もお金に換算できるような種類の価値を失った。

 個別に計った場合は飲料水も風も日光も食料も基準をうわまわる危険値がはじき出されることはないが、長期間この環境にさらされていると複合的に悪影響が出る確率が高い土地だということらしい。測量は個別にしかできないが、人は総合的に生きるしかない。

 危険だと決まったわけではないが23区を去る人が増え、それでもあまり遠くへは行きたくないし、海の近くは危険なので、奥多摩から長野にかけての地域に目を向ける人が植えていった。23区に相続した家と土地を売ることもできず、そのままにしているのは義郎の妻の鞠華だけではない。

 子孫に財産や知恵を与えてやろうなどというのは自分の傲慢にすぎなかったと義郎は思う。今できることは、曾孫といっしょに生きることだけだった。そのためにはしなやかな頭と身体が必要だ。これまで百年以上も正しいと信じていたことをも疑えるような勇気を持たなければいけない。誇りなんてジャケットのように軽く脱ぎ捨てて、薄着にならなければならない。

 寒さに襲われたら、新しいジャケットを買うことを考えるのではなく、熊のように全身にみっしり毛が生えてくるようにするにはどうすればいいのか考えた方がいい。実は自分は「老人」ではなく、百歳の境界線を越えた時点から歩き始めた新人類なのだと思って義郎は何度も拳骨を握りなおした。
(中略)

 義郎は外に立ったまま新聞を広げた。実は若い頃は新聞を読んでいなかったが、一度新聞というメディアが潰れて、あらためて復活してからは、新聞を隅々まで読むのが日課になった。政治欄の上を低空飛行すると、「規制」「基準」「適合」「対策」「調査」「慎重」などの穂先が目にささる。内容を読み始めると、沼にずぶずぶ入っていく。朝から新聞など読んでいてはいけない、まず無名を学校に送り出すことだ。「学校」という言葉にはまだかすかな希望が宿っているような気がした。

 新聞を玄関に置いて台所に戻り、義郎はしぼりたてのオレンジジュースを入れた細い飲み口の付いた竹のコップを無名に手渡した。
「オレンジは沖縄でとれるんでしょ」と一口飲んでから無名が訊く。

「そうだよ。」
「沖縄より南でもとれる?」
 義郎は唾を呑んだ。

「さあ、どうだろうね。しらない。」
「どうして知らないの?」
「鎖国しているからだ」
「どうして?」
「どの国も大変な問題を抱えているんで、一つの問題が世界中に広がらないように、それぞれの国がそえぞれの問題を自分の内部で解決することに決まったんだ。前に昭和平成資料館に連れて行ってやったことがあっただろう。部屋が一つずつ鉄の扉で仕切られていて、たとえある部屋が燃えても、隣の部屋は燃えないようになっていただろう。」
「その方がいいの?」
「いいかどうかはわからない。でも鎖国していれば、少なくとも、日本の企業が他の国の貧しさを利用して儲ける危険は減るだろう。それから外国の企業が日本の危機を利用して儲ける危険も減ると思う。」

 無名は分かったような、分からなかったような顔をしていた。義郎は自分が鎖国政策に賛成していないことを曾孫にははっきり言わないようにしていた。

ウン 百年以上も生きてきた義郎は、復活した新聞という紙媒体を愛好しているようです。この老人好みがええでぇ♪

『献灯使』2:ナウマン像
『献灯使』1:冒頭の語り口


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