『東京奇譚集』
<東京奇譚集>
図書館で『東京奇譚集』というタイトルがやや昔がかった本を手にしたが・・・
村上春樹の小説を昔にさかのぼって読みたくなるわけです。
・・・村上春樹に、はまってしまったんでしょうね。
短篇小説の香りをちょっとだけ嗅ぐ意味で、ハナレイ・ベイの一部を書き写してみます。
ところで、ノーベル賞文学賞受賞者が8日に発表されるが・・・今年こそ村上春樹だよね。
(10/09追記)
今年も落選でしたね。でもまあ・・・毎年、期待する楽しみも捨てがたいのである♪
図書館で『東京奇譚集』というタイトルがやや昔がかった本を手にしたが・・・
村上春樹の小説を昔にさかのぼって読みたくなるわけです。
・・・村上春樹に、はまってしまったんでしょうね。
【東京奇譚集】 ![]() 村上春樹著、新潮社、2005年刊 <「BOOK」データベース>より 五つの最新小説。不思議な、あやしい、ありそうにない話。しかしどこか、あなたの近くで起こっているかもしれない物語。 【目次】 偶然の旅人/ハナレイ・ベイ/どこであれそれが見つかりそうな場所で/日々移動する腎臓のかたちをした石/品川猿 <読む前の大使寸評> 村上春樹の小説を昔にさかのぼって読みたくなるわけです。・・・はまってしまったんでしょうね。 rakuten東京奇譚集 |
短篇小説の香りをちょっとだけ嗅ぐ意味で、ハナレイ・ベイの一部を書き写してみます。
p69~73 大柄の白人の男が彼らのテーブルにやってきて、彼女の脇に立った。手にはウィスキーのグラスを持っていた。たぶん40歳前後。髪は短い。腕は細めの電信柱くらいあり、そこに大きな龍の入れ墨が入っていた。その下にUSMC(合衆国海兵隊)という文字が見える。かなり昔に入れたものらしく、色は薄くなっている。 「あんた、ピアノうまいな」と彼は言った。 「ありがとう」とサチは男の顔をちらっと見てから言った。 「日本人か?」 「そうだよ」 「俺は日本にいたよ。昔のことだけどな。イワクニに2年」 「へえ。私はシカゴに2年いた。昔のことだけど。それでおあいこだよね」 男は少し考えていた。それから冗談みたいなものだろうと見当をつけて笑った。 「なんかピアノ弾いてくれよ。景気のいいやつ。ボビー・ダーリンの『ビヨンド・ザ・シー』知ってるか?歌いたいんだ」 「私はここで働いてるわけじゃないし、今はこの子たちと話をしてるの。ピアノの前に座っている髪の毛の薄い痩せたジェントルマンが、この店専属のピアニストだよ。リクエストがあるんなら、彼に頼めばいいんじゃない?チップを置くのを忘れないようにね」 男は首を振った。「あんなフルーツケーキには、へなへなのオカマ音楽しか弾けない。じゃなくて、あんたのピアノでしゃきっとやってもらいたいんだ。10ドルやるよ」 「500でもごめんだわね」とサチは言った。 「そうかい」と男は言った。 「そういうこと」 「なあ、どうして日本人は自分の国を守るために戦おうとしないんだ?なんで俺たちがイワクニくんだりまで行って、あんたらを守ってやらなくちゃならないんだ?」 「だからピアノくらい黙って弾けと」 「そういうことだ」と男は言った。そしてテーブルの向かいに座っている二人組の方を見た。 「よう。お前らどうせ、役立たずの、頭どんがらのサーファーだろう。ジャップがわざわざハワイまで来て、サーフィンなんかして、いったいどうすんだよ。イワクニじゃな・・・」 「ひとつあんたに質問があるんだけど」とサチが口をはさんだ。「さっきから頭に、ふつふつと疑問がわき起こってきててね」 「言ってみなよ」 サチは首をひねって、男の顔をまっすぐ見上げた。「いったいどういう風にしたら、あんたみたいなタイプの人間ができあがるんだろうって、ずっと考えてたのよ。生まれたときからそういう性格なのか、それとも人生のどっかで何かしらすごおく不快なことがあって、それでそうなってしまったのか、いったいどっちなんでしょうね?自分ではどっちだと思う?」 男はそれについてまた少し考えていた。それからウィスキーのグラスを、テーブルの上にごつんという音をたてて置いた。「あのな、レイディー・・・・」 その大きな声を聞きつけて、店のオーナーがやってきた。彼は小柄な男だったが、元海兵隊員の太い腕をとり、どこかに連れていった。知り合いらしく、男も抵抗はしなかった。ひと言ふた言、捨てぜりふを残していっただけだった。 「すまなかったね」、少し後でオーナーが戻ってきてサチに詫びた。「ふだんは悪いやつじゃないんだけど、酒が入ると人が変わる。あとでよく注意しておくよ。店からなんかサービスするから、不快なことは忘れてくれ」 「いいよ、ああいうの慣れてるから」とサチは言った。 「あの男、いったいなんて言ってたんすか?」とずんぐりがサチに尋ねた。 「何言ってるのか、ぜんぜんわかんなかったな」と長身が言った。「ジャップってのは聞こえたけど」 「わかんなくていいよ。そんなたいしたことじゃないから」とサチは言った。「ところであんたたち、ハナレイで気楽にサーフィンしまくって楽しかった?」 「すげえ楽しかった」とずんぐりが言った。 「サイコーだったす」と長身が言った。 「それは何より。楽しめるときにめいっぱい楽しんでおくといい。そのうちに勘定書がまわってくるから」 |
ところで、ノーベル賞文学賞受賞者が8日に発表されるが・・・今年こそ村上春樹だよね。
(10/09追記)
今年も落選でしたね。でもまあ・・・毎年、期待する楽しみも捨てがたいのである♪
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