『ハッピー・リタイアメント』

<『ハッピー・リタイアメント』>
図書館で浅田次郎著『ハッピー・リタイアメント』という本を、手にしたのです。
個人的には浅田次郎ミニブームは続いているわけで、この本は期待できそうやでぇ♪
さて、「天下りの闇」を浅田さんなら、どう描くのか?

ところで、全国中小企業取引振興協会(JAMS)とは実在の公益法人であるが・・・
小説とはいえここまでおとしめて書いてよいものだろうか?

おっと、そんな危惧よりも、腰巻のコピーに書かれた「秘密のミッション」とはどんなんやろ? これから読み進めていきます。

それにしても、浅田さんは天下りしてきた元自衛官を描いているが、浅田さんが元自衛官であるだけに、水を得た河童というか・・・生き生きとしています♪


【ハッピー・リタイアメント】
浅田

浅田次郎著、幻冬舎、2009年刊

<「BOOK」データベース>より
定年を四年後に控えた、しがない財務官僚・樋口慎太郎と愚直だけが取り柄の自衛官・大友勉。二人が突如再就職先として斡旋されたJAMS(全国中小企業振興会)は、元財務官僚の理事・矢島が牛耳る業務実体のない天下り組織。その体質に今イチ馴染めない樋口と大友は、教育係となった秘書兼庶務係の立花葵から、ある日、秘密のミッションを言い渡される…。

<読む前の大使寸評>
個人的には浅田次郎ミニブームは続いているわけで、この本は期待できそうやでぇ♪
さて、「天下りの闇」を浅田さんなら、どう描くのか?

rakutenハッピー・リタイアメント


この小説の語り口をちょっとだけ、見てみましょう。
p97~99
 それにしても、同じ男でもいろいろ種類はあるものだと、立花葵は苦笑した。
 あの二人のオッサン、あんがい意気投合したようだけれど、今ごろはどこかの居酒屋で一杯やっているのだろうか。

 安酒を酌みながら愚痴を言い合う姿がありありとうかぶと、苦笑がたちまち哄笑に変わった。
 ああ、おっかしい。あの二人、よっぽどのバカだわ。お利巧さんたちの取り越し苦労でJAMSにやってきたことが、どれくらいラッキーなのかも、たぶんわかっていない。

 新入職員の歓迎会は、二日目の午後4時から催された。
 会場は前日にプロモーヨン・フィルムが映写された大会議室である。つまり平日の勤務時間中から、全職員こぞっての酒盛りが始まった。

 それも、ビールと乾き物でチャッチャッとすますというなら、まだかわいい。一流ホテルから制服のボーイと白衣のコックもろとも、豪華なケータリングがやってきた。
 シャンデリアが輝く広い部屋の中央に、純白のクロスを掛けた大円卓が据えられ、JAMS分室の定員は担当理事と秘書兼庶務係を除けば十名であるはずなのに、会場はなぜかそれに数倍する老人たちで溢れている。

 「何だよ、こいつら…」
 樋口慎太郎は
 「OBだろう。ほかには考えようがない」
 答えは聞こえよがしの大声だった。近くで談笑していた老人たちが、胡乱な視線を大友に向けた。
 まるで秘密結社だ。毎年二人が退職するとして十年で20人、か。それに現職の十人を加えれば参会者の数になる。

 定年前に、選ばれてこの極楽に招かれたパラダイスでぼんやりと過ごし、二度目の退職金を受け取ってリタイアする。そういう幸福な時間を何年も共有すれば、OBの絆もこのように強くなる、というわけだ。
 少なくともこの空気は、新入職員の歓迎会などではない。そういう名目で彼らが年に一度旧交を温める、同窓会にちがいなかった。
 
 「やあ、久しぶり」
 肩を叩かれて、樋口は振り返った。偉そうに顎をしゃくってビールを注ぎ足す男の顔には見覚えがあった。名前は思い出せない。
 「僕はおととしまでここにいたんだがね。そうか、君が来たのか。いや、よかったよかった」
 おかげさまで、と樋口慎太郎は頭を下げた。円卓の向こう側には、矢島純彦を取り囲む人垣ができていた。
 「ともえの大合併、大変だったろう」
 「それは、まあ」
 その件についての発言は、役所の内部でも禁忌だった。樋口は男から顔をそむけてビールを飲んだ。
 「僕はその前段階のときだよ」
 思い出した。大手都市銀行の三行が合併して「ともえホールディングス」が誕生したのは4年前だが、さらにその数年前に、ともえの母体となる銀行が中堅銀行を吸収合併するという一幕があった。男を役所の中で見かけたのはそのころだったと思う。
 出世を望まぬ、また望んだところで叶うはずもないノンキャリアを、手足に使うのは矢島の流儀である。一仕事おわれば、その手足は切り捨てればいい。かわりはいくらでもいる。

 「何年の入省だね」
 「49年です」
 男は自分の入省年度と較べるように指を折り、「ほう」と酒臭い息をついた。
 「幸せなやつだなあ。ここでずいぶんゆっくりできるじゃないか。僕なんか、1年半しかいられなかった。それでもまあ、矢島さんには感謝しているがね」
 樋口は人垣の中の矢島に目をむけた。何ともマメな人間だ。年に一度、使い捨てた手足を呼び集めて、労に報いるふりをすることも忘れない。


この小説の勘所のあたりを、見てみましょう。
p121~124
 保証債権の時効は5年である。ただし、その間に債務者の所在を確認し、請求を行えば時効は中断される。社会に身を置く人間が、5年間も所在不明であることは簡単なようで実は難しい。現住所に住民票がなければ、子供が就学できず、健康保険も使えないからである。つまり、所在不明な債務者を見つけ出すことは、現実にはさほど難しくはない。
 その「さほど難しくないこと」をきちんとやらなかっただけである。かくして28年の歳月が流れた。誰がどう考えたところで、完全なる時効成立であった。

 保証人に借金の肩代りをさせて逃げるような悪党は、もしかしたら大金持ちになるのではないか…これはそもそも、立花葵が唱えた仮説である。この黒衣の呟きがヒントになった、過去数年間の多額納税者リストと未処理の債務者リストを照合してみたところ、いきなり「金尾為太郎」なる人物がヒットしたのであった。
 そこで昨日、北鎌倉の現住所を訊ねてみた。むろん債権を回収しようなどという大それた考えはさらさらなかった。いわば暗い興味である。
(中略)

 大手柄には違いない。しかし新入職員が入職早々にこんな結果を出したら、ほかの参事や主査たちに迷惑がかかる。いやそれ以前に、「機密費」に変わって矢島理事の懐に入ることは目に見えていた。

これがオッサン二人組みが、流行作家から1千万円を回収するという大手柄の真相である。

ウン 大使は2年間、ある公益法人に出向したことがあるので公益法人の成り立ち、実態には詳しいのだが…浅田さんのお話は、かなりの信憑性がうかがえるのでおま♪

この本も『浅田次郎の世界R9』に収めておくものとします。

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