「全国アホ・バカ分布考」読書レポート#6

<「このバカタレが!」と言いたいことが多い>
最近「このバカタレが!」と言いたいことが多いが・・・・この本によれば「バカタレ」は関西弁なんだそうです。
で、「バカタレ」のルーツを知りたいと思うわけですね。


<「バカモン」「バカタレ」は関西弁>p248~252
 報告書にまとめたいと思ったのは、分布図23語に含まれなかったその他の語彙や、都道府県別の語彙集だけではなかった。「フムリン」や「ホンジナシ」の調査結果についても報告したいし、さらにもうひとつ、果たさねばならないことがあった。それは「バカ」という、日本を広く支配する言葉の謎に少しでも迫ることである。実は「バカ」について、私は早い時点からひとつの大きな疑問にとりつかれていた。
 その疑問とは、「バカ」には、「戯け者」「惚れ者」「惚け者」「あやかり者」、あるいはほとんど文献にしか残らない「痴れ者」「空け者」と同じように、もとは「者」が必用だったのではないかという疑問である。現に「バカ」は、今も「馬鹿者」という言い方が一般的であるのに対して、「アホ」の場合、「阿呆者」という言い方はしないのが普通である。
 疑問の発端は、近畿の周辺部からの回答に「バカ」ではなく、「バカタレ」が多いことに気づいたこと、さらに図に見るように「バカタレ」と「バカモン」が東北の北部や九州に数多く見られたことにある。「タレ」や「モノ」など接尾語つきの「バカ」こそが、古い形を残しているのではないか?
 近畿地方で「バカタレ」が回答されたのは、次の15の市町村であった。
 滋賀県・・・・余呉町・甲南町・中主町
 京都府・・・・舞鶴市・亀岡市・伊根町
 兵庫県・・・・新宮町・美方町・温泉町・朝来町・洲本市
 三重県・・・・阿山町・伊勢市
 和歌山県・・・美浜町・那智勝浦町

 一方、「バカモン」の回答はわずか数件にとどまった。滋賀県甲南町の回答者・真泉善常氏は、「バカモン」「バカタレ」などは若い世代はあまり使わなくなったとし、その代わりに台頭しつつあるのが「アホ」「バカ」であると指摘しておられる。
 こうした回答を眺めて、ある日私は胸を突かれた。うかつにも今までまったく意識していなかったが、「バカモン」「バカタレ」が、実は今に生きる関西弁であったことにハタと気づいたのである。上記の地域だけではない。「バカモン」「バカタレ」は、京阪神でもよく耳にする言葉だった。「バカ系語」は関西弁ではない、という確立された常識に対して、それはコペルニクス的な発想の転換を強いる、衝撃的な事実であった。
 回答が近畿周辺部からにのみ限られたのは、近畿中央部よりももっと使用頻度が高いからか、あるいは回答者の方言に対する意識の鋭さからだろう。

 「バカモン」「バカタレ」が関西の言葉であることを意識してから、私は仕事場で、改めてまわりの人たちが使う言葉に注意してみた。すると京都・大阪・神戸、どこの出身者もやはり「バカモン」「バカタレ」を使っているのである。男性ばかりでなく、短大を出てきたばかりの年若い女の子たちも、ときに威勢よく使うことがある。上方漫才のやりとりの中で、これらが使われるのはごく当たり前のことのようでもあった。

 ある日、京都の室町で育った友人が訪ねて来た際に、子供のころどんな言葉で叱られてきたかを尋ねてみた。
 「うちの家系はずっと京都人ですが、親父から『アホ』と言われたことは、一回もないですね。いつも『バカモン』『バカタレ』で叱られてきました」
 納得のできる答えだった。「アホ」や「ドアホ」「アホンダラ」「ボケ」「カス」などでは子供の喧嘩のようであるし、父親の権威で堂々と叱りつける場合は、やはり「バカモン」「バカタレ」でなければならないということだろう。
 京都や大阪では普通、「バカ」という言い方はしない。だから東京人が、関西に出向いて「バカ」などと言ったら、非常に当惑され、気分を悪くされる可能性がある。「バカ」は耳慣れない言葉であり、不当に蔑まれたように思えるのである。これは逆に東京人が、関西人から「アホ」と言われて、耐え難い不快感を覚えるのと似ている。
 しかしながら関西人は、「バカモン!」「バカタレ!」と言われても、そうした類いの不快感を示すことは絶対にあり得ない。
 横浜で育った女性ディレクターに聞くと、関西に来て面白く思った言葉のひとつが「バカタレ」だったという。
 「関西の人は『バカ』は絶対言わないのに、なぜ『バカタレ』は使うんだろう?」
 関東人から見ても「バカタレ」はやはり関西弁なのだった。

ここまで、読んできて大使は「番組プロジューサーといえばルポルタージュはお手の物だから、構成も文章もなかなかのもんだ♪」と思ったのだが・・・・
巻末の解説で俵万智さんが、松本さんの文章を絶賛しています。
曰く「著者は、映像の人であると同時に、言葉の人でもあるのだ。テレビ界の人にしておくのは、もったいないかも、とさえ思われた」

ちなみに、相手をののしる場合の「アホ」「ボケ」「ドアホ」などの使用例を中島らも著「西方冗土」より紹介します。

〇:なんやと?おのれ誰に向かって口きいとんじゃ、このドアホ!
▲:あははは、いや冗談でんがな。
〇:冗談?寝言は寝てからぬかせ、このボケ!
▲:えろうすんまへん。
〇:“すんまへん”ですんだら警察はいらんのじゃ、このカス!
▲:・・・・なんもそこまで言わんかて・・・・
〇:やかまっしゃい、ミソ汁で顔あろて出直してこい、このスカタン!
(このような関西人には、「アホ」は親愛の言葉で、効き目はない。「ボケ」「カス」ときて、初めてムッとするのである)



【全国アホ・バカ分布考】
アホ
松本修著、新潮社、1996年刊

<「BOOK」データベースより>
大阪はアホ。東京はバカ。境界線はどこ?人気TV番組に寄せられた小さな疑問が全ての発端だった。調査を経るうち、境界という問題を越え、全国のアホ・バカ表現の分布調査という壮大な試みへと発展。各市町村へのローラー作戦、古辞書類の渉猟、そして思索。ホンズナス、ホウケ、ダラ、ダボ…。それらの分布は一体何を意味するのか。知的興奮に満ちた傑作ノンフィクション。

<大使寸評>
番組に依頼した人の着眼がよかったのか、それを採用し追及させた松本修プロデューサーが偉かったのか♪

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ノンフィクション100選★全国アホ・バカ分布考|松本修


全国アホ・バカ分布図
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