(インタビュー)国越え進む技術の前で

<(インタビュー)国越え進む技術の前で>
 法哲学者の大屋雄裕さんが朝日のインタビュー欄で「拡大するIT空間、法が機能する条件ずれて壊れだした」と説いているので、紹介します。


(大屋さんのインタビューを7/30デジタル朝日から転記しました)


使わない日はないインターネット、街中にあふれる監視カメラ。我々の行動は日々、膨大な情報となって蓄積される。どこでどう使われ、誰の手に渡るのか、もはや知るすべもない。そんな現代は、社会の変化と法のありようを考える法哲学者にはどう映るのか。テクノロジーの進歩に、我々はどう向き合えば良いのか。(慶応大学法学部教授)

Q:法哲学という分野が専門でありながら、「法哲学者が必要な世の中は危険だ」という話をしていますね。どういうことですか。
A:刑法や商法をどう変えるかといった話だけなら、私のような法哲学者の出番はありません。いま起きているのは、我々が想定していなかった技術の進化が、国境を越え、さらにネットワーク化した状態で進んでいるということです。法が機能する条件が、壊れ、ずれ始めている。政府は法に責任を負いますが、日本に本社がない巨大IT企業にどう対応するか。こうした法的な問題を整理することが必要になっているのです。

    ■    ■
Q:身近な話から始めます。多くの人が日々ネットで検索し、SNSも見ています。でもそのデータがどう使われているのか、もはやわかりません。
A:この状態から抜け出すことは正直、難しいでしょう。一人一人が情報を出すのをやめることも、社会全体がこうしたシステムからおりるという選択も、もはや現実的ではありません。

Q:現代のテクノロジーの進化の特徴とは何ですか。
A:情報化の中で今起きている変化の主な単位は個人です。消費者は『30代男性はこれが好き』といった集団でしか把握されなかったのが、個々の消費や需要が測れるようになった。『あなたはこれが好きですね』と。集団でなく個々人として扱われれば、個人の選好や尊厳がより守られる可能性はあります。

Q:しかし、それはデータの利用や管理の仕方しだいですよね。
A:そうです。これは、我々が個として把握され、監視の対象になるということでもある。不愉快で、不安だと感じるのも当然です。まさに技術の進歩による光と影が生じつつあると思います。

Q:中国ではデータの蓄積を通じ、市民の行動が「信用スコア」として点数化され始めています。
A:まず、人は、人の評価によって態度を変えるものです。人口移動が少なく小さな共同体で暮らしていた時代は、人は悪評を立てられないように身を律する必要がありました。しかし人口が流動化して評価や評判が蓄積されなくなると、国が法によって信頼を保証するようになりました。

 人口流動がより激しい現代は、さらに企業による情報収集が加わり、信用スコアを使って効率的に『この人は信用できる』と示せるようになった。かつて共同体の中で蓄積されていた評判が電子化されたわけで、国も民間も管理コストが減る利点があります。

Q:ただ、政府が使うことには強い抵抗感があります。
A:職業や収入、クレジットカードなどの情報と、図書館の本の貸し出し履歴から犯罪歴までが統合され、『信用度』が評価されるのが中国のスコアです。問題はまさに、政府が利用し始めていること。

 日本を例に考えてみれば、『祝日に日の丸を掲げるとスコアが上がる』といった、国民がみな求めているとは到底言いがたい基準が組み込まれていく可能性がある。民間企業は我々の良心とか思想に関わるデータを大量に持っている。民間と国家の情報が統合される中国のようなシステムが、最も危険だと思います。

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Q:張り巡らされた防犯カメラも時代の象徴です。その功罪をどう考えますか。
A:使い方しだいです。何か起きたときだけ事後的にデータを使うなら差し支えないと思います。問題は、犯罪などの『予防』に使う場合です。カメラを見て、『万引きしそう』と判断した人を入店できないようにしたら大きな問題です。録画した画像を誰がどう管理するのか、その管理が適切かを検証するルール作りが必須です。

Q:「プライバシーを守る」という問題も、根本的に考え直す必要がありそうですね。
A:私は本屋で何度も同じ本を買ってしまうので、個人で買う本はネットを使います。購入履歴から『この本は買ったはずです』と知らせてくれるからです。予定も記憶力やメモだけでは管理しきれないので、ネット上のカレンダーを使っています。氾濫する情報に人間の処理能力が追いつかないからそうしたサービスで補うわけで、その上に、個人情報が適切に管理されているかまでを自分で判断するのは厳しいのが現実です。

Q:便利さと引き換えに、プライバシーを守ることをある程度、諦めざるを得ないのでしょうか。
A:『GAFA』などのIT企業が個人情報を悪用しなければ良いですが、フェイスブックの個人情報漏洩をみても、こうした組織を信用できるかは疑問です。利用者がこれらの企業に行動を迫る法的な枠組みもありません。

Q:一方で、各国でIT企業への規制強化の動きが出ています。
A:国家がIT企業を規制などでコントロールすることは一つの方法です。ただ、国家自体が巨大な情報収集者でもある。さらに、国家は情報がどう使われるかという極めて専門的、国際的な判断をできるかも疑わしい。

 そこでAI(人工知能)研究者らと、個々人の選好を反映し、適切な決定ができるよう情報提供や注意喚起をしてくれるようなAIの可能性を議論しています。最終的な決定権は、AIではなく利用者に持たせることが重要です。

Q:AIの技術の進歩も日進月歩です。我々人間とAIとの関係はどうなるのでしょうか。
A:これは人類の本質が何か、という問いです。AIは記憶力や計算能力などで、すでに人類を超えつつある。人間とAIとの差は、まず新しい価値を作れるかどうか。AIは我々の既存の選好を前提に、効率的に、簡単に実現するための解を出してくれる。でも人間には既存の社会の需要や選好とは違うものを先取りする力があり、選好を変化させる特徴もある。このような価値の創造や提示は、今のところAIにはできません。

Q:AIで犯罪を予測し、予防する動きも最近出てきています。
A:予防の問題は、実際に事件や事故が起きる前に止めるので効果の検証が極めて難しいことです。予測が間違っていた時の検証や、不利益を被った人への対応ができているかも問題になる。刑法は犯罪が起きてから処罰するのが大原則。人を殺そうとした人が、最後の一瞬に思いとどまる可能性もあるわけで、人間性への信頼が根本にあります。しかし、我々の社会はどんどん予防へとかじを切っている。人間性への信頼が薄れつつあるからかもしれません。

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Q:いま起きている情報技術の進歩は、国と企業、個人の関係をどう変えつつありますか。
A:近代は、国家が非常に強い時代でした。絶対的な国家権力をつくり、他をすべて従属させるのが近代民主制のモデルです。ところが国家が相対的な力をなくし、IT企業のような国家でも個人でもない『中間団体』の力が増しているのが現代です。

Q:国家を超える存在ですね。
A:まるで新たな帝国のような、どの国もコントロール下におけない新しい権力が生まれ、個人は直接、その影響にさらされています。国家がこうした権力をもう一度支配下に置くのは、私はもう無理だと思っています。

 国家だけに期待せず、異なるシステムを考えるときに来ています。『AI倫理原則』のように、皆が協調して尊重すべき価値を確認し、コントロールするのも一つです。国家だけでなく、様々な統制を組み合わせ、いかに個人の自由を守るかが課題になります。

Q:法のあり方にはどんな変化をもたすのでしょうか。
A:グローバル化に対抗するために国際的な合意形成が非常に重要になります。これまで法は、その国の国民の意思や事情に合わせて作られ、社会を統制する手段として絶対的・特権的な地位を持ってきました。そんなあり方も、変化が迫られるかもしれません。

Q:技術の進歩は、今後も人間を幸せにしてくれますか。
A:科学技術は、もう引き返せないところを過ぎてしまったと思います。かつては自分の家で火薬を試しても、吹き飛ぶのは家1軒だけでした。しかし現代では、1社でもクレジットカードの情報がハッカーにやられたら、システム全体に影響します。自己責任で話が済む状態は超えてしまった。これからは、いかに技術をコントロールしていくかだけでしょう。

 科学技術を作るのが人間である以上、人間を不幸にするものは実用化されない、と私は思っています。しかし、人類が深刻に対立する局面では、AIやロボットが効率的に人を殺す道具にもなり得る。そうなれば、影響は世代を超えて続きかねません。(聞き手・宮地ゆう)

     ◇
大屋雄裕:1974年生まれ。慶応大学法学部教授。技術の進歩に伴う法規制のあり方などを研究。著書に「自由か、さもなくば幸福か?」など。


(インタビュー)国越え進む技術の前で大屋雄裕2019.7.30


この記事も 朝日のインタビュー記事スクラップR12に収めておきます。

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