「全国アホ・バカ分布考」読書レポート#8

<アホとバカ、どっちが偉い?>
わりと分厚い文庫本であるが、やっと終わりが見えてきました。
「アホとバカ、どっちが偉い?」というテーマ設定が、関西人のナショナリズムを刺激するわけですね(笑)
松本プロジューサーと百田君がタッグを組めば、その回答は予想できるけど・・・・


<「馬家」と「阿呆」の日本文化>p460~464
「そうなんですよ。『阿呆』は、簡素を重んじる『わび』の世界なんです。『阿呆』こそまさに、禅の美学そのものではないでしょうか!」
「なんか変な調子だな。どうも百田君は『バカ』を、バカにしているみたいだよ」
 と日沢君が言葉をさしはさむと、
「いや、違う。『バカ』も物凄う偉大なんや!」
 と百田君は、さらに声を大にして力説した。
「惚れ者・惚け者、鮟鱇・田蔵田、それから『ごじゃっぺ』も『でれすけ』も、その他の形容詞も、みんなアホでも理解できるようなわかりやすい言葉やった。仏教語の本地なしや虚仮も、流行し始めたころには、説話を聞いて誰でも知っていた。しかし馬家だけは違う。これは限られた知的教養人にしかわからん言葉やった。つまり『バカ』だけは、生まれついてのお坊ちゃま。すべてのアホ・バカ表現の中で、ずば抜けてインテリジェンスの高い言葉が、実は『バカ』であった。それが今まで、日本でいちばん『愚か』しい、下賎な言葉やと信じられてきた。まさに、歴史のアイロニーと言うべきです」
「今になって思うに、『バカ』という言葉からは、王朝貴族の風雅な、しかも凛とした美意識が、かぎろい立ってくるような気がするなぁ」
 と私が言うと、
「つまり『バカ』がお坊ちゃまということでしょう。『バカ』の出自は、他のどの言葉よりも高貴で、生まれながらにして天下を支配する宿命を帯びていたんです」
「ふうん。百田君は人や物をけなすのもうまいけど、褒めるのもなかなかのもんやなぁ」
 私が感心すると、百田君はまた、勝ち誇ったように高笑いした。それを見ていて、私は百田君の本当の心が知りたくなった。
「それで、百田君は『アホ』と『バカ』、一体どっちが偉大なの?」
 即座に百田君は言い放った。
「それはもう、『アホ』に決まってますよ。『バカ』も偉大ですが、やはり『アホ』が究極の表現であるという地位は揺るがないでしょう」
「なに言っているんだい。『バカ』こそ、湾曲的な言い回しを求め続けた奥床しく、かつ知恵にあふれる日本人の、究極の到達点とも言えるじゃないか。そう考えると、『アホウ』はちょっと安直すぎるよ」
 日沢君は、ついつい「バカ」に加勢した。さすがに「コバガタクレ」を使ってきた土地の人である。そのとき、ふと私は、ある人物の思い出した。
「ちょっと待った。『アホ』と『バカ』の偉大さをくらべてる場合やない!」
 私はふたりにクイズを出した。
「その作品の中に、『アホウ』も『バカ』もいっぱい使って、いやそれだけでない、民衆のあらゆる卑語、俗語をいっぱい使って、世界に冠たる文学世界を樹立した作家が、日本にただひとりだけいる。それは誰やと思う?」
「そんな人、いましたかね?」
 百田君は腕を組んで考え込んだ。
「いるよ。『アホウ』『バカ』だけでなく、『タワケ』も『ウツケ』も『アンダラ』も随所に使って、世界に誇るべき日本文学を打ち立てた人が、たったひとりだけ。『アホウ』というよりも、実際は『アハウ』と書かれている。日沢君なら、誰かわかるね?」
 日沢君は、なにに向かってか真正面を見すえ、小さく肩を震わせていた。
「ええ、わかります。それは・・・」
 日沢君は、力を込めて言った。
「近松門左衛門ですよ」
「そのとおり。日沢君が十代からあこがれ続けてきた人や。この間、テレビでドナルド・キーンさんが言うたはった。西にシェークスピアがあって、東に近松門左衛門あり、と。近松は、シェークスピアに対抗し得る世界的な劇作家であると。『アホウ』も『バカ』も『タワケ』もいっぱい使うことによって、つまり自分が生きた元禄の世を包み隠さず描ききることによって、近松はついに、人類に普遍的な芸術を創出し得た。あの偉大な西鶴ですら、『バカ』はしばしば使っても、現実に身のまわりで使われていた『アホウ』はほとんど使わなかった。しかし近松は、惜しげもなく『アホウ』『バカ』『タワケ』を多用している。近松門左衛門こそ、卑語・俗語の中に永遠の人間の真実を見た、日本で最初にして、かつ最大の作家やったんや」
「日沢君は、そんな偉大な人物にあこがれていたのか」
 と、百田君は面白がった。
 (中略)
 そしてようやく三人、それぞれバラバラの焼き加減の、おいしそうなステーキに向き直ったのである。

アルコール抜きで、こんな格調高いお話ができるスタッフとは、なかなかのもんでんな♪
テレビ界の未来も明るいのではなかろうか思うのである(笑)


【全国アホ・バカ分布考】
アホ
松本修著、新潮社、1996年刊

<「BOOK」データベースより>
大阪はアホ。東京はバカ。境界線はどこ?人気TV番組に寄せられた小さな疑問が全ての発端だった。調査を経るうち、境界という問題を越え、全国のアホ・バカ表現の分布調査という壮大な試みへと発展。各市町村へのローラー作戦、古辞書類の渉猟、そして思索。ホンズナス、ホウケ、ダラ、ダボ…。それらの分布は一体何を意味するのか。知的興奮に満ちた傑作ノンフィクション。

<大使寸評>
番組に依頼した人の着眼がよかったのか、それを採用し追及させた松本修プロデューサーが偉かったのか♪

Amazon全国アホ・バカ分布考
ノンフィクション100選★全国アホ・バカ分布考|松本修


全国アホ・バカ分布図
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