「どん底」から見た中国    

<「どん底」から見た中国>
 政治・社会学者のユイさんがインタビューで「知識層による闘争、天安門事件で変化、労働者と農民核に」と説いているので、紹介します。

このインタビュー記事のインタビュアーは、個人的に注目している吉岡桂子記者であり、吉岡桂子記者の渾身インタビュー4連発につながるものでしょうね♪

中国
(ユイさんへのインタビューを6/12デジタル朝日から転記しました)


中国で政府に対して暴力に転じる抗議がたえない。民主化を求める学生たちを力でねじ伏せた天安門事件から25年が過ぎてなお、当局は「弾圧」から抜け出せない。人々は何に怒っているのか。解決の道は。農民や炭鉱労働者、北京へ直訴にくる弱者ら「底層(どん底)」と呼ばれる人々に向き合う政治・社会学者、于建ロン(ユイチエンロン)さんに聞いた。

Q:地元政府の強引な土地収用に抵抗したり、火葬場の建設に反対したり。民衆と警察の衝突が中国で相次いでいます
A:自らの意見を政治に伝える場や代表を持たないからです。土地を奪われて追い詰められ、れんがの破片を持って武装警察に立ち向かう人たちを分別がない、と非難できるでしょうか。怒りの根本を断たないまま弾圧しても暴動はやみません。

 経済成長が鈍るなか、今年は無秩序なストライキも多い。『工会』と呼ばれる中国の労働組合は、共産党が労働者を管理・統制するための組織です。待遇悪化や給料未払いの不満を代弁してはくれない。だから労働者は抗議の行動を起こす。

 人民解放軍を辞めた退役軍人たちも4月、待遇改善を求めて各地でいっせいに抗議行動を起こしました。北京にも大勢やって来た。

Q:当局は抗議行動の連帯を断ちきろうとしているはずなのに、よく同じ日に実行しましたね
A:中国全体で100万人は集まったと彼らは言っています。軍の人員削減で民間に再就職させられた人たちには、地位や待遇への不満が少なくない。ここ数年、デモは激しくなっています。

    ■     ■
Q:2000年代半ばに8万7千件とされた集団抗議事件ですが、当局は近年、統計も発表しません。倍増しているという見方もあります
A:事件の大半は、退役軍人も労働者も農民も、政治権力ではなく経済的な利益を求めたものです。現体制を覆そうとはしていません。

 彼らは法律の条文や中央政府の通達のコピーを山のように抱えて、北京に直訴にくる。中央が決めたことを守らない地方の役人をなんとかしろ、自分の息子を公務員に採用してBMWまで公費で買い与えているぞ、と憤っている。法律を変えろ、ではなく、いまある法律を守れ、と言っているのです。怒ってれんがで政府庁舎を壊したとしても、政府を打倒しようとはしていない。人民元で解決できるものがほとんどです。

Q:しかし、腐敗も不公平も、政治体制と無関係ではないはずです
A:そんなこと、彼らもわかっていますよ。策略です。中央をまともに批判したところで、もっと面倒なことになるばかり。得るものはない。ならば、中央の言い分を用いて地方政府の役人を批判し、得られる利益を得ようとしているのです。

Q:公害病で苦しむ村の知人たちは、北京に陳情しようとして地元の駅で何度も阻止されました
A:そもそも地元で司法が機能していれば、陳情する必要はない。地元の裁判所に訴えても受けつけてくれないことが多く、北京へ直訴に向かう。だが、地方政府の業績として『安定』が非常に重視されており、地方の役人はときにヤクザも雇って止めようとする。デモ、ストライキも抑圧する。行き場を失った人々は暴力など極端な行動に走るのです。
 うっぷんばらしのような事件までも増えています。誰かが警察や役人から虐げられたと聞いただけで、自分の利害に直接関係なくても派出所や役所を襲う。非常に深刻な問題です。
 中国社会の衝突は1989年の(天安門)事件を境に、知識層が主導する権力闘争から、労働者や農民を中心とする権利の擁護、経済的な利益を求める闘争に変わりました。知識層の多くは政治から離れ、経済成長の波にのって商売でもうけたり、体制内に入っていったりした。こうして現体制内で共通の利益を得られるエリート同盟ができあがった。そこから排除され、一番遠くにいるのが労働者と農民です。互いに移動することがない、二元化した社会になってしまった。

    ■     ■
Q:中国当局が「新疆ウイグル自治区の分裂主義勢力による暴力事件」と呼ぶ、少数民族地域での無差別殺傷事件も頻繁に起きています
A:少数民族問題は宗教もからんでもっと複雑です。現体制に挑戦するつもりはない退役軍人らのデモとは明らかに違うでしょう。権利の保護の要求と恨みをはらす行動の間に位置づけられるように見えます。ただ、事件の背景は、我々にもわからないことが多いのです。

Q:言論や市民運動への弾圧が強まっています。まず、新体制を決める共産党大会が理由でした。その後、政府の重要な会議がある、少数民族がからむテロが起きた、そして天安門事件から25年だから、と引き締めはやみません。共産党の統治に触れず、緩やかに改革をめざす「新公民運動」も取り締まられました
A:共産党の伝統的な統治の手法として、組織化しうる運動の芽はつみとる。成長すると面倒だからです。

    ■     ■
Q:宗教への圧力も強まっています。4月には浙江省のキリスト教会が撤去されました。中国政府が認めていない「地下教会」ではなく、公認教会まで抑圧されたことに波紋が広がっています
A:家庭教会(非公認の教会)を調査したことがあります。そこでわかったのは、宗教は圧力をかければかけるほど発展する。開放したほうが問題は深刻にならない。ここ数カ月、取り締まりが一段と激しくなっています。しかし、市民運動も労働運動も含めて、圧力がすぎると秘密結社として地下に潜ってしまう。統治にはより危険な存在になります。

Q:いずれも、当局は社会の「安定」のためだ、と言っています
A:もろさを抱えた硬直的な安定です。安定が国家の最高目標になり、デモやストライキ、陳情、小さな集会も不安定要因にされてしまう。立派なビルが並び、広い道路が延び、繁栄を満喫しているように見えても、頻発する事件が当局者の自信を動揺させているのでしょう。
 (習近平体制の向こう10年の改革指針である)3中全会が決めた目標は正しいと思います。法治や民主を進歩させる、と書いてある。政治権力は本来、メディアや知識人からの批判とか、人々からの抵抗によって制約を受けるもの。それを排除してしまうと、将来問題が起きたときの動揺はもっと大きくなる。

 日本のような民主的な社会は、議論してばかりで何も決まらない、といらだつことも多いでしょう。だけど大間違いはしない。開明的な『皇帝』はすばらしい福利を授けてくれるかもしれませんが、権力の集中は大きな誤りをあっさりと犯すかもしれない。だから我々知識人は(専制的な政治体制下でも)目標に向かう手段に問題があれば、批判しなければならない。目標を共有しているのであれば、手段を批判する者は、政権の敵対勢力ではない。

Q:いま、必要なものは
A:中国の憲法には、民主も法治も人権も書いてあります。憲法の枠組みのなかで権力を相互に牽制させ、独裁がもたらすような暴政を絶やす。法律で決められた財産権を守る。 代議制や司法の独立、開かれたメディアを実現していくことです。

Q:すぐには難しそうです
A:私が昨年、貴州省の農村の村長補佐に無給で名乗りをあげたら、多くの賛同者が集まりました。法律の枠内で、村の発展事業を村民の相互扶助で進めようと考えたのです。話題になりすぎたせいか不穏視され、続けられなくなりましたが。車のトランクに10万元(約160万円)もの現金を詰めてかけつけた企業家や、税関の管理職を辞めてまでやってきた女性もいました。
 どんなふうに住民に向き合うべきか、私のところに話を聞きにくる役人も少なくありません。中国にも、理想を捨てない人々はいるのです。

     *

于建ロン:62年中国・湖南省生まれ。政府系の中国社会科学院農村発展研究所教授。邦訳著書に「安源炭鉱実録 中国労働者階級の栄光と夢想」など。

<取材を終えて>
北京郊外にある于さんの仕事場で会った。画家や画材店が多く集まる芸術村と呼ばれる地区で、自身も絵筆を持つ。「高値でも絶対に手放さない」という自作が2枚ある。

 1枚は、息子の冤罪を晴らそうと地方の村から北京に直訴にやってきた老婆。しわだらけの顔に涙をたたえて正面を見つめている。面談中、陳情者を取り締まる当局が彼女を車で連れ去ったという。

 もう1枚は、顔のない真っ白な毛沢東に頭を下げる灰色の男たち。2メートル四方の大作だ。無表情なモノトーンが醸し出す陰鬱さは、「思想を開放する自由がない」ことを表す。

 別れ際、絵を描く理由を問うてみた。「本当の事を言ったり書いたりする空間が狭くなった。その分、絵を描く。私は絶対ウソをつきたくないから

 「どん底」の憤怒の現場を歩き、インターネットでも積極的に発信していた于さんに、そう言わせる息苦しさが迫る。人々の声をすくいあげるパイプを封じながら、「人民元」による利害の調整はどこまでできるのか。やまぬ暴動は警鐘に違いない。(編集委員・吉岡桂子)


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