『紙の動物園』2

<『紙の動物園』2>
図書館に予約していた『紙の動物園』というSFを、ようやくゲットしたのです。
中国人の著わしたSFを初めて読むことになるのだが・・・・
3冠に輝いた現代アメリカSFの新鋭ということで、期待できそうやでぇ♪


【紙の動物園】
ケンリュウ

ケン・リュウ著、早川書房 、2015年刊

<「BOOK」データベース>より
ぼくの母さんは中国人だった。母さんがクリスマス・ギフトの包装紙をつかって作ってくれる折り紙の虎や水牛は、みな命を吹きこまれて生き生きと動いていた…。ヒューゴー賞/ネビュラ賞/世界幻想文学大賞という史上初の3冠に輝いた表題作ほか、地球へと小惑星が迫り来る日々を宇宙船の日本人乗組員が穏やかに回顧するヒューゴー賞受賞作「もののあはれ」、中国の片隅の村で出会った妖狐の娘と妖怪退治師のぼくとの触れあいを描く「良い狩りを」など、怜悧な知性と優しい眼差しが交差する全15篇を収録した、テッド・チャンに続く現代アメリカSFの新鋭がおくる日本オリジナル短篇集。

<読む前の大使寸評>
3冠に輝いた現代アメリカSFの新鋭ってか・・・・期待できそうやでぇ♪

<図書館予約:(9/27予約、4/12受取)>
rakuten紙の動物園


この本には、あちこちに大きな手書きの漢字が見られるのです。
このような言語学的SFとでもいう本を見たのは初めてのことです。
p330~333
<文字占い師>
 リリーは笑い声をあげた。甘さんはいままでにあったどの中国人ともちがっていた。だが、彼女の笑い声は長くつづかなかった。学校のことがいつも頭のどこかにこびりついており、あしたのことを考えて、リリーは眉間に皺を寄せた。

 甘さんは気づかないふりをした。「だけど、ちょっとした魔法も使うんだよ」

 その言葉にリリーは興味を惹かれた。「どんな魔法?」

 「わしは測字先生(文字占い師)なのだ」
 「って、なに?」
 「爺ちゃんは、名前のなかの漢字や自分で選んだ漢字に基いて、人の運勢を占うんだ」テディが説明した。

 リリーは霧でできた壁に足を踏み入れた気がした。わけがわからず、甘さんを見る。
 
 「中国人は神託を受ける補助手段として書を発明した。そのため、漢字はつねに深遠な魔法を宿しているのだよ。漢字から、人々の悩みや、過去と未来に待ち受けているものをわしは言い当てることができる。ほら、見せてあげよう。なにか単語をひとつ思い浮かべてごらん、どんな単語でもいい」

 リリーはあたりを見まわした。三人は河岸の岩の上に座っており、木々の葉が金色や赤色に紅葉しはじめていて、稲穂がどっしり撓んで収穫間近になっているのがリリーの目に入った。

 「秋」と、リリーは言った。
 甘さんは棒を手に取り、足下の柔らかい泥に漢字を一字書いた。

 秋

 「泥に棒で書いたのでへたくそな字になっているのはかんべんしとくれよ。紙も筆もないのでな。この漢字は、シュウという字で、秋を意味する」
 「これからあたしの運勢がどうやってわかるの?」
 「そうだな、まずこの漢字をばらばらにして、戻す必要がある。漢字というのはほかの漢字を合わせて作られているんだよ。積み木のようにな。秋はふたつのべつの漢字からできている。この漢字の左側の部分はヒエという漢字で、キビや米や穀物一般を意味する。いまここに見える部分は、様式化されているのだけど、大昔には、この文字はこんあふうに書かれていたのだ」
 
 甘さんは泥に書いた。
 
 禾

 「ほら、茎が熟れた穂の重みで撓んでいるように見えるだろ?」
 リリーは心を奪われて、うなづいた。
 「さて、シュウの右側はべつの漢字、フォアで、火を意味する。燃えている炎みたいだろ、火花が飛んでいる?」

 火

 「わしが生まれた中国の北部では、米はできないんだ。そのかわりに、キビや小麦やモロコシを育てておる。秋になり、収穫して脱穀し終わると、畑に藁を積み上げて、燃やし、灰が翌年の畑の肥やしになるようにする。金色の藁と赤い炎、そのふたつを合わせてシュウ、秋ができるのだ」

 リリーはうなづき、その光景を思い描いた。
 「だが、きみが自分の漢字としてシュウを選んだことでわしになにがわかるかといえば」甘さんはしばらく黙って考えた。そしてシュウの字の下にさらに数本の線を引いた。

 愁

 「さて、シュウの下に心を表す漢字シンを書いた。これはきみの心の形を表す文字だ。ふたつの字を合わせると、新しい漢字チョウができる。これは愁いや悲しみを表す文字だ」
 リリーは心臓がキュンと締め付けられる気がして、突然なにもかもぼやけて見えた。リリーは固唾を飲んだ。

  「きみの心にはたくさんの悲しみがあるんだね、リリー、たくさんの心配事がある。っきみをとても、とっても悲しくさせていることがある」
 リリーは老人の柔和で皺の寄った顔を見上げた。


華人による華人の定義が現れているところがあるので見てみましょう。
p354~355
 「中国を表す文字はどう?」

 甘さんはじっと考えこんだ。「それは難しい要求だよ、リリー。Chinaというのは英語では、単純な一語だが、中国語ではそう簡単ではない。中国や中国人を自称する人たちを意味する言葉はたくさんある。そうした言葉の大半は、古代の王朝にちなんでつけられており、現代の言葉は本物の魔法が入っていない抜け殻なのだ。人民共和国とはなんだ? 民国とはなんだ? それらは真の言葉ではない。犠牲者を増やすほうに変わるだけだ」

 しばらく考えてから、甘さんは新たな文字を書いた。

 華

 「これは華という文字だ。この文字だけが、どの皇帝とも、どの王朝とも、殺伐と生け贄を必要とするどんなものとも無関係で中国と中国人を表すものなのだ。人民共和国も民国も両方とも自分たちの名前にこの字を入れているけれど、両国よりもはるかに古く、どちらの国にも属していない字だ。

 華は、もともと、“華やかな”や“壮麗な”という意味だった。地面からひとかたまりの野の花が咲き誇っている形をしている。わかるかい?

 古代の中国人は周辺国の人間から“華人”と呼ばれていた。彼らの着ている服が絹と細かなレースでできている華やかなものだったからだ。だが、わしはそれだけの理由じゃなかったと思う。

 中国人は野の花のようだ。いく先々で生き延び、人生を謳歌する。ひとたび火事が起これば、野の生けるものはすべて焼き尽くされてしまうかもしれないが、雨が降れば、あたかも魔法のように野の花はふたたび姿を現す。冬が訪れ、霜と雪であらゆるものを滅ぼしてしまうかもしれないが、春が来れば野の花がふたたび咲き、みごとな景色をこしらえるだろう。

 いまのところ、革命の赤い炎は大陸本土では燃えているかもしれないし、恐怖の白い霜がこの島を覆ってしまったかもしれない。だが、第七艦隊の鉄の壁が解け去り、本省人と外省人と、わしの故郷にいるその他の華人全員がともに華麗に咲き誇る日は訪れるだろうとわしにはわかる」

 「ぼくはアメリカで華人になるのだ」テディが付け加えた。
 甘さんはうなづいた。「野の花はどこでも花を咲かすことができる」

著者のケン・リュウはこのあと、制海権や228など政治的な事柄にもふれているが・・・どうしても中華中心の思考方法が匂うわけです。でも、共産主義や民族主義に組しないことはよくわかりました。

「心智五行」という短編から、タイラとアーティの会話を見てみましょう。
宇宙船に乗っているわずかな人口では、先進技術に基づく文明を何世代も維持するのは困難であるという事実に着目するあたりに、著者のひらめきがあります。
しかし、中国系の原始集団の子孫というのが、日本人読者には自己同一化できるか微妙なところです。

p153~155
<心智五行>より
【59日目】
タイラ:そんなことはありえないわ、アーティ。
(アーティ:モデル名ML-1067Bの人口知能、以降は阿と略する)
阿:分岐分析を複数回おこなった。ファーツォンと彼の一族の話している言葉は、英語の方言だ。標準英語からは千年以上まえに分岐したものだけど。

タイラ:ジャンプシップはできてから1世紀も経っていない。どうやってファーツォンの一族が千年も孤立していられたの?

阿:それはぼくの専門外領域の質問だ。

タイラ:ほかになにか見つかった?

阿:音声分析と彼らがきみに与えている薬に基いて、95パーセントの確度で、彼らが文化的には圧倒的に中国系である原始集団の子孫であると推定する。ほかの文化の影響も若干入っているけれど、たぶん孤立のせいで、彼らの技術的発展は後退したんだろう。

タイラ:ここから脱出するのは困難だろうということね。

【62日目】
タイラ:なんとか長く起きていられるようになって、ファーツォンと話すのに多少進歩した。アーティにまだ通訳してもらわなければならないけど、いくつかの単語や文章は聞き取れた。ファーツォンはとても辛抱強くつきあってくれた。
(中略)

 わたしたちの世界と準拠枠がかけ離れており、アーティを通してだとまだニュアンスをあまり伝えられないでいることを考慮に入れると、ファーツォンと話していてとても気持ちが安らぐのに驚く。 

阿:ぼくはベストを尽している。

タイラ:わかってるって。もちろん、ファーツォンがわたしに興味を抱いているのはわかる。ときどき、わたしをじっと見つめているのに気づいている・・・でも、これは決してうまくいかないな。わたしの最優先の目標にすべきもの・・・生き延びて、故郷に帰ること・・・の妨げになる。わたしは論理的でいなくちゃ。

阿:きみはぼくが一緒に働いたすべての人間のなかで、合理性と安定性では上位1パーセントにランクインしているよ。

タイラ:その状態をわたしが維持しているよう願いましょう。この岩から飛び立つには、慎重に考えなければならない。

阿:ここの連中に関する新説があるんだ。オール=ネットから切り離されているけど、ぼくのデータベースのなかで、千年ほどまえに地球から派遣された相対論的速度でのみ推進できる古代の宇宙船に関する言及を見つけた。人々が地球上の生命が絶滅の危機に瀕していると信じて、混乱が生じていた時期だ。

タイラ:その話、読んだことある!そうした脱出宇宙船の背景には、絶望的な信念があったって。宇宙航行に向いていない船でどうにか旅を生き延びたとしても、船に乗っているわずかな人口では、先進技術に基づく文明を何世代も維持するのは疑わしいな。
 ファーツォンの一族はそんな船が生き延びた最初の確認例になるでしょうね。

阿:到着に要した数世紀のあいだに、鉄工より進んだすべての知識を失ってしまったようだ。

タイラ:アーティ、ファーツォンはあなたのことを一種の精霊だと考えている。彼の一族の精神には、合理的知識で充ちているべき空間に迷信が埋まってきたんだと思う。

【64日目】
阿:かなり良くなっているよ。あれはとても深刻なバクテリア感染だったんだ。

タイラ:それがわたしの被ったもの?

阿:きみの症状はぼくのデータベースにある説明と一致している。何世紀もまえ、きみの祖先たちが地球に閉じ込められていたとき、たいていの人体は無数のバクテリアの生息地だったんだ。バクテリアは腸管のなかや皮膚の上や髪の毛に巣くい、頻繁に病気をもたらしていた。

タイラ:ぞっとする!

阿:結局、きみたちはそうした寄生生物を管理する技術を開発した。そしてきみたちが星々への移動を開始したとき、人類が新しい世界で新鮮なスタートを切れるように、古代の疾病から永久に逃れられるように残っている微菌をすべて根絶するための真剣な努力を払ったんだ。

タイラ:ファーツォンの祖先たちはたぶんそれほど入念じゃなく、病原菌をここに持ち込み、それがわたしに取り憑いたのね。あのおぞましいスープになにが入っていたのか知ってる?あのおかげでわたしは良くなった気がしているのだけど。

阿:たんにきみが自分の力で快復した可能性のほうが高い。あのスープには抗生物質やその他の知られている薬物成分は入っていなかった。彼らの医学理論は、東洋の神秘主義に由来する昔から怪しまれていた迷信に基いているようだ。

ファーツォン:タイラは、自分もおれとまったく同じように死すべき存在であると断言したけれど、ときどきそれを疑っている。彼女の肌は生まれたての赤ん坊のようにすべすべで、顔の造作ときたら、まるで霧と露だけ飲んで育ったかのように繊細で優美だった。傷ひとつなく、欠けているところひとつない。現実の女というより、絵に描いた女のようだ。


『紙の動物園』1

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