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<<   作成日時 : 2015/02/25 08:57   >>

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<中華民族復興>
 文化人類学者パトリック・ルーカスさんがインタビューで「『我々は特別な民』共産主義に代わる便利な統治の道具」と説いているので、紹介します。

 共産主義から中華民族へとデマゴーグが代わるようだが、王朝の統治システムは変わらないようです。
ルーカス
(ルーカスさんへのインタビューを2/25デジタル朝日から転記しました)


「中華民族」という言葉が高らかに唱えられる最近の中国。日中関係の行方がまだまだ不透明な中、戦後70年の今年、日本への風当たりも強まりかねない様相だ。中国の変化を約30年にわたって見つめてきた米国の文化人類学者、パトリック・ルーカスさんは、中国国内のナショナリズムを、中国語で「民族主義」と語る。意見を聞いた。

Q:「偉大なる中華民族の復興」。習近平政権が強調するこのスローガンからお聞きします。どう見ますか。
A:習近平氏の発する言葉は、この20〜30年間の中国の最高指導者のなかで、最も民族主義的な色彩が強いものだと言えるでしょう。彼の言葉にはイメージ的なものも含めて二つの理論が盛り込まれています。一つは『中国は特別である』ということ。もう一つは『中国の需要は他者より大事だ』といったものです。

 『偉大なる中華民族の復興』とは、我々は歴史上優秀な民族であり、アジアの中心だった元々の地位に戻ると言いたいのです。こうした考え方は、とても危険です。歴史がどうだからといって、そのことで未来を決めることはできないから。

Q:ナショナリズムについて、あなたは今の中国で高まっているのは愛国主義ではなく民族主義だと、はっきり区別していますね。
A:愛国主義には健康的な部分もあり、必ずしも他者を傷つけるわけではありません。民族主義はそもそもが差別意識であり、他者を必要とする。そして往々にしてその他者に害を与えます。『我々は別の人々よりも優れており、特別』、だから、『我々はやりたいことができる』。それが基本理論です。

 中国政府の高官や外交官の言葉を思い起こしてみても、『中国の歴史は特別』『中国文明は特別』『中国の思想は特別』などなど、この種の発言がなんと多いことか。

    ■     ■
Q:民族主義をあおるような言葉が使われる背景をどう見ますか。あなたは経済改革が始まった1980年代から中国を研究してきました。
A:歴史を遡ってみれば、80年代、中国共産党は『破産』しました。共産党が呼びかける共産主義のイデオロギーを、だれも信じなくなったからです。私の知る党官僚自身ですら、そうでした。共産党は、市民の信任を得るため、何か新たなものを必要としました。

 共産党がまず導入したのは人々の物質的な要求を満足させる方法。共産党には欠点もあるけれど、言うことをきいてくれれば誰もが豊かになれますよ、というものでした。

 これは悪くありませんでした。みんなが自転車やミシン、テレビを持つようになりました。しかし、物質的な欲求をある程度満足させた人々は、もっと多くの物質的な欲求を満足させると同時に、精神的な欲求も満足させたいと思ったのです。

 人々は、この社会は不平等だと考え始めました。権力者や金持ちは、すべてを思いのままにしているが、そうでない人は、すべてにおいて受動的でなければならない、と。

Q:不平等の問題が、共産党統治を揺るがす最初の危機として現れたということですね。
A:そう。もう一つは社会システムの問題です。人々は、共産党に何も依存していないと思う一方、何も社会的な貢献をしようとしない。指導者が何を言おうが、自分の人生とは関係ないと思ってしまう。
 統治を空洞化しかねない二つ目の危機でした。共産党は一党支配を変えることができない。だから、帽子を変え、マスクを変えることにしました。共産主義はいわば淘汰され、民族主義が統治に使われ始めたのです。

    ■     ■

Q:「抗日戦争勝利50周年」の1995年前後、当時の江沢民国家主席は愛国主義教育を強めました。
A:ここで登場したのが『被害者の物語』。これは極めて便利なものでした。なぜならば、西欧や日本から受けた被害の歴史を強調することで『ほかの民族は堕落しており、野蛮であり、自分たちは善良で無辜(むこ)である』と言えるから。この場合の敵は、西欧人であり帝国主義。さらに日本人と、その侵略行為でした。民族主義と共に、こうした『記憶』が呼び起こされたのです。

 民族主義を広めるのは実はびっくりするくらい簡単です。理論が簡単、というより空っぽですから。空っぽの核心によく入れられるのが『歴史』。これは中国だけでなく、日本などでも同じでしょう。

 興味深いことは、49年の建国の際に毛沢東たちが訴えたのは、中華民族が立ち上がった『勝利者の物語』だったということです。80年代まで、統治者は『被害者の物語』を必要としなかった。中国の庶民たちの記憶もこの点、もやっとしているように見えます。指導者やエリートが『我々の社会は元々こうだ』と言い出すと、人々はわりと簡単に歴史認識を変えてしまいます。それだけ民族主義は、統治者にとって使いやすい道具ということなのです。

Q:ただ2012年の反日デモでは、日本車だとの理由でパトカーまで壊されました。
A:中国政府も民族主義のパワーが大きくなりすぎて、コントロールできない状況が生じています。中国政府は対外的に一寸たりとも譲らないといった強硬姿勢を見せていますが、問題は、それでどうやってほかの国と付き合っていくかです。政治はお互いに譲歩するものです。しかし、外国人に譲歩をすれば、政府も批判を免れなくなっています。

    ■     ■
Q:あなたはこうした民族主義が、中国国内の少数民族に与える影響も指摘しています。
A:正確に言えば、中国の民族主義は中国人全体の民族主義ではありません。漢族の民族主義です。最近の『漢服運動』はその一つの例です。

中華

 以前、中国の伝統服と言えば清朝のもの。分かりやすいのは女性が着る旗袍(チーパオ)(チャイナドレス)ですね。でも清朝は満州族が統治者だったから、今やこれらは淘汰され始めています。私が研究した中央民族大学は中国の56民族が学ぶ学校ですが、その校内でも漢服運動が行われている。多民族国家である中国にとって危険な動きです。

Q:ここ数年、新疆ウイグル自治区やチベット自治区で、少数民族と漢族との摩擦が強まっています。
A:漢族中心の民族主義拡大と関係があるはずです。自分たちの民族の学校を閉鎖するぞと言われたり、ウイグル語を使うなと言われたりしたら少数民族は直感として危機感を覚えます。新疆では、ウイグル族が漢族と結婚すればお金がもらえるという話も聞きました。いわば『漢族になれ』ということで、少数民族側に受け入れられるわけがありません。

Q:中国周辺の国や地域にとっても、こうした民族主義の拡大にどう対処するかは大きな課題です。
A:昨年、台湾や香港で起きた民主を求める動きも、中国の民族主義の影響を無視することはできないと思います。ある中国の学者は『香港人は長年、西洋の奴隷だった』とテレビで発言していました。多くの香港人も漢族のはずですが、大陸の漢族は香港を下に見ています。これに反抗しようと考える香港人が出るのは当然のことです。

 巨大な隣国で民族主義が高まれば、周辺の人々は圧力を感じます。日本の状況はよく分からないので、具体的なことは言いたくありません。でも、中国の民族主義の高まりによって、日本の民族主義が高まることは自然な流れです。

 誤解のないように言っておきたいのですが、中国のすべてが民族主義というわけではありません。民族主義だけで中国を定義してはいけません。民族主義は中国の一側面に過ぎない。私が中国の民族主義を観察しているのは、それを理解しなければ、今の中国を分かることはできないと思うからです。

Q:民族主義一色でない状態が、周囲にいる私たちに見えにくいという悩みがあります。
A:確かに今の中国で聞こえてくるのは、エリートの声と民族主義的な言葉ばかりです。でも、それ以外の言葉も話しやすい開放的な社会になれば、民族主義に反対する人が多くを話し出すかもしれません。

    *
Patrick Lucas:文化人類学者 1964年生まれ。80年代から中国に留学。中央民族大学(北京)などでの研究を経て2011年、米国学生の中国留学を進める国際教育交流協議会・北京センター長に。中国少数民族の調査研究をまとめた著書がある。

<取材を終えて>
 ルーカス氏は中国のナショナリズムの動きを文化人類学の視点から研究してきた人物である。国際的に知られた学者ではないが、流暢な中国語を駆使して、貴州省などで少数民族の文化を現地調査した経験も持つ。中国で高まる漢族の民族主義が、少数民族を刺激し、さらには日本を含む周辺地域の民族主義に影響を与えていると指摘する。

 今年は戦後70年であるとともに、大隈重信内閣が当時の中華民国政府に日本の権益拡大を求めた「対華21カ条要求」から100年にあたる。要求への抗議を機に、中国では愛国主義と民族主義が混ざった排日運動が高まり、それが日中戦争へとつながる日本の対中強硬論を煽った。

 隣り合う国の民族主義が互いに刺激し合うことは避けられない。同氏の指摘は、我々日本人もまた、民族主義の「負の連鎖」のなかにあることを気づかせてくれる。東アジアの民族主義の拡大を抑えるにはまず、この自覚こそが求められている。(中国総局長・古谷浩一)


中華民族復興パトリック・ルーカス2015.2.25


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