『紅蓮亭の狂女』3

<『紅蓮亭の狂女』3>
図書館で『紅蓮亭の狂女』という本を、手にしたのです。
清国皇帝一族に接近した軍事探偵ってか…
軍事探偵というのは007のようなものなので期待できるかも♪


【紅蓮亭の狂女】
狂人

陳舜臣著、毎日新聞社、1994年刊

<「BOOK」データベース>より
清国皇帝一族に接近した軍事探偵が体験する魔訶不思議の世界―表題作ほか、文学者・郁達夫の死の謎に迫まる「スマトラに沈む」など六篇。

<読む前の大使寸評>
清国皇帝一族に接近した軍事探偵ってか…
軍事探偵というのは007のようなものなので期待できるかも♪

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「鉛色の顔」の語り口を、見てみましょう。
p252~256
<鉛色の顔> 
 翌年4月、フランス艦隊は澎湖島を攻撃した。張阿火の海上ゲリラ隊の活躍は、そのときが最後であった。6月9日、天津において清国代表李鴻章とフランス代表パトノールとのあいだに、和議が成立したのである。

 戦争が終われば義勇軍はお払い箱である。だが、張阿火に従った連中は、無頼の徒であったから、おいそれとは生業につけない。政府から戦費の支給が停止されると、張阿火が連中を養わなければならなかった。いくら金を持っているといっても、五百人もの人間を食わせるのは容易ではない。

 考えあぐねた末、張阿火は海上ゲリラ隊をそのまま海賊にしてしまった。
 海賊商売は5年あまりつづいた。
 掠奪や身代金請求は、資金のかからない商売のように思えるが、そういつもうまく行くとはかぎらない。そのうえ、彼は海賊としては新米だった。もっと勢力をもった海賊グループがいくらもあって、彼の子分のなかの有力メンバーはつぎつぎと引き抜かれて行った。しまいには30人たらずになり、仕事も思わしくなく、資金も欠乏いたので、起死回生の大バクチをうたざるをえなくなった。

 それまでは、沿岸のジャンクばかりを襲っていたが、こんどは外国船を狙うことにしたのである。獲物は多いはずだし、洋票(西洋人の人質)は高く売ることができる。
 狙われたのは、フランス船モンブラン号だった。張阿火はフランスにたいして、まだ敵愾心をもっていたようだ。

 張阿火は数人の仲間とともに乗客に化けて乗りこんでいたが、ピストルを出して船員を威嚇したのがうまく行かなかった。勇敢な水夫長にとりおさえられたのである。
 モンブラン号は海賊に占領されたふりをして、旗をおろした。そして、漕ぎよせたジャンクの海賊たちが縄梯子で船内にはいろうとするところを、上から蒸気パイプのバルブをひらいて、熱湯で殺そうとしたのである。

 張阿火は仲間に縄をといてもらった。念のため、二人の仲間をまだ乗客のなかにひそませていたのがよかった。甲板にとび出した彼は、下にむかって、
 「危ない、にげろ」
 と叫ぶと同時に、海にとびこんだ。

 ジャンクの仲間たちは、ほとんど縄梯子を途中までのぼりかけていた。張阿火の合図は遅かったのである。彼らは熱い蒸気の一斉噴射を浴び、あっというまに海へはじきとばされてしまった。
 張阿火も蒸気をかけられたそうだ。ただ、よじのぼった連中とは反対に、頭を下にはやいスピードで落下したので、あわててひらかれたパイプの蒸気は、彼のからだの一部をかすっただけだという。

 このとき、張阿火一党のうちで生き残ったのは、彼をふくめて僅か5人だったといわれている。そんな少人数では、海賊商売は成立しない。ついに解散となったのである。
 最後の大バクチのために、残った金をジャンクや武器の購入にそそぎこんでしまったので、張阿火は文無しになった。
 こうなれば、もとの役者になるしかない。ほかに彼のできる仕事はなかった。
(中略)

 ストーリーからもわかるように、『貴妃酔酒』は百花亭における楊貴妃の醜態が、『宇宙峰』は金殿における趙女の狂態がみせ場である。歌よりも身ぶりが大切なので、声のいただけない張阿火には、もってこいの芝居だった。

 この二つの演し物は、のちに梅蘭芳がきわめて上品に演じたので有名になった。だが、梅蘭芳以前の舞台では、どちらも醜態や狂態のあいだに、極端に露骨なエロチック・モーションをはさみ、それが観客にうけたのだ。

 『貴妃酔酒』の幕があき、型どおり二人の宦官がまずあらわれた。高力士とハイ力士である。やがて楊貴妃が、扇をもった二人の宮女をしたがえて、舞台に登場した。
 …思ったよりいけるじゃないか。
 と、村尾は思った。

 12年前とかわらぬ、あだっぽい張阿火の貴妃ぶりだった。白粉を塗りたくっているので、素顔は鉛色でもいいわけだ。義勇軍の隊長になったり、海賊の親分になっても、顔の輪郭はかわらない。きらびやかな貴妃の衣装をひらひらさせて、頭上に金ピカの宝冠をいただいておれば、すがただけはなんとか恰好がつく。
 
 貴妃は四平調を歌った。
 
 皓月、空にあり
 恰も嫦娥の月宮を離れるに似たり
 妾も嫦娥の如く月宮を離れ来たりぬ…

 やはり声がいけない。含み声で、発音がはっきりしないのである。声のわるさをかくそうと思えば、自然そうなるのだろう。


『紅蓮亭の狂女』1:紅蓮亭の狂女p3~5
『紅蓮亭の狂女』2:ウルムチに消えた火p209~211

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