『カシス川』1
<『カシス川』1>
図書館に借出し予約していた『カシス川』という本を、およそ半年待ってゲットしたのです。
胃を全摘した大使にとっては「がん」ものは、まあ、ツボともいえるので借出し予約していたのです。
まず、アンナさんの母子関係や病歴を、見てみましょう。
胃カメラ検査と大腸がん検査を体験した大使であるが・・・その2つの辛い検査は、それぞれ別の辛さがあったことを思い出したのです。
アンナさんのがんは転移がなかったようで、せめてもの「幸い」である。
作家の闘病記といえば・・・
内澤旬子さんの闘病記が『身体のいいなり』2あたりに出ています。
また、ショージ君のガン入院の顛末がガン入院オロオロ日記で見られます。(こちらのほうはやや能天気でおます)
図書館に借出し予約していた『カシス川』という本を、およそ半年待ってゲットしたのです。
胃を全摘した大使にとっては「がん」ものは、まあ、ツボともいえるので借出し予約していたのです。
【カシス川】 ![]() 荻野アンナ著、文藝春秋、2017年刊 <出版社>より 7年前に彼を癌で亡くし、父を見送った私の腸に、癌が見つかった。 これで私はようやく休める、私は腹の中に「楽園」を抱え込んでいるのだ。 告知を平然と受け止めた私は、ともに暮らす要介護4の母との入院を心に決めた。 <読む前の大使寸評> 胃を全摘した大使にとっては「がん」ものは、まあ、ツボともいえるので借出し予約していたのです。 <図書館予約:(1/20予約、7/13受取)> rakutenカシス川 |
まず、アンナさんの母子関係や病歴を、見てみましょう。
p16~21 <海藻録> 「おなたはお母さんの話になると目の色がかわりますね」 「一卵性母子が我が家の伝統です」 「何世紀ごろからですか?」 「うちのおばあちゃんの代からです」 「三世代で伝統は大げさでしょう。父方はどうなんですか」 「うちは父方はカウントしないんです。母はよく『お前は私だけの子や』と言っています」 「イエス・キリストを処女懐胎した聖母マリアもびっくりですね。子供を望まれたのはお父さんなんでしょう?」 「子供ができたら母が自分から逃げられなくなる、という計算です」 難儀な出産のとき、父は不在だった。1週間後、酒臭い息で、廊下を斜めに歩きながら登場した。「誰の子か分からん」という父に、「あんたの子じゃなければどれだけ良かったか」と母は答えた。 「なるほど」、彼は飲み終わったグラスを無駄にクルクルしている。「海藻はへその緒の象徴で、海は胎内で、重たすぎる母のイメージに打ちひしがれているわけですね」 私はカップを音を立てて置いた。 「私のトラウマを勝手に解説しないでください」 「申し訳ない」、彼は帽子を取り、頭を下げた。頭頂部に将来のハゲが透けて見える。 「下手な解釈をするつもりはありません。ぼくはイメージのほぐし屋を自認しています」 「イマージはほぐれるものですか?」 「ほぐれます。精神のもみほぐしと思ってください」 私は都会の海の黒い泡を眺めながら、海藻二巻き半の自分にリアルを感じている時間が嫌いではない。ほぐしてくれるなら、ほぐされたいとも思う。 「ちょっとだけイメージトレーニングに付き合ってください。まず、例のイメージをこの額縁の中に入れます。きっちり納まりましたか? では画面の一番暗い部分に内側から光を当てて下さい。焦ってはいけません。徐々に光を混ぜ込んでいくんです。混ざり合っているのは光の粒です。粒を拡散させて。画面いっぱいに」 「うわぁ」、眩しさに顔を手で覆った。光の奔流に、眼を押さえ、しばらく耐えた。 (中略) 「病気は非日常で、手術は心にも傷を残します。慌てて傷跡を新しい肉で塞いでしまおうとするのは人情です。でも、きっちり思い出してあげないと成仏しませんよ」 「成仏しないとどうなるんですか?」 「海藻まみれになります。そうならないために、語ってください」 そこで私は語った。 (中略) 5月7日 午後の診察室の、斜めの光のなかで、私は初めてレントゲン画面に収まった“それ”と対面した。5センチのS字結腸がん。もう少し小さかったら「死の種」とでも表現したいところだが、腸にポコンとおまんじゅうを乗せた格好をしている。 死のおまんじゅうは「幸い」腸間膜側にあり、「狭窄傾向が無いので予後はいいはず」だった。遠隔転移が無ければ、と条件がつく。 前年からその年にかけて、面倒事の連続だった。疲れやすくなったのは欝のせい、便の出血は痔のせい、と思い込んできた。もう限界だ、と母に弱音を吐いた。 「限界とはそんなものやない」 母の答えは決まっている。 がんは私にとって、水戸黄門の印籠になった。私は今や怠け者ではなく病人なのだ。これからは辛いときに辛いと言える。優しい石鹸の海に全身をゆだねているような、不思議な安堵感があった。 告知のときの気分を聞かれるたびに答えた。 「これで休める、と思いました」 これからは、父母や彼氏ではなく自分のことで病院に行く。なんたる贅沢、と涙が出た。 とはいえ動転していなかった訳ではない。授業や買物の合間にトイレに入った。出ようとして、ドアのフックに掛けたバッグを忘れていると気付いた。 |
胃カメラ検査と大腸がん検査を体験した大使であるが・・・その2つの辛い検査は、それぞれ別の辛さがあったことを思い出したのです。
アンナさんのがんは転移がなかったようで、せめてもの「幸い」である。
作家の闘病記といえば・・・
内澤旬子さんの闘病記が『身体のいいなり』2あたりに出ています。
また、ショージ君のガン入院の顛末がガン入院オロオロ日記で見られます。(こちらのほうはやや能天気でおます)
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