(インタビュー)日韓を「和解学」する

<(インタビュー)日韓を「和解学」する>
文大統領が登場し「積弊のちゃぶ台返し」に着手して以来、悪化する一方の日韓関係である。(こうなっては大統領任期の終わりを待つしかないのかも)
朝日のインタビュー欄で、早稲田大学の浅野教授が「対立する国民感情 歴史認識共有し市民として連携」と説いているので、見てみましょう。



(デジタル朝日の『(インタビュー)日韓を「和解学」する』を転記しました)
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(インタビュー)日韓を「和解学」する 早稲田大学教授・浅野豊美さん
 国交正常化から半世紀以上を経た日本と韓国は、歴史問題を前に関係悪化が止まらない。そこで欧州の紛争解決学を参考にしつつ、東アジアの歴史もふまえた「和解学」で解決の糸口を見いだそうとする動きがアカデミズムの世界で出てきた。日韓両国の「和解」の道とは? 研究を主導する早稲田大学教授の浅野豊美さんに聞いた。


Q:日韓両国の政治関係の悪化はかつてない深刻さです。なぜこんな状況になったのでしょうか。
A:日韓両国は1965年に国交を正常化しました。これは国家対国家の『制度としての和解』だったと言えます。65年体制などと言われますが、この時は日本による35年におよんだ植民地支配が合法か不法かをあいまいにして、いわば双方の『正義』を共存させました。グローバル化の時代となり、その矛盾が露呈してきた。

 それでも80年代まではうまく機能していました。日本政界では超党派的な連携がみられ、日韓間でも自民党の知韓派と韓国の知日派が意思疎通を深め、役割を果たしてきた。だが、今はそういった、政治家も含めた『市民』としての連携自体がやせ細り、分裂してしまっています。大事なのは市民としてのつながりなのに、市民ではなく、多くが『国民』として対峙してしまっているため、現状のような関係になっています。

Q:市民ではなく国民として向き合っている、とは?
A:だれしも一人の人間ですが、市民と国民の両面を併せ持っています。国家の一員としての国民的アイデンティティーを持つのが国民。自由意思をベースに自ら考え、行動するのが市民。そう言えないでしょうか。日韓で政治家や研究者が市民としてつながっていた時は、相手に対する配慮や共感、思いやりがありました。それが今は、交流すればするほど不信感が強まるような状況です。

Q:やせ細ってしまった市民のつながりを復元できますか。
A:東アジアでは歴史紛争が頻発しています。それを克服するために、私たちは和解学という学問が必要ではないかと考え、研究を進めています。

Q:和解学とは耳慣れません。
A:近年は紛争解決学が欧米を中心に提唱されています。中東やアフリカの民族紛争や内戦の後の調停などを対象に、国家間のみならず部族や宗教をまたぐ集団間の紛争解決に力を発揮しています。

 東アジアでは民主化が進むにつれ、被害者の救済が社会集団間の新たな紛争となって歴史問題が生まれています。日本から見れば韓国は、被害者という立場を政治的に利用する国、韓国からすると日本は加害者としての責任を受け止められない国と映り、互いの国民感情の対立や摩擦を増幅させるという悪循環。和解学は、地域特有の歴史的な空間を意識し、政府と社会集団が入りまじって、異なる次元を超えて展開される歴史問題に解決の方向性を与えようとするものです。これまでのナショナリズム研究をも加えた東アジア発の紛争解決学と言えます。

Q:確かに日韓の被害者、加害者の認識は大きく違います。
A:韓国の文在寅政権には、かつての軍事独裁の時代に民主化運動に携わった人が多くいます。東アジアの民主化は和解学から言えば、市民社会が歴史の解釈権を握ったことを意味すると思います。つまり韓国では体制の移行があった。しかし、日本ではたとえ与野党の政権交代はあっても、歴史認識の変化を伴うような体制移行は起きていません。日韓のそんな違いも対立を招いています。

 歴史問題で日本政府はつねに最終的かつ不可逆的に解決済みだとか、国際法はこうだ、といった法的な論理を持ち出す。一方、韓国は軍事独裁で救済されなかった植民地支配の被害者を今日の人権規範に照らして救うのだと主張する。お互いに依拠する法的論理と『正義』がずれています。そんな対立を包摂するような大きな論理が必要です。和解学は、薄れてしまった市民社会のつながりを人工的に再生する取り組みです。

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Q:具体的にはどういったことをするのですか。
A:なぜ紛争が起き、エスカレートし、解決が難しくなってしまったのかの認識を共有するためには歴史問題を避けずに堂々と議論できることが回復への第一歩となります。その際、熟議型民主主義ではなく、闘技型民主主義であたるべきだと考えています。

Q:闘技型? 闘うのですか。
A:暴力ではありません。熟議型民主主義は社会の利益を前提に最後は少数者に妥協を迫りますが、闘技型ではアリーナ(闘技場)という対話の空間を大事にしていくというのが基本的なコンセプトです。でも、闘技しながらもアリーナを壊さない。むしろ議論の果てに自分の変化に気づく。自分たちを動かす意欲や感情などを上手に競争のルールの中に入れるようにして、相手を尊重しつつ相手の論理も交えて説得を試みるのです。

Q:対立は深刻です。そんなにうまくいくでしょうか。
A:もちろん簡単ではないでしょう。でも、そういう場所がないと紛争は永久に続く。理想としての和解を絶えず追求していくための3原則を唱えています。

 一つは正義が複数存在するという前提で、自分の正義を振り回さずに議論を進めること。正義の優越を競わないことです。二つ目は、互いの国民感情を近づけるような説得を議論の軸とすることです。感情を支えている記憶や規範を意識しないことには、そうした説得はできない。最後は互いの尊厳を認め合いつつ議論を続けるプロセスを大事にすること。政治には結論を出す期限が伴いますが、議論を続ける場所も必要です。

Q:しかし、日韓ともにかなり過激な思想が存在しています。
A:これから日韓の歴史がどうなるのか予想できませんが、もしも認識を共有できる方向に進むのなら、過激な主張は周辺化されざるをえなくなるでしょう。

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Q:みなさんは現在、どんな活動をしているのですか。
A:和解学のプロジェクトは文部科学省の新学術領域研究に選ばれ、日本国内を中心に約50人の研究者が各班に分かれて研究を始めています。例えば、東アジア各地でメディアが流す情報が、いかに戦争や植民地にまつわる国民の記憶を形成してきたか、といったことを解明しようとしています。

 日韓とも、相手国の代弁者にすぎないと見なされないような議論が必要です。韓国の高麗大などとも提携しています。来月にはブリュッセルで、旧ユーゴの紛争解決と東アジアの歴史紛争との比較が議論されます。

Q:浅野さんのこれまでの研究と和解学は関係していますか。
A:私は主に韓国併合や旧満州国などの植民地・帝国の法制度や、日本の敗戦後の賠償問題が連合国全体としてどう位置づけられたかを研究してきました。なぜ市民社会は弱いのか、国家はいかに作られたのかといった問題は、まさに和解学に通じます。

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Q:日韓は昨年秋に韓国の大法院(最高裁)が日本企業への賠償を命じた徴用工判決で激震が走っています。和解学の見地から、この問題をどう考えますか。
A:日韓の市民が納得でき、国民としての政治観念にも矛盾しないようにする法的論理が必要です。双方の一方的な措置、つまり韓国大法院判決に伴う強制執行や日本の対抗措置としての制裁は互いの不信感を高めるだけで、誹謗中傷を含めた『暴力』にさえつながりかねない大変危険な行為です。

Q:韓国側が受け入れるかどうかはともかく、日本政府は国際司法裁判所(ICJ)への提訴も辞さない考えを表明しています。
A:今の日韓の法的な論理を競わせるのではなく、ICJに高い次元からの仲裁をしてもらうという前提であれば良いと思います。国内の裁判所は法的論理を競い合いますが、どの国の国内法も時代状況に合わせて変わっていく。国際社会は激しく変化しているのに、法を変えるような機関がありません。ICJがその機能を担い、日韓の国民をともに納得させられるなら、と思います。

 あるいは紛争当事国の合意のもとに、植民地支配に伴う被害者救済のための人権委員会のような枠組みができないかと考えます。各国の措置から漏れた日本人孤児や在日外国人を含む人権被害者を国家の名誉とか国民の法的論理とは関係のないところで救済できないでしょうか。

Q:もうすぐ植民地支配下で最大の独立運動「三・一運動」から100年という節目が来ます。
A:日本の中では三・一運動が反日だと決めつけているような言説がありますが、あの時代に東アジアを意識し、朝鮮の国民的独立が大事なのだと高い精神性のもとに日本を説得しようと始まった動きだったと思います。欧州でノルマンディー上陸作戦の記念式典に、かつての敵味方の首脳らが参加するように、日韓の間で近代を記憶し、戦争犠牲者をともに追悼できるきっかけになってくれればと思います。
(聞き手 編集委員・箱田哲也)

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浅野豊美:1964年生まれ。専門は東アジア国際関係史。著書に「帝国日本の植民地法制」(大平正芳記念賞、吉田茂賞)など。


(インタビュー)日韓を「和解学」する浅野豊美2019.2.27


この記事も 朝日のインタビュー記事スクラップR10に収めておきます。

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