『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』1

<『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』1>
図書館で『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』という本を、手にしたのです。
ぱらぱらとめくってみると、内容は興味深いのに、著者の軽口が鼻につくのです。
でもまあ、それも個性ということで借りたのです。


【鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。】


川上和人著、新潮社、2017年刊

<「BOOK」データベース>より
出張先は火山にジャングル、決死の上陸を敢行する無人島だ!知られざる理系蛮族の抱腹絶倒、命がけの日々!すべての生き物好きに捧げる。

<読む前の大使寸評>
ぱらぱらとめくってみると、内容は興味深いのに、著者の軽口が鼻につくのです。
でもまあ、それも個性ということで借りたのです。

rakuten鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。

メグロ


小笠原諸島のメグロを、見てみましょう。
p18~20
<必用なければやめたまえ>
 メグロは、現在は小笠原諸島の母島列島だけに生息している。母島列島は、母島を中心に、姉島、妹島、姪島、向島、平島などが周りに配置されている。女系家族に、お向かいさんと空き地という構成で、島の距離はせいぜい6km程度である。ただし、メグロがいるのは母島と向島と妹島の3島だけだ。

 どの島にも鳥が住める環境はあるのに、いる島といない島があるのだ。世の中に、モテる男とモテない男がいるのと同じくらい不思議だ。そこで、その分布の謎を調べることにした。

 私は採血されるのは嫌いだが、鳥の採血をするのは嫌いじゃない。他者の痛みは、いくらでも我慢できるので、メグロの血液を採り、DNAを分析することにした。小鳥の血管は細いので、皮膚の外から注射針で静脈を少しだけ傷をつける。にじみ出た血液を細いガラス管で吸い取るのだ。

 怯えるメグロ132個体から血液を集め、悪役気分で分析に勤しむ。いや、実際に分析したのは器用で寛容な共同研究者だが、のび太の手柄は僕の手柄だ。共同研究とは、苦手な作業を他人に押しつけることである。

 研究の暗黒面を晒すのはさておき、DNA分析の結果、メグロは島ごとに独自の遺伝的なパターンを持つことがわかった。もし島間を個体が移動していれば、島ごとの独自性はなく、どの島でも似たものになったはずだ。つまり、メグロはわずか5kmの海も越えないのだ。

 5kmなんて、サメを騙して並べればウサギだって渡れる距離だ。それどころか陸続きでも、約3kmの距離で個体の交流が非常に制限されている場所があった。メグロは陸地ですら移動を厭うのだ。

 一方、彼らが海を隔てた3島に分布するのも事実だ。その理由は、氷河期と関係がありそうだ。ヴュルム氷河期は約1万8千年前に最寒期を迎えた。世界の氷の総量が多いと、海水は減り水面は下がる。当時は今より100m以上水面が低く、母島列島の島々はつながっていたと考えられる。その後の気温上昇で海水面が上がり、複数の小さな島に分断されたのだ。この時点では全ての島にメグロがいたことだろう。

 しかし、小さな島では、偶然の重なりや一時的な気象の影響などでも絶滅は起こり得る。一度絶滅した島では、新たな個体が到来せず、結果的に不連続な分布となったと思われる。海を隔てた島は、環境の善し悪し以前に、そもそもメグロとの接点を失ったのだ。モテない男もがっかりの結果である。まずは、出会いの場を見つけるのが先決である。

 そんなメグロに最も近縁な鳥は、サイパンにいるオウゴンメジロだ。つまり、祖先は約1300kmの海を越えて南から飛来したのだ。にもかかわらず、今はすっかり引きこもりである。長距離移動の末に到達した生物が移動能力を低下させることも、島の生物の特徴の一つである。逆に、移動をやめたからこそ固有種になったのだとも言える。

 周囲に陸のない孤島では、中途半端な移動の行く末は水没である。熱帯や亜熱帯のぬくぬくとした気候では、他所に移動せずとも、地の利のある故郷の生活に不満はない。海の向こうの見知らぬ土地に、生活に適した環境が必ずあるとは限らず、移動は命がけのギャンブルとなる。そもそも飛翔は、重力に抵抗する高コストな行動である。積極的に飛ぶ必用がなければ、飛ばない性質が進化するのだ。

 鳥は、自由に空を飛ぶことができる。しかし、その能力の行使は、あくまでも彼らの選択に委ねられている。島に行くと、鳥にとっての飛翔の意義を、改めて考えさせられる。



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