(耕論)明治維新150年

<(耕論)明治維新150年>
 東大名誉教授の三谷博さんが耕論欄で「武力よりも公儀公論を重視」と説いているので、紹介します。

三谷
(三谷さんのオピニオンを12/20デジタル朝日から転記しました)


来年は明治元年から数えて150年。政府は施策を数々用意し、「明治の精神に学び、更に飛躍する国へ」とうたう。NHK大河ドラマの主役は西郷隆盛だ。だがしかし。私たちは維新の何を知っているだろう。歴史家2人に維新の実像を問い、現代人にとっての意味を聞く。

■武力よりも公議公論を重視:三谷博さん

 明治維新の大きな特徴は、武士という支配身分が消滅したことと、外国の革命に比べ犠牲者が非常に少なかったことです。しかし、この二つには、これまであまり目が向けられませんでした。

 維新は革命ではないという思い込みが強かったからだと思います。革命とは下の身分が上に挑戦し、特に君主制を打倒して、多くの犠牲が出るものとされていました。君主が復権し、大名や公家が華族として残った明治維新は革命ではない、だから比較の対象にならないとされてきました。

 支配身分の武士と被差別身分がともに廃止され、社会の大幅な再編成が短期間に行われた点で、明治維新は革命といえます。また、維新での死者は約3万人で、フランス革命と比べると2ケタ少ない。暴力をあまり伴わずに権威体制を壊した点で注目すべきです。
     *

 明治維新には、はっきりとした原因が見当たりません。黒船来航は原因の一つですが、米国や英国は開国という小さな変化を求めただけで、日本を全面的に変えようとしたわけではなかった。個々の変化は微小なのに、結果として巨大な変化が起きたのが維新です。

 歴史に「必然」という言葉を使うべきではないと思います。歴史の事象には無数の因果関係が含まれていますが、複雑系研究が示すように、それが未来を固定するわけではない。飛び離れた因果関係が偶然に絡み合って、大きな変化が生じることもあります。

 維新でいえば、安政5(1858)年政変がそれです。外国との条約問題と将軍の後継問題が絡み合い、井伊直弼が大老になって、一橋慶喜を14代将軍に推す「一橋派」を一掃した。それが徳川体制の大崩壊の引き金となり、同時に「公議」「公論」や王政復古というアイデアも生まれました。

 公議とは政治参加の主張です。それを最初に構想したのは越前藩の橋本左内でした。安政4年に、大大名の中で実力がある人々を政府に集め、同時に身分にかかわらず優秀な人間を登用すべきだと書いています。左内は安政6年に刑死しますが、公議公論と王政復古は10年かけて浸透していき、幕末最後の年には天皇の下に公議による政体をつくることがコンセンサスになった。最初はゆっくり進行したけれど、合意ができてからは一気に進み、反動も小さかった。

 フランス革命は逆で、最初の年に国民議会がつくられ、人権宣言が出されます。3年後には王政を廃止しますが、そのあと迷走します。第三共和制で安定するまでに80年かかってしまった。

 大大名のうち、越前藩や薩摩藩は暴力でなく、政治交渉で幕府を説得し、政権参加を実現しようとした。一方、水戸藩や長州藩は言論と暴力の両方を使おうとした。

 1868年の王政復古クーデターを主導したのは薩摩と土佐藩で、軍事衝突を避けるため、会津藩と長州の兵力引き離しに努めました。それでも鳥羽・伏見の戦いが起きましたが、ごく小規模で終わった。関ケ原以西の大名は天皇を担いだ新政府に従ったので、東北と箱館以外では内戦にならなかった。

 維新のプロセスは一直線には進まず、危ない分岐点が多くありましたが、常に戦争を避けようとする選択が行われた。東北、箱館と西南戦争では回避に失敗したとはいえ、政治家が暴力の行使より公議公論を重視したからこそ、結果的には犠牲者が少なくてすんだ。

     *
 社会のひずみを直そうとするとき、言論だけでなく、暴力もしばしば使われます。幕末の水戸はそれで自滅する悲惨な経験をしました。しかし、維新を主導した人々は公議公論によって乗り越えた。

 どうやって言論と暴力を分離するかは、人類の未来にとって非常に重要です。150年を前に、明治維新をただ持ち上げるのではなく、考える材料にすべきと思います。(聞き手 編集委員・尾沢智史)

     ◇
三谷博:1950年生まれ。専門は日本近世・近代史。東京大学名誉教授。著書に「明治維新を考える」「愛国・革命・民主」、近刊予定に「維新史再考」。


明治維新150年三谷博2017.12.20


この記事も 朝日のインタビュー記事スクラップR4に収めておきます。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック