『妖しい関係』2

<『妖しい関係』2>
図書館で『妖しい関係』という本を手にしたのです。
阿刀田さんといえば、ロアルド・ダールの短篇「女主人」を紹介してくれた作家であり、とにかく阿刀田さんの短篇小説が気になるのです。



【妖しい関係】


阿刀田高著、幻冬舎、2012年刊

<商品の説明>より
突然逝った、美しく年若き妻。未亡人となっていた、かつての恋人。生まれ変わりを誓い死んだ、年上の女性。男と女の関係は、妖しく不思議で、時に切ない。短篇小説の滋味を味わいつくす、珠玉の13篇。

<読む前の大使寸評>
阿刀田さんといえば、ロアルド・ダールの短篇「女主人」を紹介してくれた作家であり、とにかく阿刀田さんの短篇小説が気になるのです。

rakuten妖しい関係


「死んだ縫いぐるみ」の語り口を、見てみましょう。
p104~106
<死んだ縫いぐるみ>
 電話がかかってきたのは正午少し前、オフィスは昼休みに入ろうとしていた。あとで考えてみれば、相手はこの時間を計ってベルを鳴らしたのだろう。
「もしもし」
 石崎が囁くと、
「もしもし、石崎さん?」
 女の声。若い声。
「石崎ですが」
「あのう、奉子です。銀座の・・・<ペルル>で」
 と言い淀む。

「やあ、久しぶり」
 <ペルル>は銀座八丁目、新橋に近いビルの地下にあったクラブで、今は閉じているはずだ。高級クラブではない。が、どことなくのどかな雰囲気で、石崎は営業を担当していたころ時折行っていた。3、4年も前のことである。

「あの、お願いしたいことがあって・・・ほんの十分くらい、お会いできますか」
「いいよ」
 奉子は<ペルル>で働いていたホステス、20歳くらい・・・いや、もう少し上なのだろうが、子どもっぽくて、まったくすれたところが感じられない。酒場には珍しい。一応は石崎の担当で・・・つまり銀座のクラブではたいてい客ごとに係りのホステスが決まっていて、なんとなく奉子が石崎の担当になっていた。

「どこへ行けば、いいんですか」
「えーと、今?」
「ええ」
「どこにいる?」
「近くだと思いますけど・・・八重洲の本屋さんの前」
 一度、店内で偶然出会ったことがある。
「じゃあ、そこのティールーム。今から十分後に行く」
「すみません」

 受話器を置いて周囲を見まわす。女性からの電話は珍しい。ジャケットを羽織り、
 ・・・なんだろう・・・
 とエレベーターに急いだ。
 ・・・まさか借金じゃあるまいな・・・
 それを頼まれるような関係ではなかった。
 ・・・勧誘かな・・・

 またどこかのクラブに勤めていて“どうぞ来てください”と・・・。その可能性は否定できないけれど、
 ・・・ちがうな・・・
 商売にそう熱心な感じではなかった。<ペルル>をやめて堅気の仕事についているような話だった。

 東京駅の地下を行く。あちこちで工事が進んでいて、2、3日前に通ったところを迂回しなければならない。少し遅れて約束のティールームに着いた。

「やあ」
「ご無沙汰してます」
 奉子は立って、はすかいに体を曲げる。
 若い。相変わらず若い。少女の表情を残している。


『妖しい関係』1:黒いオルフェ

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント