個人的言語学11   ③

<個人的言語学11>  
異邦、異邦人に対する興味、あこがれがこうじてくると、その言語に目が向けられる・・・・・
ということで、方言とか言語とかについて集めてみます。
最近は仕事の関係もあり韓国語にはまって、おります。(退職して3年たちましたが)

・天才的なマルチ・リンガル
・紙の動物園
・あやしい日本語学校
・街場の文体論
・世界の文字とことば
・活発化する機械翻訳

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個人的言語学10>目次

・おっとりと論じよう
・日本語に生まれて
・日本語は亡びるのか?
・無理筋のハングル普及
・愛と日本語の惑乱
・漢字廃止で混乱する韓国
・Jブンガク

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個人的言語学9>目次
・漢字をめぐる不毛な論争
・必死のパッチ
・第二外国語の流行り廃れ
・言語表現法講義
・137億年の物語2
・絶滅寸前の満州語

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個人的言語学8>目次
・文字を持っていた突厥帝国
・ベトナム語の悲哀
・外国語の記憶
・なぜ日本人は日本語が話せるのか
・『日本語は生きのびるか―米中日の文化史的三角関係』
・「カラカラ」を観た
・敵性米語について

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個人的言語学7>目次

・サイズと話し言葉
・関西人の話法
・関西弁強化月間みたいに
・全国アホ・バカ分布図
・漢字文化圏の成り立ちについて
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個人的言語学6>目次
・既に漢字文化圏
・「日本隠し」を続ける意地はすごいけど
・『海角七号』で日本語で歌われた「野ばら」
・漢字文化圏あれこれ

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個人的言語学5>目次
・10年後に食える仕事、食えない仕事
・英語や中国語より人生に役立つ言語を学ぼう
・翻訳とは憑依することである
・今日から始まる「100分de名著・徒然草」
・「実戦・世界言語紀行」2
・「日本語を書く部屋」
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個人的言語学4>目次
・「実戦・世界言語紀行」1
・泉州弁と河内弁の違い
・文字を得るということ(工事中)
・「すごっ」 ツッコミ語
・つれづれなるままに「徒然草」
・英語が嫌いな人にお奨めの本です

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個人的言語学3>目次
・「心臓に毛が生えている理由」
・漢字廃止で韓国に何が起きたか
・アジアの共通言語
・北方朝鮮族の女に
・孔子批判
・よくわからないけど

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個人的言語学2>目次
・関西弁の通訳
・英語公用化と絶滅危惧言語
・漢字物語
・リンガ・フランカ教育
・関西弁へのこだわり
・助詞(テニヲハ)がリエゾンする
・初等学校漢字教育反対汎国民委員会
・漢字文化圏の再興
・「日本辺境論」を読んだところですが
・exite翻訳のお手並み
・横尾さんのもの忘れ
・こんなの 序の口です
・カペでコピ(個人的ハングル講座 その3)工事中
・良質なハングル入門書
・英語が出来て当たり前か?
・現存する唯一の表意文字
・日本語を愛する者の心の叫び

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個人的言語学1>目次
・ぼっけえ きょうてえ
・「ちりとてちん」が ええな~
・ガラオケ・・・なんじゃそれ?
・韓国人の英語力
・呉音が好き
・ドングリ国の公用語
・野ばら
・カペでコピ(個人的ハングル講座 その2)
・カペでコピ(個人的ハングル講座 その1)
・泥縄式英会話術
・韓国のおさらい
・Yanさんの方言変換Proxyサーバ
・3都の関西弁 
・『河内弁基礎講座』文法編
・全国方言コンバータ 
・コンバータあれこれ
・スウェーデン語とノルウェー語 
・ラジオ日本
 
・アイヌ語ラジオ講座 
・excite翻訳のお手並み
・日本語あれこれ
・英語になった日本語のリスト
・バスク語 
・イディシ語 なに?  
・ムバンドウ語 なに? 
・アイルランド語とブルトン語 
・カタラン語


<天才的なマルチ・リンガル>
天才的なマルチ・リンガルのロシア人が『東洋文庫ガイドブック2』という本に載っていたので紹介します。

p35~37
<アイヌの歌声から:津島佑子>
 そして、N・ネフスキーの『月と不死』。これも私には得がたい1冊となった。アイヌ叙事詩のうちの神謡(カムイ・ユカラ)に、怠け者の男の子が水汲みをいやがった罰で、月に閉じこめられてしまう話がある。水桶を持った子供の姿に月の影の部分を見立てての話だが、この話がサハリン・アイヌやウイルタ(ギリヤーク)ではどのように変化し、またずっと下って、宮古島、沖縄本島ではどのような月の話が伝わっているか、さらには北欧、北米先住民、メラネシア、そして古代日本の例もあげて、ネフスキーは報告している。
 アイヌのカムイ・ユカラをこのような大きな流れのなかで見る必要があるということを、この本は私に教えてくれた。そして、実を言えば、私にとってこのカムイ・ユカラの印象があまりに忘れがたく、『月の満足』という短篇小説をひとつ、書くに至ってしまった。その意味でも、特別、感謝を捧げなければならない1冊となっている。

 この本はとても親切な編集がなされていて、ネフスキーの翻訳によるアイヌのメノコ・ユカラ(女性が主人公の叙事詩)や、琉球の歌などが収録されていて、さらに日本の民俗学者である柳田国男やアイヌ語研究の先輩金田一京介などに宛てた書簡、そして解説としてかなり詳しいネフスキーの伝記も添えられている。

 ロシアで中国語、日本語を学び、日本に留学している間に、ロシア革命の影響で帰国できなくなり、日本に14年も滞在することになった。やがて、日本女性と結婚し、アイヌ語の研究、東北地方のおしら様やイタコについても調べ、台湾の曹族の言葉、中国の西夏文字、満州語、ウイルタ語、琉球語など、驚異的な範囲の言語に通じ、民俗学をまたいだ研究を果たして、ようやくロシアに戻ったところで、スターリンの粛清に遭い、銃殺されてしまう。
 
 こうした一人のロシア人研究者の人生までが迫ってきて、さまざまな思いをかきたてられる。ネフスキーの妻に宛てた日本語の手紙の写真も掲載されているのだが、私はこの日本語のなめらかさ、達者な文字にすっかり感心させられてしまった。ほかの書簡を見ても分かることではあるが、この人の言語の天才ぶりをここではさすがに信じないわけにいかなくなるのだ。

 そして、この本から刺激を受けて、私自身も世界各地の口承文芸に近づかずにはいられなくなった。もちろん、この分野でも東洋文庫は期待に十分応えてくれる。なかでも、モンゴルの英雄叙事詩『ゲセル・ハーン物語』を読んだときは、アイヌの英雄叙事詩の内容にあまりにそっくりなので、びっくりさせられた。

 13世紀のころ、サハリン・アイヌが今のモンゴルまで攻め込み、その後、今度はモンゴルがサハリンを攻めてきた、という記録が中国の資料に残されているらしい。となると、アイヌとモンゴルとの間に文化の接触も当然、あったのだろう、と想像される。アムール川の流域に沿って、人も物も流れ、叙事詩も流れ、交じりあったのだろうか。

 アイヌからはじまり、ネフスキーから刺激を受けた私の思いは、東洋文庫とともに、こうしてますます広がりつづけていく。

ネフスキーネフスキー


【東洋文庫ガイドブック2】
東洋

平凡社東洋文庫編集部編、平凡社、2006年刊

<「BOOK」データベース>より
運命の一冊、座右の書、旅のお供に暇つぶし、小説のタネ本、老後の娯しみ…四十余人が東洋文庫とのさまざまな付き合い方を語り、解説総目録が既刊750巻の内容を簡潔に伝える。この一冊で叢書全体を見晴らしよく案内。

<読む前の大使寸評>
パラパラめくると、イザベラ・バードとか近代アジアの史実とか載っていて興味ふかいのです。

rakuten東洋文庫ガイドブック2




<紙の動物園>
この本には、あちこちに大きな手書きの漢字が見られるのです。
このような言語学的SFとでもいう本を見たのは初めてのことです。
p330~333
<文字占い師>
 リリーは笑い声をあげた。甘さんはいままでにあったどの中国人ともちがっていた。だが、彼女の笑い声は長くつづかなかった。学校のことがいつも頭のどこかにこびりついており、あしたのことを考えて、リリーは眉間に皺を寄せた。

 甘さんは気づかないふりをした。「だけど、ちょっとした魔法も使うんだよ」

 その言葉にリリーは興味を惹かれた。「どんな魔法?」

 「わしは測字先生(文字占い師)なのだ」
 「って、なに?」
 「爺ちゃんは、名前のなかの漢字や自分で選んだ漢字に基いて、人の運勢を占うんだ」テディが説明した。

 リリーは霧でできた壁に足を踏み入れた気がした。わけがわからず、甘さんを見る。
 
 「中国人は神託を受ける補助手段として書を発明した。そのため、漢字はつねに深遠な魔法を宿しているのだよ。漢字から、人々の悩みや、過去と未来に待ち受けているものをわしは言い当てることができる。ほら、見せてあげよう。なにか単語をひとつ思い浮かべてごらん、どんな単語でもいい」

 リリーはあたりを見まわした。三人は河岸の岩の上に座っており、木々の葉が金色や赤色に紅葉しはじめていて、稲穂がどっしり撓んで収穫間近になっているのがリリーの目に入った。

 「秋」と、リリーは言った。
 甘さんは棒を手に取り、足下の柔らかい泥に漢字を一字書いた。

 秋

 「泥に棒で書いたのでへたくそな字になっているのはかんべんしとくれよ。紙も筆もないのでな。この漢字は、シュウという字で、秋を意味する」
 「これからあたしの運勢がどうやってわかるの?」
 「そうだな、まずこの漢字をばらばらにして、戻す必要がある。漢字というのはほかの漢字を合わせて作られているんだよ。積み木のようにな。秋はふたつのべつの漢字からできている。この漢字の左側の部分はヒエという漢字で、キビや米や穀物一般を意味する。いまここに見える部分は、様式化されているのだけど、大昔には、この文字はこんあふうに書かれていたのだ」
 
 甘さんは泥に書いた。
 
 禾

 「ほら、茎が熟れた穂の重みで撓んでいるように見えるだろ?」
 リリーは心を奪われて、うなづいた。
 「さて、シュウの右側はべつの漢字、フォアで、火を意味する。燃えている炎みたいだろ、火花が飛んでいる?」

 火

 「わしが生まれた中国の北部では、米はできないんだ。そのかわりに、キビや小麦やモロコシを育てておる。秋になり、収穫して脱穀し終わると、畑に藁を積み上げて、燃やし、灰が翌年の畑の肥やしになるようにする。金色の藁と赤い炎、そのふたつを合わせてシュウ、秋ができるのだ」

 リリーはうなづき、その光景を思い描いた。
 「だが、きみが自分の漢字としてシュウを選んだことでわしになにがわかるかといえば」甘さんはしばらく黙って考えた。そしてシュウの字の下にさらに数本の線を引いた。

 愁

 「さて、シュウの下に心を表す漢字シンを書いた。これはきみの心の形を表す文字だ。ふたつの字を合わせると、新しい漢字チョウができる。これは愁いや悲しみを表す文字だ」
 リリーは心臓がキュンと締め付けられる気がして、突然なにもかもぼやけて見えた。リリーは固唾を飲んだ。

  「きみの心にはたくさんの悲しみがあるんだね、リリー、たくさんの心配事がある。っきみをとても、とっても悲しくさせていることがある」
 リリーは老人の柔和で皺の寄った顔を見上げた。


華人による華人の定義が現れているところがあるので見てみましょう。
p354~355
 「中国を表す文字はどう?」

 甘さんはじっと考えこんだ。「それは難しい要求だよ、リリー。Chinaというのは英語では、単純な一語だが、中国語ではそう簡単ではない。中国や中国人を自称する人たちを意味する言葉はたくさんある。そうした言葉の大半は、古代の王朝にちなんでつけられており、現代の言葉は本物の魔法が入っていない抜け殻なのだ。人民共和国とはなんだ? 民国とはなんだ? それらは真の言葉ではない。犠牲者を増やすほうに変わるだけだ」

 しばらく考えてから、甘さんは新たな文字を書いた。

 華

 「これは華という文字だ。この文字だけが、どの皇帝とも、どの王朝とも、殺伐と生け贄を必要とするどんなものとも無関係で中国と中国人を表すものなのだ。人民共和国も民国も両方とも自分たちの名前にこの字を入れているけれど、両国よりもはるかに古く、どちらの国にも属していない字だ。

 華は、もともと、“華やかな”や“壮麗な”という意味だった。地面からひとかたまりの野の花が咲き誇っている形をしている。わかるかい?

 古代の中国人は周辺国の人間から“華人”と呼ばれていた。彼らの着ている服が絹と細かなレースでできている華やかなものだったからだ。だが、わしはそれだけの理由じゃなかったと思う。

 中国人は野の花のようだ。いく先々で生き延び、人生を謳歌する。ひとたび火事が起これば、野の生けるものはすべて焼き尽くされてしまうかもしれないが、雨が降れば、あたかも魔法のように野の花はふたたび姿を現す。冬が訪れ、霜と雪であらゆるものを滅ぼしてしまうかもしれないが、春が来れば野の花がふたたび咲き、みごとな景色をこしらえるだろう。

 いまのところ、革命の赤い炎は大陸本土では燃えているかもしれないし、恐怖の白い霜がこの島を覆ってしまったかもしれない。だが、第七艦隊の鉄の壁が解け去り、本省人と外省人と、わしの故郷にいるその他の華人全員がともに華麗に咲き誇る日は訪れるだろうとわしにはわかる」

 「ぼくはアメリカで華人になるのだ」テディが付け加えた。
 甘さんはうなづいた。「野の花はどこでも花を咲かすことができる」

著者のケン・リュウはこのあと、制海権や228など政治的な事柄にもふれているが・・・どうしても中華中心の思考方法が匂うわけです。でも、共産主義や民族主義に組しないことはよくわかりました。


【紙の動物園】
ケンリュウ

江弘毅著、早川書房 、2015年刊

<「BOOK」データベース>より
ぼくの母さんは中国人だった。母さんがクリスマス・ギフトの包装紙をつかって作ってくれる折り紙の虎や水牛は、みな命を吹きこまれて生き生きと動いていた…。ヒューゴー賞/ネビュラ賞/世界幻想文学大賞という史上初の3冠に輝いた表題作ほか、地球へと小惑星が迫り来る日々を宇宙船の日本人乗組員が穏やかに回顧するヒューゴー賞受賞作「もののあはれ」、中国の片隅の村で出会った妖狐の娘と妖怪退治師のぼくとの触れあいを描く「良い狩りを」など、怜悧な知性と優しい眼差しが交差する全15篇を収録した、テッド・チャンに続く現代アメリカSFの新鋭がおくる日本オリジナル短篇集。

<読む前の大使寸評>
3冠に輝いた現代アメリカSFの新鋭ってか・・・・期待できそうやでぇ♪

<図書館予約:(9/27予約、4/12受取)>
rakuten紙の動物園




<あやしい日本語学校>
図書館で『あやしい日本語学校』という本を手にしたが・・・・
とにかく、就学生の国柄、境遇が多彩なことや、日本語の教授法が日本人にとって興味深いわけです。


【あやしい日本語学校】
日本語

吉武保子著、ビジネス社、1995年刊

<「BOOK」データベース>より
ボランティアの主婦が見たニッポンの中のアジア。憧れの国にやってきた留学生たちの夢の行方は。日本語教師になったお母さんの国際貢献奮戦記。

<読む前の大使寸評>
とにかく、就学生の国柄、境遇が多彩なことや、日本語の教授法が日本人にとって興味深いわけです。

日本語学校の学生が犯罪予備軍のように怪しいのだろうか?・・・・
じつは日本語学校そのものが、かなり胡散臭いのだが、それはさておいて日本語学校が興味深いのです。

rakutenあやしい日本語学校


就学生たちのアルバイト事情が、身につまされます。

<アルバイトは必要十分条件>よりp111~114
 円高、物価高の日本での生活は苦しい。就学生の多くはアルバイトで、学費や生活費を稼がなければやっていけないのが現実だ。
 日本で学ぶ就学生や留学生のアルバイトは、週20時間を越えない範囲で認められている(土日は別)。彼らのアルバイトは事前許可制になっており、入管で「」をもらい、それをアルバイト先に提出して働く。これで、雇う方も雇われる方も、「不法」という言葉にびくつくことはない。しかし、現実には、違法とわかっていても範囲を越えて働いている学生はかなりいる。

 以前のことだが、こんなことがあった。
 一人の新入生が、入学手続をしに学校へやって来た。
「あなたの名前は?」
「・・・・・」
「いつ、来たの?」
「・・・・・」

 なにも答えられない。付き添ってきた友人が通訳に入ってくれたが、彼の日本語もかなりわかりにくく、どうにも要領を得ない。仕方なく、外国語が話せる事務の人を呼び出し、手続きを済ませたが、これだけならめずらしいケースではない。来日したばかりなのだから日本語が話せないのは当然だ。しかし、この学生には驚いた。

 新入生の場合は、ふつう来日して三日後ぐらいまでに学校へ顔を出すのだが、彼はこの時点で、すでに2週間以上が経っていた。

「とっくに新学期が始まっているというのに」
「・・・・・」
「いったい、何をしていたの?」
「・・・・・」
「もっと早く来なくちゃ」

 など、あれやこれや事情を聞きだしているうちに、驚くべき事実が発覚した。日本語で、「はい」も「いいえ」も言えない彼が、すでに掃除のアルバイトを始めていたのだ。開いた口が塞がらないとはこのことだ。

 就学生たちのアルバイト許可は、日本語能力いかんだと言われている。入国当初で、言葉も十分に話せないうちから働くのは、お互いトラブルの元になるという理由から、3ヶ月位は、「資格外許可証」はほとんど取れない。アメリカではこの許可証の制度が浸透していて、雇用主が許可証を持たない学生を一切雇わないため、留学生のアルバイト事情は厳しいらしいと聞いたことがある。しかし、日本は雇用主に対する取り締まりがルーズなので、意外と簡単に働けてしまうらしいのだ。

 それにしてもこの学生は無謀というか、それとも逞しいというべきなのか。スーツケースの中に箒をしのばせて来たのではないかと思うほどの早業だ。
「サバイバルゲームをしたら絶対日本人は負けるわね」と、他の教師たちもため息をつくばかりだった。

 それでは、彼らはどんなアルバイトをしているのか。
 まず一般的なのは、喋る必用がないビル、車輌の清掃、ホテルのベッドメーキングなど。それから、食堂、喫茶店の皿洗い。これも口数は少なくてすむし、難しい仕事ではない。そして少し慣れてくるとホール(ウェイター・ウェイトレス)や調理補助、焼き場を任されるようになる。

「先生、ひらがなを書いてください」
 と、学生から渡された紙を見ると、「刺身」「茶碗蒸し」「冷奴」「お新香」「酢の物」「茄の田楽」「煮魚」などの字が並んでいる。彼は、日本料理屋か居酒屋の皿洗いから、注文書きに昇格したな、と私は一人納得しうなずいている。 


不透明な入管の基準があったりするが・・・・
民間外交の最前線でがんばっているのが、日本語学校の教師たちなのかも知れませんね♪
これこそ、クールジャパンなんだけど、お役所が邪魔ばっかりしているようです。

大使がデラシネだった一時期、日本人デラシネたちの間で「北欧で稼ぎ、南欧で遊び暮らす」という処世術がはやっていたが・・・日本語学校の就学生に比べると、世の中をかなりなめていたようです(笑)
ところで、パリで語学就学をスタートした大使は、ベトナム料理店の皿洗いからスタートしウェイターに昇進したわけで・・・・
絵に描いたような就学生であり、この本に載っている連中が他人事でないのです。



<街場の文体論>
内田先生の『街場の文体論』が積読状態になっているのだが・・・
やや大使のキャパを越えるというか、要するに内容が難しいためである。

これでは、アカンということで、読み進めております。

ハイブリッド言語とも言われる日本語であるが…
日本語という枠が日本人の思考に影響を与えているという視点が興味深いのです。

p214~218
<文法・音韻が日本人の行動・思考にどう影響しているか>
 人間の身体や知性がどういうメカニズムで動いているか、われわれはまだよくわかっていない。特に脳のメカニズムはわかっていない。僕たちが今扱っているのは、知性の問題、それも言語の問題ですが、実際に、どういうふうに言語は構造化されているかよくわかっていない。

 日本語というものは世界でも類を見ない特殊なハイブリッド言語ですけれど、その特殊な言語を使用していることが日本人の思考や感情にどのような影響を及ぼしているのか。まだほとんどわかっていない。

 もちろん、日本語学という学問はあります。日本語の文法構造や音韻の研究はしています。でも、文法構造や音韻規則が日本人の行動や思考にどう影響しているかということの研究をしているわけではありません。しようったって、研究のしようがない。でも、僕はこの授業でそういう話をしたいわけです。

 言語や記号についての一般論はソシュールの時代からずっと進化してきています。でも、それは一般論であって、特殊な日本語の中で生まれ、日本語で語り、聞き、思考しているわれわれの言語現象を全部説明できるわけじゃない。日本語という特殊な言語には一般論的知見だけではカバーしきれない謎がある。あって当然です。

 僕たちは日本語という「ランガージュの檻」に閉じ込められている。フランス人やアメリカ人が閉じ込められているのとは違う檻に閉じ込められている。だから、日本人だけを選択的に幽閉している「ランガージュの檻」を開錠するためには、フランス語話者や、英語話者や中国語話者が使っているのと同じ「鍵」は使えない。

 もちろん、万国共通の「鍵」もあるのですが、日本人だけが縛られている特殊な装置を解除するためには、僕たちが自分たちでその方法を発明するしかない。誰も日本人に代わってそんなものを考え出してはくれません。

 前も言ったように、日本語の特性は表意文字と表音文字を併行利用する点にあります。表意文字(ideogram)と表音文字(phonogram)を併用している。
 ヨーロッパ言語は表音文字です。図像がない。でも、日本語では漢字とひらがな、カタカナをまぜて使う。漢字は表意文字、ひらがな、カタカナは表音文字。

 カタカナには、日本語の土着の語彙には存在しない外来語であることを示す働きもあります。「マイクロフォン」とか「ホワイトボード」という言葉はカタカナで書く。「ホワイトボード」というカタカナを見れば、「これは日本語じゃない」ということがわかる。そこから音が通じる英単語を想像する。なるほど、「ブラックボード」に対して「ホワイトボード」なのねとカタカナの表音表記から英語の原綴を想起することができる。

 カタカナ・ひらがな・漢字それに外国語や数字や記号も入ります。それらのカテゴリーの違う記号が全部同時に入力されたものを僕たちは読んでいる。この脳内の文字処理がどうなっているか、よくわからない。
(中略)

 失語症という病気があります。交通事故にあったり、頭に何かが刺さったりしたせいで、脳に傷がついて、文字が読めなくなる。ところが、日本人は失語症の病態が二つある。漢字だけ読めなくなる場合と、仮名だけ読めなくなる場合と。つまり、脳内で仮名と漢字では処理している部位が違うということです。だから、一方の脳内部位が欠損しても、他方が生きていれば、どちらかは読める。図像処理か音声処理か、いずれかはできる。この特殊性は、必ず日本人の言語運用に影響しているはずです。

 特殊性の一つは、日本人の識字率が高いということです。たぶん、日本語は文字が覚えやすいんだろうと思います。僕は大学に入ってからフランス語を専門的にやったのですが、大学院の頃は朝から晩までぶっ通しでフランス語の文献を読んでいました。集注しているときは、テクストは意味として目に入ってくるんですが、集中力が落ちてくると、突然解体してしまう。文字列がバラバラに崩れて、一字も意味がわからなくなる。

 26種類しかない文字をつなげたり、切ったり、組み合わせたりする作業は思いのほか集中力が要るんです。表音記号ですからね。

 子どものときにまず耳でフランス語を覚え、学校に行くようになってから音に対応する文字を覚えた人の場合には、文字が解体して意味不明になるようなことは起きないと思うんです。集中力が途切れても、とにかく文字列を拾って、それが出す音を聴いているかぎり、いずれ「知っている言葉」が出てくる。でも、僕のは文字から入って覚えたフランス語だから、疲れてきて、文字列が図像的に解体すると、もう意味がわからない。音も聴こえない。テクストは単なるぐちゃぐちゃの模様にしか見えない。

 その点、漢字は絵ですから、解読が楽なんですよ。英語やフランス語だとむずかしい用語は必ず綴りが長くなりますよね。15文字くらいの綴りの字は平気で出てきます。似たような綴りが多いから、ぐいっと凝視しないと単語が特定できない。でも、日本語の場合は楽ですよ。
 だって熟語といっても、基本、漢字2字ですからね。図像的にインパクトのあって、意味の輪郭がはっきりしている漢字が二つばんばんと並んでいると、語義を理解するときの脳の負荷がまるで違う。日本語のほうがずっと楽です。


なるほど、漢字は絵なのか・・・
だから本の1ページを眺めたとき、だいたい何が書かれているかわかるんだな♪



<世界の文字とことば>
図書館で『世界の文字とことば』という本を手にしたが・・・・
この本では、言語が文字の系統ごとにまとめられているという、一風変った本になっています。
お札、街中の看板、パソコンのキーボードなど多数の写真で、各文字の書体が見えるのが楽しい本である。

まず、最古の文字ヒエログリフを見てみましょう。
ヒエログリフ

p78
【最古の文字ヒエログリフ】
 エジプト発祥のヒエログリフ(聖刻文字)は、メソポタミア発祥の楔形文字と並んで世界最古の文字に位置付けられています。しかし、言葉を体系的に表記することのできる象形文字としては、エジプトのヒエログリフが世界最古にして世界最長の歴史を持ちます。
 もっとも古いヒエログリフの資料は、ファラオの出現より数百年も早い紀元前3500年頃と言われ、またもっとも新しい資料はエジプト文明が滅亡してローマ帝国の属州となった紀元後4世紀末のものになります。

 ヒエログリフが象形文字と呼ばれるのは、その文字の形が何らかの対象をかたどっているからです。エジプト人たちは建物、地形、天体、道具、人物、動物、植物など彼らが目にした森羅万象をくまなく文字にしました。それゆえヒエログリフの一覧を見ていると博物図鑑を眺めているような気持ちになります。

 文字の数は時代によって異なりますが、ピラミッドが建設されていた時代で750文字ほど、有名なロゼッタ・ストーンが作成された時代には、6000文字まで増えていたと言われています。

 さて、この象形文字として作られたヒエログリフですが、文字の使い方においては表音文字の用法がもっとも多いということを読者の皆様方はご存じでしょうか。象形文字は文字の作り方に関する用語であり、これとは別に文字の使い方を指す用語には、表語文字、表音文字、限定符などがあります。

 確かにヒエログリフには表語文字の用法があり、たとえば「山」の象形文字を書いて「山」の意味になったり、また「月」の象形文字を書いて「月」の意味になったりします。しかしながら、このような用法は全体の10パーセントにも満たず、用法の半分以上が表音文字なのです。

 アレクサンドロス大王やローマ皇帝カエサルなど、外国人の名前を記したヒエログリフの碑文が残されているのですが、そのようなことが可能だったのも、ヒエログリフが表音文字を兼ね備えた文字体系であったからだと言えます。漢字にも表音機能があるのですが、アレクサンドロスやカエサルを漢字で表記しなさいと言われたら、ちょっと悩んでしまうところです(永井正勝)


ビルマ文字の書体が見えるところを紹介します。
p102~103
【ビルマ文字・ビルマ語】より
 ビルマ族は9世紀頃、現在の中国の雲南省から南下してきてイラワジ川の流域に住み着いたと考えられます。ミャンマー南部でモン人が使用していた文字を借り、工夫を加えて自分たちのことばを書き表しました。

ビルマ

 ビルマ文字は、ビルマ語のほかに上座部仏教の経典語であるパーリ語のお経を書き表すためにも用いられます。形は丸形を基本とした、なんともかわいらしいものです。

 碑文のやや角ばった字から、貝葉に文字が書かれるようになってしだいに丸みをおびるようになり、現在の形ができあがりました。パやガ、ンガーなど、まるで視力検査表のように、丸の上下左右の一部が欠けた文字があります。数字も独自のビルマ数字を使用し、車のナンバーや店頭での価格表示などに見ることができます。

 ビルマ語は、日本語に比べ数多くの母音があり、また音の高低や抑揚の違いによって表す意味が異なってきます。一方、日本語にある音でビルマ語にないものもあります。日本語のキャ、キュ、キョにあたる発音はビルマ語にはないため、「東京」は「トーチョー」と発音されます。

 語順は日本語とほとんど同じです。そのため、日本人にとって文法は比較的学びやすいといえるでしょう。(井上さゆり)



【世界の文字とことば】
文字

町田和彦著、河出書房新社、2009年刊

<「BOOK」データベース>より
優美な文字、かわいらしい文字、不思議な文字と世界の言語。
【目次】
ギリシア文字の系譜(ギリシア文字ーギリシア語/キリル文字ーロシア語 ほか)/アラム文字の末裔たち(ヘブライ文字ーヘブライ語/アラビア文字ーアラビア語 ほか)/ブラーフミー文字の子孫たち(デーヴァナーガリー文字ーヒンディー語/デーヴァナーガリー文字ーネパール語 ほか)/漢字の一族(漢字ー中国語/漢字とかな文字ー日本語)

<大使寸評>
お札、街中の看板、パソコンのキーボードなど多数の写真で、各文字の書体が見えるのが楽しい本である。

rakuten世界の文字とことば




<活発化する機械翻訳>
大使が目を離しているあいだに、機械翻訳が進歩しているようです。
ちょっとプロ向サイトではあるが、最新情報を見てみましょう。


2015.3.16「オリンピックで機械翻訳」目指し、ドコモやパナソニック、ソフトバンクが本腰より
 ITの力で“言葉の壁”を取り払おうとする取り組みが、にわかに活発化している。背景にあるのは、急増する訪日外国人である。日本政府観光局(JNTO)によれば、ビザの免除や発給要件の緩和、消費税免税の対象品目拡大などが追い風になり、2014年は前年比29.4%増の1341万4000人に達した。

 この流れは、東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年に向けてさらに進みそうだ。政府は、2020年に訪日外国人旅行者を2000万人に引き上げる目標を掲げている。

 これに合わせて加速しているのが、機械翻訳技術の開発である。総務省主導の開発プロジェクトが進んでいるほか、民間企業による新規参入の動きもある。

<NICTを中心にオールジャパン態勢で開発>
 総務省は2020年に向けて、「グローバルコミュニケーション計画」と呼ぶ多言語音声翻訳システムの開発プロジェクトを推進している。病院や商業施設、観光地などを対象に、スマートフォンやヘッドセットを用いた多言語でのコミュニケーションを可能にする。英語などの主要言語以外にも対応し、2020年には東京オリンピック・パラリンピックで活用する計画だ。

 研究開発を主導するのは、総務省所管の独立行政法人、情報通信研究機構(NICT)。NICTのユニバーサルコミュニケーション研究所 隅田英一郎副所長によれば、機械翻訳は近年、急速に進化を遂げているという。それを可能にしているのが、統計翻訳と呼ばれる手法である。

 統計翻訳では、ビッグデータをコンピュータで解析し、ある語とその対訳との関係性を統計的に導き出す(関連記事:“言葉の壁がない世界”が現実に? 新手法で進化する機械翻訳)。例えば日本語と英語の翻訳なら、日本語の文章とその英語訳がセットになったデータ(「対訳コーパス」などと呼ぶ)を解析。すると、ある日本語の表現が、どんな英語の表現に訳される確率が高いかが分かる(図)。

図

この方法で高い精度を実現するには、大量の対訳コーパスを集める必要がある。コンピュータやインターネットの普及で言語に関するデータが大量に蓄積されるようになってきたことに加え、コンピュータの性能向上で大規模データの解析も容易になっている。こうしたことから、現在では用途を限ればかなりの高精度に達しているという。例えば旅行会話であれば「TOEICなら600点レベルの翻訳能力を持つ」(隅田氏)ところまで来ている。

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