『絶対製造工場』1

<『絶対製造工場』1>
図書館で『絶対製造工場』という本を手にしたのです。
かつて読んだカレル・チャペックの『スペイン旅行記』にはユーモラスな挿絵が載っていて良かったが、この本にもところどころに挿絵が出て来るので、気にいったのです。


【絶対製造工場】


カレル・チャペック著、平凡社、2010年刊

<商品の説明>より
「絶対=神」を製造する機械が発明され、増殖する「絶対」により世界は大混乱に!『ロボット』『山椒魚戦争』の作者によるSF長編。チェコ語からの初訳、挿絵つき。

<読む前の大使寸評>
かつて読んだカレル・チャペックの『スペイン旅行記』にはユーモラスな挿絵が載っていて良かったが、この本にもところどころに挿絵が出て来るので、気にいったのです。

amazon絶対製造工場


この本の冒頭を少しだけ、見てみましょう。
p9~13
<第1章 新聞広告>
 1943年の元日、大企業メアス、すなわち金属株式会社の社長G・H/ボンディ氏は、いつものように新聞を読んでいた。戦地からのニュースをいささか軽んじて読みとばし、内閣の危機を回避し、満帆の勢いで「全国経済」欄に進んで行った。ここでそれなりの時間をとって回遊し、それから帆をまきあげ、うとうとと揺れるがままに身を任せた。

 「石炭危機か」氏は独り言を口にした。「埋蔵量の枯渇。オストラヴァの炭田は数年にわたり操業停止。なんてこった、こりゃ大災害だ。上シレジアの石炭を運んでこなきゃならない。算盤をはじいてみてくれ、うちの製品がどれだけ高値になるか。それでわたしに競争しろ、と言うのか! うちはもう上がったりだ。さらにドイツが運賃を上げたりしたら、店仕舞いになるだろう。おまけに産業銀行株は下がってる。おお神様、なんてつまらぬ状況なんだ! なんてせせこましい、ばかばかしい、実りのない状況だ! ああ、いまいましい危機だな!」

 重役会の議長、つまり社長のG・H・ボンディ氏は、そこでストップした。なにかが氏をしつこくいらつかせた。それを追っかけて行くと、脇に置かれた新聞の最後のページでやっと見つかった。それは「明」という単語だった。実際には単語の一部である。その字のすぐ前で新聞は折られていたから。

 まさにその単語が半端であることが、かくも異常に氏に迫ってきたのだ。「うん、そうだな、たぶんそこにある単語は「照明」だろう」ボンディ氏はぼんやり考えた。「しかし、無意味だよ、誰が発明を広告するだろうか? むしろ損失だろう。そこにあるのは「損失」であるべきだ、そうに決まってる」

 いささか不機嫌になって、G・H・ボンディ氏は新聞を広げ、不愉快な単語を始末しようとした。その単語は、今や将棋盤の目のような広告欄の中に完全に姿を消している。氏は一つ一つ行を追って探し求めた。そいつは腹が立つほどわざとらしく隠れている。ボンディ氏はまず下からはじめ、最後に右側から見て行った。いまいましい「発明」はそこにあったはずだ。

 G・H・ボンディは諦めなかった。再び新聞をたたむと、ほら、憎らしい「明」が端っこに自ら飛び出してきた。そこで「明」を指で押さえ、急いで新聞を広げると、ようやく見つかった…ボンディ氏はひそかに悪態をついた。なんてこった。それはまったく取るに足らぬ、きわめて平凡な広告文だった…。

 発明
 収益性の非常に高い、どの工場にも好適のもの 個人的理由により即時売却…問い合わせ先 ブジョヴノフ 1651 R・マレク技師

 「これは探した甲斐があったな!」G・H・ボンディ氏は考えた。「特許のズボン吊りみたいなものだろうな。ちっぽけなインチキ品か、阿呆のおもちゃか。そんなものにわたしが5分も無駄にするなんて! 馬鹿なことをしたもんだ。つまらぬ状況だ。とてもとてもブームになんかなりゃしない!」

 ボンディ社長は、つまらぬ状況のつらさのすべてをより心地よく、とくと味わうために、今はロッキングチェアに身を沈めた。実際に、メアスは十の工場と三万四千人の労働者を抱えている。メアスは鉄鋼部門でトップを行く。メアスはボイラーに関しては敵なしだ。メアスは鉄骨格子における世界的ブランドである。だが、それは二十年にわたる仕事の結果ですよ。神様、ほかの大きな場所でだったら、もっと大きなことが達成できただろうに…。

 G・H・ボンディは急に上体を起こした。「マレク技師、マレク技師だと! 待てよ、赤毛のマレクじゃないだろうか。そうだ、なんて名前だったか・・・ルドルフだ、ルダ・マレク、工科大学時代の仲間のルダか? 本当に、この広告の文面には、R・マレク技師とある。おい、ルダ、悪い奴だなおまえは。そんなことができるのか? かわいそうに、もうおしまいなんだな! 「収益性の非常に高い発明」を売却か、ハッハ、「個人的理由により」だと。そんな個人的理由なんてもうわかっているよ。金がないんだろ、なあ? なにか薄汚いパテントを餌にして、誰か企業家をカモにしようってわけだ。そう、おまえは世の中をひっくり返そうという思想にいつもちょっぴり取りつかれていたな。ああ、なんと、われらが大いなる思想は今いずこ! 大いなる夢と欺瞞に満ちたわれらが青春は!」ボンディ社長は再び体を落ち着かせた。


かつて読んだカレル・チャペックの『スペイン旅行記』を紹介します。
『スペイン旅行記』3:闘牛の魅力
『スペイン旅行記』2:ゴヤの魅力
『スペイン旅行記』1:ドイツ、ベルギー、フランスを通って


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