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zoom RSS 『パリわずらい江戸わずらい』1

<<   作成日時 : 2017/07/29 08:27   >>

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<『パリわずらい江戸わずらい』1>
図書館で『パリわずらい江戸わずらい』という本を、手にしたのです。
JAL機内誌『スカイワード』人気連載単行本化の第3弾とのこと・・・
ちょっと洒落ていて、海外旅行の気分も味わえるかも♪



【パリわずらい江戸わずらい】
浅田

浅田次郎著、小学館、2014年刊

<「BOOK」データベース>より
長春で梶井基次郎に思いを馳せ、ナポリでナポリタンを追い求め、ラスベガスでマイケル・ジャクソンと運命の邂逅…超多忙の作家が国内外で遭遇した笑いと感動の出来事を綴った傑作エッセイ集!招かれざる客、六十九次てくてく歩き、ちくわぶ綺譚、華麗なるカレー、チップの考察、アメニティ・グッズ、文明の利器、イタリアン・クライシス、ほか極上の40篇。

<読む前の大使寸評>
JAL機内誌『スカイワード』人気連載単行本化の第3弾とのこと・・・
ちょっと洒落ていて、海外旅行の気分も味わえるかも♪

rakutenパリわずらい江戸わずらい


この本からエッセイを一つ見てみましょう。
p33〜36
<夕焼け小焼け> 
 私の本分は小説を書くことなのだが、年齢とともにそのほかの仕事が増えてしまって往生している。
 どうにも子供のころから、「誰かがやる仕事」を「自分がやる仕事」と考えてしまう癖があり、よく言うなら責任感が強いのだが、つまるところ要領が悪いのである。

 というわけで新日中友好21世紀委員会なるもののメンバーを引き受けてしまった。中国を舞台にした小説を勝手に書かせていただいているので、この際に多少のご恩返しができれば、という単純な動機であった。

 新メンバーによる第1回の会合は、2010年2月7日から北京で開かれた。すこぶる楽観的な性格なので、現実に直面するまでは事の重大さに気付かないのである。で、ふと気付けば釣魚台国賓館の大会議室にチョコンと座っており、私の周囲には日中の各界を代表する著名な人々がズラリと並んでおり、夥しい数の報道陣に取り囲まれていたのであった。

 二日間にわたる会議のあとは、中南海で温家宝国務院総理との会見だそうだ。むろん予定ぐらいは先刻承知のうえだが、現実が目前に迫るまでは他人事なのである。内心うろたえながら、しみじみと俺は呑気者だと思った。

 ガラス張りの大会議室から眺める釣魚台の庭園は、昨夜来の雪景色であった。その純白の上に群れ遊ぶ鳥はカラスではなく、日本ではとんと見かけぬカササギである。

 中国作家協会主席の鉄ギ先生は、お名前こそいかめしいが実は妙齢の美しい女性である。
 「かつて訪日したとき、たそがれの東京の街に聞き覚えのある歌が流れていました」と彼女は言い、会議の席上でその歌を披露して下さった。

 夕焼け小焼けで 日が暮れて
 山のお寺の 鐘が鳴る
 おててつないで みなかえろう
 からすといっしょに かえりましょ

 日本人なら誰もがそらんじている童謡である。古い歌は時代とともに消えていってしまうが、この歌は帰宅の時刻を知らせる合図として、今も日本中の校庭や街角に流れている。彼女はこの歌を、父から口伝えに教わっていたのだった。

 私は鉄ギ女史の経歴を読んだ。1957年、北京生まれ。その1行の記述だけで、私の胸をたしかな想像が被った。
 「お父上はどうしてこの歌をご存知だったのでしょうか」
 と、私は質問をした。思わず声に出したとき、もしや禁忌を踏んだのではないかと思った。私の想像は日中全委員の想像だったはずだからである。新日中友好21世紀委員会はその名称からもわかる通り、両国の現在と未来とを語り合う会合であり、過去を省みる集いではなかった。

 鉄ギさんは私をじっと見つめたあと、まるで示し合わせたような答えを口にして下さった。
 「私の父は9歳のとき、華北の農村に進駐していた日本兵からこの歌を教わりました。軍歌か、あるいは宣撫工作のための歌かもしれないと思っていたので、私は歌わないようにしていたのですが、心が覚えていたのです」

 それからの鉄ギさんと私とのやりとりは、禁忌を踏むとまでは言わぬが、おそらく会議の趣旨をたがえていたと思う。しかし言葉の聖火を握って走るそれぞれの国のランナーとして、言うべきことにはちがいなかった。

 『夕焼け小焼け』は望郷の歌である。華北の農村にあった日本兵は、同じ歳ごろの子供を郷里に残していたのかもしれない。「おててつないでみなかえろう」と歌ったとき、兵隊は幼い少年の手を固く握ったと思う。カササギですら日が暮れれば森に帰るのに、戦に出たまま帰ることのできぬおのれの身を、歌に託して嘆いたのであろう。

 戦争において言葉は無力だが、その名もなき兵隊の口ずさんだ『夕焼け小焼け』は、粉うかたなき芸術であった。少年は意味もわからぬままその歌を覚え、やがて娘に教え、その娘が長じて日本を訪れたとき、歌詞に込められた真実を知るのである。

 鉄ギ女史は多くを語らず、明晰な一言で対話をしめくくって下さった。
 「文学は時代の鏡、作家は時代の良心です」




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