中露関係は「離婚なき便宜的結婚」

<中露関係は「離婚なき便宜的結婚」>
 慶應義塾大学の廣瀬陽子教授がインタビューで、中露関係や関係する旧ソ連の中央アジア諸国などについて語っているので、見てみましょう。


 2018年9月21日ウェッジ中露関係は「離婚なき便宜的結婚」から転記しました。


中国の一帯一路にロシアのユーラシア連合構想。その実現はさておき、両国には壮大な構想がある。共産圏や巨大な国土、独善的なリーダーという共通点を持ち、近隣の国である両国は現在いかなる関係を築いているのか。『ロシアと中国 反米の戦略』(ちくま新書)を上梓した慶應義塾大学の廣瀬陽子・総合政策学部教授に、中露関係や関係する旧ソ連の中央アジア諸国などについて話を聞いた。

Q:今回のテーマは中国とロシアの関係についてです。両国ともに、絶大なリーダーシップを発揮する指導者がいるわけですが、互いにどのように相手国をみているのでしょうか?
廣瀬:プーチン大統領自身が、中国が好きかと問われれば決してそうではないと思います。ただ、国として戦略的に協力しなければならないという認識でしょう。

 中国側にしても、ロシアとの関係は不可欠というほどではないと考えられます。ただ、一帯一路の成否が国際社会の評価を左右する現状において、その一地域である中央アジアで成功するためにも、ロシアとの関係は戦略的にも良好に保ちたいところでしょう。

Q:中露関係は、互いに戦略的な意味合いが強いと。
廣瀬:中露関係は「離婚なき便宜的結婚」などと言われます。利害では、反米、かつアメリカの一極支配ではなく、多極的な世界の維持を望んでいる点で一致している一方、お互いに不信感を抱いている。周囲の人たちが「そんなに信頼していないなら別れればいいじゃない」とアドバイスしても、別れない夫婦のようなものです。

Q:もともと同じ共産圏ですが、現在のような状況はいつ頃からなのでしょうか?
廣瀬:ソ連時代に遡ると、最初は良好だった中露関係が、約50年間の反目の時代をへて、2004年頃から再び関係を改善化、そして緊密化していったと言えます。ソ連は中国の建国を支持し、軍事技術も惜しみなく供給していました。しかし、1956年のソ連共産党大会で、フルシチョフ共産党第一書記のスターリン批判を契機に、両国間にイデオロギー対立が起きます。この対立は長らく続き、1968年の中ソ国境紛争で関係悪化がピークに達しました。ソ連解体後も微妙な関係でしたが、当時のエリツィン大統領と江沢民主席が、戦略的パートナーシップを掲げた共同宣言に調印すると、1996年に後の上海協力機構の前身にあたる上海ファイブを結成します。

 2000年にプーチン大統領が就任すると、国境問題などのトラブルになる事案はなるべく早めに解決するスタンスを鮮明にします。そこでかねてからの懸念だった中露の国境問題を、2004年に等分割することで解決します。

 08年にロシア・ジョージア(グルジア)戦争が起き、ロシアは国際社会で孤立します。特に、アメリカはロシアに激しく反発したため、ロシアはアメリカへの対抗意識をより鮮明にしますが、ロシア1国ではとてもではないが敵わない。そこで、徐々に関係が良好になりつつあった中国との仲をより深めようとします。

 ただ、2000年代半ばに経済面でピークを迎え、国力にも勢いがあった当時のロシアは、中国と協力姿勢を取りつつも、強気な態度でした。そうした態度が明らかに変わったのが、14年のウクライナ危機です。それまではロシアから中国への天然ガス輸出問題でも価格面で相いれず、交渉が決裂していたのが、ウクライナ危機が起きると、欧米からの経済制裁と石油価格の暴落などにより、ロシアは経済的に苦境に立たされました。中国側の譲歩もあったと言われていますが、ロシアも譲歩し、天然ガスの価格問題が妥結しました。その天然ガスの輸送のために、「シベリアの力」という新しいパイプライン計画が発表され、現在建設が進んでいます。

Q:ロシアも中国もアメリカにとって代わり、世界の覇権を握りたいとは考えていないのでしょうか?
廣瀬:おそらく両国ともに、一国では不可能だと考えているでしょう。しかしながら、国としてのプライドは保ちたいし、何より米国の単独優位は許せない。そうなると、多極化しか道はない。多極化とは、いくつかの国が勢力を互いに保ちつつ、国際的な均衡を保つ状況です。ロシアは、アメリカ、ヨーロッパ、中国、ロシアの4つの勢力で多極化できればと考えているでしょう。

 プーチンのブレーンであり、多大な影響を受けているアレクサンドル・ドゥーギン(元モスクワ大学教授、ユーラシア党党首)という地政学者がいます。彼は、ヨーロッパをフィンランド化、つまり中立化させることが重要だと考えています。日本に関しては、ドイツ同様にロシアの味方につけたい考えです。

Q:それはなぜでしょうか?
廣瀬:日本をロシアの味方につけ、日米同盟が崩れれば、アメリカのアジアにおける覇権は大きく崩れますから。そのためには、日本に北方領土を返還するべきだとさえ彼は言っています。

Q:先程もお話が出ましたが、中国は一帯一路を進めています。一方のロシアも「ユーラシア連合」構想を持っています。現在、どんな状態なのでしょうか?
廣瀬:ユーラシアは、ヨーロッパとアジアを合わせた地域で、現在のロシア外交のキーワードになっています。「ユーラシア連合」構想については、プーチンが3期目の大統領就任以前から構想を掲げていました。

 ソ連解体後に生まれた独立国家共同体(CIS)をはじめとし、政治、軍事、経済的な地域の協力組織を基盤としたのが「ユーラシア連合」構想です。簡単に言えば、バルト三国を除いた旧ソ連諸国をベースとしたEUのようなものです。このロシア版EUが、本来のEUとアジアをつなぐ結節点になればいいなという構想です。

 そこで、前段階としてEUと同様に、「経済連合」から始めようとしていますが、現在正式加盟している国は、ロシア、ベラルーシ、カザフスタン、アルメニア、キルギスのみで、ロシアの経済状況が悪いこともあり、上手くいっていません。

Q:地域的に見ても、中国の一帯一路とかぶるようと思うのですが。
廣瀬:はい、両構想は、地域的には中央アジアなどとかぶります。

 他方、内容で考えますと、「似て非なる構想」だと指摘されていまして、実際、2つの大きな違いがあります。

 まず、ロシアのユーラシア連合構想は、国家間の条約・契約を前提としているのに対し、一帯一路は国家との関係に基づくのではなく、地域を緩やかに捉えています。交渉なども、行うとすれば、地域や企業との交渉となります。たとえば鉄道網を計画する場合、その国よりも鉄道会社と交渉するというような形になり、国家間交渉にまではいかないというようなことです。このように一帯一路の計画はかなり曖昧なのですが、その曖昧さが、一帯一路が支持されている一因ともいわれています。

 もう一点は、中露両国が分業を確立してきたということです。ロシアが軍事と政治を担当し、中国が経済を担当するといった具合です。ただ、最近の中国の勢いは凄まじく、経済のみならず、政治や軍事面でも進出し始め、分業体制は崩れています。その状況は、ロシアの許容範囲を超えていると思われますが、国力の落ちてきているロシアは黙認せざるを得ない状況にあるといえそうです。

Q:ユーラシア連合構想は、かなり先行き不透明ですね。
廣瀬:ロシアにとって、他にも厄介な点があります。ひとつは、中央アジアの国々は、これまでロシアに強く依存し、石油や天然ガスもロシアにしか輸出できない状況でしたが、経済力をつけ、多くのエネルギーを必要とする中国がこの地域に進出してきて、中央アジア諸国の対中資源輸出が増えてきているということです。これにより、中央アジアの対露姿勢も以前より強気になっているように見えます。

 また、これらの国々の動向で目立つのが、欧米への接近です。なかでも目立つのがウズベキスタン。権威主義だった同国の大統領、イスラム・カリモフが16年9月に亡くなり、新大統領に就任したシャヴカト・ミルズィヤエフは、権威主義から外交の多角化へ舵を切り、アメリカとの関係を深めています。ウズベキスタンは、05年に起きた国民を虐殺したアンディジャン事件以降、アメリカとの関係が悪化していました。それが改善に傾き始めた。それに慌てたのが、カザフスタン。今年3月に、アメリカのアフガニスタン作戦のために、米軍がカスピ海にある2つの港を使用することを認めたのです。これに対し、ロシアは相当激怒しています。

 このことは、20年以上続いた、カスピ海の領海問題、つまりカスピ海を海と考えるか、湖と考えるかという論争に一応の終止符を打つ大きなきっかけになったと思っています。海だと定義された場合は国際法(「海洋法に関する国際連合条約」)が適用され、つまり「領海」の原則が適用され、天然資源については、自国の「領海」でしか開発できなくなるのですが、自国「領海」に資源を有するアゼルバイジャン、カザフスタン、トルクメニスタン、ロシア(自国「領海」に資源が見つかってから)が海であると主張してきました。他方、湖だと定義された場合は、国際的な慣習により、カスピ海は沿岸国の共同管理になり、資源なども共有財産として均等に分配されることになります。このような論争が20年以上続いていたわけですが、今年の8月12日のカスピ海サミットでようやく「玉虫色」ながら一応の合意が生まれたのです。

 長くなるので詳細は避けますが、カスピ海を海でもなく、湖でもないという「特別な法的地位」を有する大陸内水域とし、沿岸から15海里は領海/同25海里は漁業専管水域とし、海底パイプラインは関係国の合意によって敷設可能としたことが主要なポイントとなります。ロシアは自国を迂回する海底パイプラインが敷設されることには反対でしたが、今回の同意で、その可能性を認めてしまったことになりました。

 とはいえ、海底パイプラインの敷設には事前の環境アセスメントとその結果に対する沿岸5カ国の合意が必要となるのですが、その際に、ロシアが海底パイプラインの敷設を妨害する可能性があることは危惧されています。他方、外国軍のカスピ海渡航禁止ということが合意され、5カ国の結束を対外的にアピールしたことはロシアの決定的な外交的勝利だといえます。それほど、ロシアは米国に勢力圏を脅かされることを警戒しているともいえるでしょう。また、このことは、ユーラシアに影響力を拡大している中国に対しての牽制の意味も持っているはずです。

Q:旧ソ連の中央アジア諸国は、これまでロシアばかりを見ていたけど、他にも貿易相手はたくさんいることに気がついたと。
廣瀬:開眼させたのが中国です。他にもトルクメニスタンは、ロシアと価格交渉で決裂し、ロシアに天然ガスの輸出ができなくなりましたが、対中輸出は伸びていまして、中国の存在感がますます大きくなっています。

 エネルギーの買い取り価格に関しても、ロシアは中央アジア諸国から安く買い叩き、そこに相当なマージンを乗せ、ヨーロッパへ輸出していました。しかし、ロシアへの制裁の影響で、以前ほどヨーロッパでは売れなくなったようです。

Q:そうなると、中露が再び対立しそうですが。
廣瀬:対立に火種は色々とあると思います。ただし、経済力が落ちているロシアは中国に対して強気に出られないというのが実情です。



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