(耕論)米高官が見た東アジア

<(耕論)米高官が見た東アジア>
 前米大統領補佐官のハーバート・マクマスターさんがオピニオン欄で「北朝鮮軍備は強力、首脳会談なければ戦争もあり得た」と説いているので、紹介します。


(マクマスターさんのオピニオンを6/01デジタル朝日から転記しました)


 もしあのとき米朝首脳が会談していなければ――。昨年4月まで米政権中枢で外交・安全保障を取り仕切ったマクマスター前大統領補佐官が「そこにあった危機」を語った。北朝鮮の核・ミサイル問題から、激化する米中対立の行方まで。今後の東アジア情勢はどうなるのか。戦略家の視線の先にある世界を聞いた。

Q:2017年ごろ、あなたが北朝鮮に対する軍事攻撃に最も積極的だった、と複数の米政府当局者から聞きました。本当ですか?
A:その通りです。もちろん北朝鮮との軍事衝突を避けたいと思っていました。しかし、米国と同盟国である日本、韓国が最悪の事態に備えることが重要です。そのためにあらゆる軍事的選択肢を準備しておくべきなのです。

Q:軍事攻撃はどのぐらい現実的だったのでしょうか。「可能性は30%」と語った上院議員もいました。
A:数字で表すのは難しいですが、もし方針転換ができていなければ、戦争に向かって突き進んでいたでしょう。トランプ大統領は就任当初から北朝鮮の核保有を許さないと断言していたからです。

Q:しかし米軍が攻撃すれば、北朝鮮の反撃によって韓国や日本に大きな被害が出かねません。それでもなお軍事的選択肢をとるのですか。
A:北朝鮮が開発したミサイルなどの兵器で他国に輸出しなかったものはありません。シリアのような残虐な国家の核開発も支援しました。これを防ぐために北朝鮮の核関連施設を破壊する予防的攻撃の準備をしておくことがとても重要なのです。もちろん地域の同盟国と調整せずに安易に決断するわけではありませんが。

Q:そうはいっても実際に核を持った国を攻撃するのは難しく、現実的とは思えません。
A:多くの人はしっかりと議論しないまま、北朝鮮が抑止力のために核を求めていると思っています。しかしこれは誤った解釈だと私は分析しています。朝鮮戦争が始まった1950年以来、すべての侵略行為は北朝鮮が起こしています。

 通常兵器だけでもすでに非常に強い抑止力を持っている。北の核兵器は米韓同盟を破壊し、北朝鮮主導で武力による統一をするための『伝家の宝刀』なのです。だからこそ米国と同盟国は、最悪の事態が起きた時にすぐに対抗できる軍事措置を準備しておくことが極めて大切なのです。

Q:昨年3月に韓国政府高官が「金正恩・朝鮮労働党委員長がトランプ大統領に早い時期に会いたいと言っている」と米側に伝えました。トランプ氏はこれに応じましたが、同席していたあなたは反対したという話を聞きました。
A:首脳会談の開催に反対したのではありません。大統領に懸念を表明したのです。北朝鮮に核・ミサイル開発を断念させるための『最大限の圧力』政策を始めてから効果を上げるのに十分な時間が経っていませんでした。過去の政権による金体制との交渉の失敗のパターンを熟知していたので、我々は適切な時期まで待つのが重要だと考えたからです。金正恩(委員長)に関する情報も少なく、会うことの危険性もありました。

Q:でも、トランプ氏は押し切ったわけですね。
A:大統領が一度決めたからには、それをうまく利用してチャンスにしたいと思いました。これまでの事務レベルによる多国間協議は失敗を繰り返しましたが、今回はトップ同士の会談です。我々は初の首脳会談に向けた良い環境づくりに全力を尽くしました。

Q:にもかかわらず、2度の会談は成果を上げていません。むしろ昨年6月の会談後、米韓は大規模合同軍事演習を中止しており、戦闘能力の低下が懸念されます。
A:無責任なことだと思います。最高司令官である大統領が軍事手段を選ばないと予測していたとしても、軍は有事の際にはいつでも実行できる軍事行動を用意しておかなければならないのです。

    ■    ■
Q:米中関係は対立が激化しています。その火ぶたを切ったのが、17年末にあなたが主導してつくった「国家安全保障戦略」(NSS)だったとみています。この中で中国について世界の秩序を変えようとする「修正主義勢力」「競争国」と位置づけたのには驚きました。
A:そうでしょうね。冷戦後、米国の外交政策における最も重大な転換だったからです。間違った前提に基づいていたそれまでの対中政策とは根本的に異なります。

Q:間違った前提とは何でしょうか。
A:中国は今の国際秩序の中で共存していくと考えられてきました。ルールに基づいた国際貿易や商慣習を受け入れ、国家資本主義型から自由市場経済に変わっていくという前提です。そうなれば当然豊かになり、中国国内の民主化も進むと考えられてきました。

Q:米主導の国際秩序を支える存在に変える関与政策ですね。
A:ところが実際は、攻撃的な外交攻勢によって、自由で開かれた秩序に替わるシステムを築こうとしています。まさに中国の王朝が周辺国を従えた冊封体制の現代版です。さらに中国へ進出した外国企業に技術移転を強要したり、サイバー攻撃を使った前例のない大規模な産業スパイ活動をしたりしていることが明らかになりました。

 中国は領有権を主張する南シナ海で人工島を造成し、軍事化を進めるなど外交・安全保障でも極めて攻撃的になっています。
シルクロード経済圏構想『一帯一路』を通じて、世界中で戦略的に支配力と影響を強めてもいます。

Q:完全に裏切られたわけですね。新たな対中政策は具体的にどのようなものでしょうか。
A:私が補佐官になった直後の17年初めから、これまでの対中政策の見直し作業を始めました。まず中国は『戦略的競争国』であるという考え方を基本としました。

 中国による洗練された攻撃から、我が国の重要な利益である自由で開かれた社会を守らなければなりません。ただ、これは協力の扉を閉じていることを意味しているわけではありません。誰も望まない直接的な衝突を避けるためにも、共通の利益がある分野では協力を強めていくことが最良の方法です。

    ■    ■
Q:トランプ政権は台湾海峡への米艦艇の派遣を増やして関与を強めています。一方、先日インタビューした中国軍高官は「中国が台湾を武力統一しても米国が軍事介入をする可能性は低い」と言っていました。
A:中国の軍高官は歴史を無視するようないい加減なことを言うべきではありません。第2次世界大戦後、中国と北朝鮮は、米国の防衛区域外にある韓国に侵攻しても介入しないとみて、朝鮮戦争に踏み切りました。その後も米国は世界中に強力な軍を派兵して戦争を防ぐことに貢献してきました。インド太平洋地域でも引き続き米軍を展開していきます。

Q:中国は東シナ海や南シナ海でも攻勢を強めています。最近は「海上民兵」と呼ばれる漁民も動員するようになっています。
A:中国は慣習にとらわれない兵力を使っています。海上民兵は準軍事組織と言えますが、海軍に準じる米沿岸警備隊でも対応していく必要があります。警備隊の艦艇が最近、インド太平洋地域で展開するようになったのもそのためです。民兵を雇っている会社や個人への経済制裁も必要でしょう。

Q:米国は今後、中国にどのように対処していくべきだと考えますか。
A:中国はこれまでたくさんの約束をしてきましたが、そのほとんどが守られていません。習近平国家主席が15年、ホワイトハウスでオバマ大統領と会見した際、『中国は産業スパイ活動をやめる』と宣言しました。ところが実際は、より積極的になっています。

 中国と貿易問題を交渉しているライトハイザー米通商代表部代表ら各閣僚は約束だけではなく、実行するかどうか検証することを重視しています。中国共産党が本当に態度を改めたことを確認できるまでは、追加関税を維持しておくのが賢明だと思います。
    *
ハーバート・マクマスター前米大統領補佐官(国家安全保障担当):1962年生まれ。湾岸戦争、イラク戦争に参戦。米陸軍中将だった2017年2月から大統領補佐官。米ハドソン研究所日本担当部長に就任予定。

■取材を終えて
 米軍切っての戦略家と評されただけあって、どんな質問にも理路整然と答えてくれた。わずかに感情の高ぶりを感じたのが、北朝鮮を巡る対応を尋ねた時だ。核・ミサイル施設を先制攻撃する作戦が政権内で練られていたことを示唆した。米朝両首脳による電撃的な会談が開かれていなければ、軍事衝突になっていた可能性を示すものだ。当時、危機の瀬戸際だったという切迫感が伝わってきた。

 気になったのは対中関係だ。中国について何度も口にしたのが「懐疑的」。不信感がマクマスターさんがつくった対中政策の基礎になっており、米中対立の激化を引きおこしているように感じた。先日インタビューした中国国防大学の劉明福教授とは、台湾問題などの認識が大きく異なっていることも浮き彫りになった。双方の軍の戦略家の話を聞いて、両国の対立が激化していくという一点しか共通点がなかったことに、事態の深刻さがある。(峯村健司)


(耕論)米高官が見た東アジアハーバート・マクマスター2019.6.01


この記事も 朝日のインタビュー記事スクラップR12に収めておきます。
Q:
A: 

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