『科学する心』2

<『科学する心』2>
図書館に予約していた『科学する心』という本を、待つこと1ヵ月ほどでゲットしたのです。
福岡伸一は科学者から科学的物書きとなったが、池澤夏樹はその逆で、物書きが科学エッセイストをめざしているような感じですね。


【科学する心】


池澤夏樹、集英社インターナショナル、2019年刊

<「BOOK」データベース>より
大学で物理学科に籍を置いたこともある著者は、これまでも折に触れ、自らの作品に科学的題材を織り込んできた。いわば「科学する心」とでも呼ぶべきものを持ち続けた作家が、最先端の人工知能から、進化論、永遠と無限、失われつつある日常の科学などを、「文学的まなざし」を保ちつつ考察する科学エッセイ。

<読む前の大使寸評>
福岡伸一は科学者から科学的物書きとなったが、池澤夏樹はその逆で、物書きが科学エッセイストをめざしているような感じですね。

<図書館予約:(5/11予約、6/15)受取>

rakuten科学する心

桑島化石壁

「第12章 光の世界の動物たち 桑島からカンブリアへ」を、見てみましょう。
p241~243
 古生物学のことを考えている。
 ずっと興味はあったが、具体的にはその方面の本を読むのと博物館で化石や復原模型を見ることぐらいで、それ以上ではなかった。

 いや、驚くべき発見の過程をリアルタイムで追ったことが一度あった。
 石川県のいちばん南、福井県と境を接する白峰村で、手取層群の化石が大量に研究者に提供され、その中から多くの新種が発見された。その報告をぼくはその時々教えられていたし、石の中から骨や歯や葉や生痕化石などを取り出すクリーニング作業を間近に見せてもらったこともあった。

 その前に、二つのことを説明しなければならない。まずぼくが白峰村で「白山麗僻村熟」という営みに30年に亘って関わってきたこと。年に何度か白峰に通うのだから、行けばこの土地の友人たちからニュースが聞ける。何かあれば現場に案内もされる。

 次に、ここが化石の宝庫であること。
 1874年、ドイツから来ていたヨハネス・ラインという学者(専門は地理学)が白山登山の帰路、旧・白峰村桑島に寄ってジュラ紀の植物化石を発見した。やがてこの断崖は桑島化石壁と呼ばれるようになる。

 更にこの化石群を含む地層はここだけでなく福井県や岐阜県にも分布していることが明らかになり、手取層群と名付けられた。日本の古生物学はライン博士から始まったと言ってもいい(これはエドワード・モースと大森貝塚の関係に似ている)。手取層群の化石の研究は後にハインリッヒ・ナウマン博士と日本の科学者が引き継いだ。

 白峰村は白峰と桑島の二つの集落から成っていたのだが、1975年、桑島は手取川に造られるダムで湖底に沈むことになった。そこで大急ぎで桑島化石壁の調査が行なわれた。化石は山の中に埋まっているが、鉱山と違って実利が伴わないので、それ自体を目的とする発掘はなかなか行なわれない。崖に露出しているか、あるいは他の目的の工事で出た岩石の中を探すか。

 ダム工事に伴ってそれまでの道は湖底に沈んでしまう。40メートル以上に新しい道路が造られ、この工事で露出した崖もまた化石壁であることがわかった。しかし、この崖は崩落が激しく、道路として使用に耐えないというので背面にトンネルが掘られることになり、ここから出た岩石から大きな成果が得られた。

■桑島化石壁で見つかった三種類の肉食恐竜
 手取層群が形成されたのは1億4千万年前、ジュラ紀である。当時、後に日本列島となる陸地はまだ大陸の一部だった。このあたりは汽水ないし淡水の浅い湖で、そこに暮らした動植物が化石となった。見つかった化石は、大きな話題になったものでは肉食恐竜が少なくとも三種類。

 その一つは歯の形から推測してティラノサウルスの一種と思われる。植物食の恐竜ではイグアノドンをはじめ数種類がいたことがわかった。その一つには「アルバロフォサウルス・ヤマグチオルム」という学名が与えられた。前半は白い峰のトカゲ、つまり白山にちなみ、後半は発見に貢献のあった二人の人物、県立白山ろく民俗資料館の山口ミキ子と山口一男の姓にちなむ。他にも翼竜の一種がおり、哺乳類に近い小型植物食のトリティロドンも見つかった。

アロマリカリス・カナデンシス

お次に「カンブリア爆発」あたりを見てみましょう。
p252~253
■捕食と防御の闘いが激化したきっかけは眼の発明
 さて、菊谷さんに教えられたアンドリュー・パーカー著『眼の誕生』だ。一つ前の時代のエディアカラ生物群と比べてカンブリア紀の動物には「硬い殻」があり、「歯や触手や爪や顎」を備えているという特徴がある。そういうものを作るには素材とエネルギーの投資が要る。生物は無駄なことはしない。

 つまり何か大きな変化が起きて、かれらはみな攻撃的かつ防御的な身体を作らざるを得なくなった。喰うと喰われるの関係が高速進化を促した。これまでこの速やかな進化の理由はいろいろに提案されてきたけれど、充分に説得的なものはなかった。

 生物は外界から情報を得て、それに応答して栄養を取り込み、身を守り、生殖をする。情報は水中であれば周囲の水温や塩分濃度、水流、溶け込んだ化学物質(匂いと言っていいか)、振動(これも音と呼べるかどうか)、そして明るさ、重力の方向つまり上下の区別などがある。体軸が水平で前後の区別がある動物の場合、感覚器官は一方の端にまとまって配置されているのが普通で、そこには捕食装置としての口もあり、頭と呼ばれている。

 環境に充満する情報を自分のために利用するには感覚器官が要る。空気の振動である音は皮膚でも感じられるが、耳を整備してしかもそれを二つ整備すると音源の方向がわかるようになる。

 カンブリア爆発のきっかけ、捕食と防御の闘いが激化したきっかけはそれ以前と比べて格段に高度な光の応用にあった、とパーカーは声高に言う。言い換えれば眼の発明だ。これこそがこの本の眼目!

 眼は非常に精緻な器官である。球形のしっかりとした眼球の前面にレンズがあり、その焦点の位置に網膜がある。遠近に応じて焦点距離を変える仕掛けになっている。眼球の前には非使用時の休息のために、またゴミや虫が入らないように、目蓋というものがある。その上、まつげや眉毛という防塵装置もある。

 こんな精妙なものを進化論は説明できるか? ダーウィン自身がこれを「完璧にして複雑きわまりない器官」と呼んだという話が伝わっている。あまりに合目的的で、まるで知的な存在がきちんと設計したかのようなので、ダーウィンはちょっと自信をなくしたらしい。


『科学する心』1

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