『バルトン先生、明治の日本を駆ける!』1

<『バルトン先生、明治の日本を駆ける!』1>
図書館で『バルトン先生、明治の日本を駆ける!』という本を、手にしたのです。
今回のラグビーWカップで、英国出身のケルト人末裔たちをたくさん見たわけで・・・
このスコットランド人も、興味深いのです。


【バルトン先生、明治の日本を駆ける!】


稲場紀久雄著、平凡社、2016年刊

<「BOOK」データベース>より
謎に包まれたバルトン先生の全貌解明!帝国大学教授としてコレラ禍から日本を救うため、上下水道の整備を進める一方、日本初のタワー・浅草十二階の設計を指揮、さらに写真家として小川一真の師でもあったバルトン先生。彼の貴重な写真も多数収録。

<読む前の大使寸評>
今回のラグビーWカップで、英国出身のケルト人末裔たちをたくさん見たわけで・・・
このスコットランド人も、興味深いのです。

rakutenバルトン先生、明治の日本を駆ける!




「第7章 バルトン先生の登場」でバートン先生の訪日を、見ていきましょう。
p102~105
<美しい国 1887(明治20)年5月26日> 
 廊下を走る足音に、バートンはキャビンのドアを開けた。
 誰かが甲板で叫んでいた。
「富士山だ。富士山が見えるぞー!」
 バートンは、階段を駆け上がった。地平線の上に、白い雲を頂いた富士山が輝いていた。
 船は、大きな波に揺れ、舷側につかまらなければならなかった。
 “何と美しい国だろう”

 北斎の浮世絵『波浦の富士』を見て、憧れに似た気持ちを持っていたが、その光景がいま眼前に広がっていた。シドニー号は、一路東京湾を目指して走っていた。あと数時間で、日本に第一歩を印すことになる。

 4月6日にロンドンを出立してからすでに51日。3月末の送別会で、50人もの友人知人が別れを惜しんでくれた。
 バートンの脳裡に不安がよぎった。横浜も東京も昨年のコレラ渦で、打ちひしがれているのであないか。自分が帝国大学に招聘されたのは、そのような災禍から日本と日本人を救うためだ。自分に初めて設置される衛生工学講座の教授が務まるだろうか。

 目を閉じると、父ジョン・ヒルの姿が浮かび、静かな声が聞こえた。
「ウィリー、大丈夫。スコッツ魂を燃やしなさい。イングランドもスコットランドも産業革命の犠牲を出したが、新興国日本も同じ道を辿っている。救わなければならない。私もチャドウィックもそのために尽力したのだ」

 父の顔は、いつの間にか母に変わった。母キャサリンは、手を差し伸べた。
「ウィリー、大丈夫よ。出来るだけのことをすればいいのよ。そして、必ず私のところに帰って来てちょうだい」
 
 目尻から涙が溢れた。船員が、小走りで「間もなく横浜港。下船の準備をお願いします」と触れ回った。
 シドニー号は、すでに浦賀水道を回り、東京湾に入っていた。
 
 1887(明治20)年5月26日、貨客船シドニー号は、横浜港に錨を下ろした。サンフランイスコを5月5日に出航してから22日間の公開であった。港には突堤が二つあり、東側が外国人専用の波止場である。

 数艘の艀が勢いよく漕ぎ出し、シドニー号の舷側に着けた。船頭のきびきびした身のこなしには、コレラ渦の暗い影がない。

<第一歩> 
「さあ、いよいよこの国での新たな日々が始まるのだ」
 W・K・バートンは、気分が高揚していた。この時、満三一歳になったばかりである。“Burton”の発音は、“r”の発音から日本人にはどうしても“バルトン”と聞こえたらしい。そこで、到着の日から“バルトン先生”“バルトンさん”と呼ばれることになったのである。

 税関を通ると、出迎えたのはアメリカ訛りの英語を話す青年官吏であった。
「バルトン先生、永井書記官からお出迎えを申し付かりました。これから文部省を表敬訪問していただいた後、宿舎にご案内いたします」

 バートンは、自分の名が“バルトン”と呼ばれるのを面白く思いつつ英語を話す青年がいることに安堵した。
「到着が遅くなりました。父が生前、海外に出る場合は必ずアメリカを見なさい、と言っていましたのでアメリカ経由で参りました。ニューヨークやサンフランシスコは、驚かされるばかりで、日本到着が遅くなってしまいました」
「私もアメリカに留学していました。先生のお話、よく分かります」
「ありがとう。それにしても、横浜は大変な賑わいですね」

 横浜は、開港当初、砂嘴の片隅にへばり付いた寒村だったが、30年弱を経たいま、横浜居留地の欧米人はおよそ2000人。当時の日本在留の欧米人の50パーセント以上が居住していた。居留地の中央には世界屈指の巨大商社ジャーディン・マセソン商会がイギリス国旗を高々と掲げていた。

 バルトンには、太平洋を挟む一方の新興国アメリカ、他方の長い歴史を誇る国日本、双方がどちらも若々しいエネルギーに満ちた国に思えた。


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