『津軽 失われゆく風景を探して』2

<『津軽 失われゆく風景を探して』2>
図書館で『津軽 失われゆく風景を探して』という文庫本を、手にしたのです。
氷雨の中を旅館のアポなしでひたすら歩く外人・・・外人というより変人ではないか。
遍路旅のような旅行記が気になるのでおます。


【津軽 失われゆく風景を探して】


アラン ブース著、新潮社、1995年刊

<「BOOK」データベース>より
太宰治の『津軽』をリュックに入れて、ほぼ半世紀前の晩春、傷心の太宰が「自分」を探しに故郷を訪ねた、二十三日間の足跡を辿った。太宰が見たものを見よう。しかも、ひたすら歩いて―。行く先々の老若男女と大いに語り合い、酒を酌み交し、斜陽館のバーでは「与作」を唄う。シェイクスピアの末裔たる英国人作家が、眼と耳と、肌で接した本州さいてはての地の、人情と風景は…。

<読む前の大使寸評>
氷雨の中を旅館のアポなしでひたすら歩く外人・・・外人というより変人ではないか。
遍路旅のような旅行記が気になるのでおます。

amazon津軽 失われゆく風景を探して


著者の太宰治『津軽』に対する傾倒ぶりを、見てみましょう。
p19~21
<外ヶ浜>
 二度結婚、一度は人の子の父となり、日本で名高い文学賞を二度めざし、二度ともその野望を文壇にうち砕かれ、大学を中退し、結核と麻薬の常用でたびたび病床につき、精神病院に一と月監禁されたこともあり、破壊分子と疑われて訊問のため五度までも警察に呼び出された太宰は、第二次大戦中のこの晩春の旅で、23日間を津軽で過ごし、友人たちと痛飲し、親類を訪ね、14年前、二度と敷居をまたぐなといわれた生家に泊まり、最後に、愛情を感じていた子守女と再会し、心を揺り動かされる。

 そうした体験から生れたその著作『津軽』は、太宰通には最も感動的な一篇と見なされている。小説でもなく紀行文でもなく、ましてや、東京の出版社が期待していたような「」ではまったくない。太宰が、運とも世間とも折り合いの悪い自分という人間を、精いっぱい掘り下げた本である。また、自分の生れた土地の自然を探っていく中で、精神を形づくり、養い、打ち砕いていくもろもろも、探っていく本なのだ。

 「都会人としての私に不安を感じて、津軽人としての私をつかもうとする念願である」と太宰は書いている。このとき彼は34歳、ぼくより7歳若かった。そして東京の彼の家は、ぼくが住んでいたところのごく近くにあった。

 ぼくは二度結婚、一度人の子の父となり、監禁されたことも病床についたことも警察の訊問を受けたこともなく、すきなだけ反体制をうたえる国と時代にいた。そこでは、抗う姿勢が義務ではなくファッションであり、どっちにしろ外国人のぼくは、変わった無責任な意見をもっていて当然と思われていた。

 人間としても作家としても、それほど太宰に関心があったわけではない。しかし、ぼくも23日間津軽にいるつもりだった・・・太宰は23日間、津軽に身を置いていたのだ。太宰がバスや汽車や船を利用して回ったところを、歩いていってみよう。そして、太宰が見たものを見よう。あるいは見ないかもしれない。なぜならぼくには、自分が探しにいくのが、人間なのか、国なのか、はたまた失われてしまったものなのか、わかっていなかったからだ。

 風の吹きすさぶ明るい朝で、床屋はのんびり閑と店を開いていた。そんな一軒では、ピンクとスカイブルーのカーラーをごちゃごちゃとつけた若者が、髪をじょじょに蒸し煮されていくあいだポルノ漫画を読んでいた。外ヶ浜に沿った道路は、25年間コンクリートや埋立ごみを載せてトンネルへと往復していたトラック群の便宜をはかるため、ところどころ広くなってはいたが、あい変わらず、ひしゃげたような特色のない家々の薄い家並を抜けて走っていた。

 山々が裏庭を浸食しかけているのっで、地図でしか所在を確認できないような村がさらに幅を狭められ、たがいに角突き合いながら、山々と防壁の向こうの海に押しひしがれている。こうした村落を空中から見たら、暗褐色の、長いヘビの抜けがらのようだろう。海側の家々のあいだにすき間を見つけると、ぼくは、家の裏口と石ころだらけの海岸を隔てているコンクリートの無人地帯に出ていった。海岸では、頭にスカーフをかぶった女のひとたちが、こわばった漁網からどろどろの汚物をこそげ落としたいた。

 陸奥湾のかなた、緑色の下北半島が、がぶりと噛めそうなほど近くに見えている。今きた道をふり返ると、湾に沿って長いカーヴを描いているコンクリート沿いに、青森市の煙突が煙を吐いているのが見えた。例の14階建ての観光ピラミッドも、海岸の何マイルも先に望める。


『津軽 失われゆく風景を探して』1

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