『苦節十年記/旅籠の思い出』1

<『苦節十年記/旅籠の思い出』1>
図書館で『苦節十年記/旅籠の思い出』という文庫本を、手にしたのです。
ぱらぱらとめくると、旅籠の写真やら、各地の鄙びた温泉のイラストやら、苦労ばなしのエッセイやら・・・サービス満点のつくりになっています。



【苦節十年記/旅籠の思い出】


つげ義春著、筑摩書房、2009年刊

<「BOOK」データベース>より
つげ義春が、エッセイとイラストで描く、もう一つの世界。旅籠、街道、湯治場の風景や旅先で出会った人。貧乏旅行の顛末を綴った文章、自らの少年時代などを記した自伝的エッセイなどをセレクトした。つげ的世界の極致ともいうべき「夢日記」は、絵と文章のコラボレーション。さらにカラーイラストも付いた、ファン必携の1冊。

<読む前の大使寸評>
ぱらぱらとめくると、旅籠の写真やら、各地の鄙びた温泉のイラストやら、苦労ばなしのエッセイやら・・・サービス満点のつくりになっています。

amazon苦節十年記/旅籠の思い出



白土三平や長井社長、水木しげるたちとの交流について、見てみましょう。
p271~274
<苦節十年記>
 私はいつも裏の仕事場の方に回った。そこにはマンガ家としてはベテランの小山春夫、白土の実弟の鉄二、『ガロ』でデビューしたばかりの楠勝平の三人が絵を描いていた。白土自身はストーリィ作りに追われて殆んど絵を描くことはなく、『ガロ』に連載した「カムイ伝」は、「赤目プロ」ではこなしきれず、小島剛夕に外注していた。

 それと白土のマネージャーをしているもう一人の実弟と、秘書的な仕事をしている岩崎稔、この五人がいつも仕事場にいた。実弟のマネージャー以外の四人はいつも私を歓迎してくれて、練馬駅前の喫茶店に誘ってくれたりした。とくに岩崎稔と私は親しくなった。岩崎は以前、長井社長の「三洋社」で編集を務めていて、「三洋社」が潰れたあと白戸に招かれたそうで、私とは当時からの馴染みだった。

 二度目に訪ねたときだったか、白土は私を千葉へ誘ってくれた。日常の煩瑣を避け、ストーリィ作りに専念したい白土は、千葉の大多喜にかくれ家として利用している定宿があった。そこで一緒に仕事をしようと、文無しの私の宿代の面倒までみて招待してくれた。40年の9月19日から10月1日まで、岩崎も含め三人で滞在した。

 そこで白土は「ワタリ」のコマ割りをし、私は『ガロ』4作目の「不思議な絵」を描いていた。一日「赤目プロ」一同が骨休みに来て、皆で釣りを楽しんだりして、釣りの好きな白土は半日を釣り、半日を仕事というような過ごしかたをした。

 ときには野山を散策したりして、私も久しぶりに生活に追われない日を過ごすことができたが、滞在が終わりもとの飢餓に戻ることをフト想うと寂しさがこみ上げることもあった。貧しさも度を超すと寂しさに変質するのだろう、この滞在中も私はタバコ銭にもこと欠き、宿屋の婆さんが禁煙を始めてタバコを4個くれ、それでしのいだりしている状態だった。

 このあと私は「沼」と「チーコ」を40年内に描き、この2作によって娯楽本位、ストーリィ優先の窮屈なマンガ作りから解放され、この方向でなら気楽にいくらでも描けそうに思え、多少期するところがあったが、2作とも発表時はまったくの不評だった。とくに「沼」は不評で、貸本の世界では作品を批評する話題など出たことはなかったのに、珍しく悪評で話題になった。悪評でも何かしら感じさせるものがあったのだろうか。「沼」は2月号に掲載され(発売は12月だったと思う)私はがっかりして、先の見通しもなくなり途方に暮れて正月を過した。

 そして正月が明けると市ヶ谷の印刷工場の夜勤見習工の面接に出かけた。マンガを断念して就職することは再三考えてはいたが、給料日までもたす金がないことと、内気で臆病で知らぬ環境へ行くことへ過剰な怖れをみせる性格がブレーキになって、いつもためらっていた。しかし他にどのような方法も逃げ場もなかった。

 その面接に行く途中『ガロ』の青林堂になんとなく寄ってみると、長井社長に、水木しげるが大手雑誌に採用され急に忙しくんり、アシスタントを探しているという話を聞いた。「誰かいい人いないかねえ」と云われ、水木は私を指名したわけではなかったが、外へ出て私は面接に行くのはとりやめ、自分がアシスタントになろうと思った。

 さっそく調布の水木宅へ出かけて行くと、駅まで氏がボロ自転車に乗って出迎え、自宅に案内された。畑や空地の広がる中の、建売住宅が5,6戸並ぶ奥の水木宅は、ミシミシきしむ安造りで、子供の玩具の散らばる所帯じみた四畳半の居間に通された。田端で一度会ったきりで、水木しげるは私よりひと回りも年長なので、やや臆してコタツで話をしていると、氏はゴロリと横になり、私もつられて横になり、窮屈を感じさせない人柄にほっとした。


この本もつげ義春ワールドR7に収めておきます。

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