カツラの葉っぱ 大好き!

アクセスカウンタ

zoom RSS 『地下鉄に乗って』

<<   作成日時 : 2017/07/20 08:24   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 0

<『地下鉄に乗って』>
図書館で『地下鉄に乗って』という文庫本を、手にしたのです。
裏表紙のコピーに、「満州に出征する父を目撃し」、「封印された過去に思わず涙がこぼれ落ちる感動の浅田ワールド」とあるので、借りる決め手になったのです。



【地下鉄に乗って】
浅田

浅田次郎著、講談社、1999年刊

<「BOOK」データベース>より
永田町の地下鉄駅の階段を上がると、そこは三十年前の風景。ワンマンな父に反発し自殺した兄が現れた。さらに満州に出征する父を目撃し、また戦後闇市で精力的に商いに励む父に出会う。だが封印された“過去”に行ったため…。思わず涙がこぼれ落ちる感動の浅田ワールド。吉川英治文学新人賞に輝く名作。

<読む前の大使寸評>
裏表紙のコピーに、「満州に出征する父を目撃し」、「封印された過去に思わず涙がこぼれ落ちる感動の浅田ワールド」とあるので、借りる決め手になったのです。

rakuten地下鉄に乗って


この小説の語り口を、ちょっとだけ見てみましょう。
p15〜17
 つまらぬパーティだった。誰もがまるで釣り場で餌をまきちらすように、一束も名刺をまいていた。恩師の挨拶や幹事の報告や、胃癌で死んだ不幸な級友のことなど、どうでも良かった。

 最初の30分は名刺をまきながら相手を物色し、やがてそれらしい組み合わせが自然にできあがると、喧噪は静まった。集団見合いのような猥雑さと猥褻さだった。

 真次のところにも、人々はまったく営業用の顔でやってきた。しかし「有限会社シンデレラナイト営業部」と書かれた名刺に狐につままれたように見、「オヤジの会社とは関係ないんだ」、という率直な言葉を聞くと、深い事情は問わずにみな消えていった。
 理由を問い質すほどの友情を持ち合わせている者がいなかったのは、真次にとってむしろ都合の良いことだった。

 いや、彼の安物の背広やすりへった靴や、十年も使っている脂じみたメガネを一瞥すれば、問い質すだけの勇気を誰も持たなかったという方が正しかろう。何しろ25年ぶりに会う友人たちにとって、小沼真次は学年では屈指の秀才で、立志伝中の傑物の御曹司で、典型的な戦後財閥の後継者でなければならなかったのだから。

 彼がほとんど思いつきで同窓会場のホテルに立ち寄った理由を、強いて上げるとするなら、それはしごく個人的でたわいない理由である。
 
 このところの不景気で、取引先のブティックや洋品店の売上げは低迷しており、わずかな集金もままならない。虎の子の訪問販売先である飲み屋のホステスたちも財布の紐が堅い。気持ちが腐っていた彼を、ちょうどその時刻に地下鉄が赤坂見附の駅まで運んでしまった、というわけだ。

 今さら恥をかいたと感じるほど、まっとうな人生を送って来たわけではない。しかし会費の2万円は、参加することに何の利益もない彼にとっては痛打だった。

 きっと、恥は心に感じぬ分、酒に溶けこんでいたのだろう。悪酔いはそのせいにちがいない。せめて会費分は飲んでやろうとして、友人たちの差し向ける懐疑とあわれみの毒を呷り続けていたのだ。

 プラットフォームに人影はなかった。赤坂見附からの長い地下道を歩き詰めてきた鼓動が収まると、怖気をふるうほどの寒さが背にのしかかってきた。
 ふいに人の気配を感じて頭をもたげると、厚いマフラーで顔の半分をくるんだ老人が立っていた。

 「ああ、野平先生・・・」
 マフラーを引き下げると、老人は真っ白な口髭を横に引いて微笑んだ。
 「君は、二次会には行かなかったのかね」
 乾いた、土鈴を振るような声で野平老人は訊ねた。
 その声は昔と変わらない。のっぺいと渾名されていた、書道の教師である。


 会場では気付かなかったが、きっと教え子たちにないがしろにされて、隅の席にでも座っていたのだろう。もっとも25年前、すでにないがしろにされていた教師なのだが。
 「お元気そうですね」
 と、真次はスーツケースを引いて席を勧めた。重そうな古外套の背を屈め、ステッキにすがるようにして、のっぺいはベンチに腰を下ろした。背負ってきた冬の匂いが、ひんやりと真次の頬に伝わった。
 「87になったよ。この時間に地下鉄を待っておる明治の男は、おそらく僕ひとりだろうね」
 ステッキの柄に顎を載せて、のっぺいは答えた。


この本も浅田次郎の世界R2に収めるものとします。


テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
『地下鉄に乗って』 カツラの葉っぱ 大好き!/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる