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zoom RSS 安部政権と戦争の記憶

<<   作成日時 : 2013/08/21 14:53   >>

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<安部政権と戦争の記憶>
 米コロンビア大学教授キャロル・グラックさんがインタビューで「右傾化報道は極端、米国が支えた戦後「脱却」は本意か」と説いているので、紹介します。
米コロンビア大学教授キャロル・グラック
安部政権と戦争の記憶

キャロル・グラックさんへのインタビューを8/20朝日デジタルから転記しました・・・無料で見せるのが木鐸というものでは?)


日本の「右傾化」について、どう思うか、この国を知り尽くした歴史家にそう聞こうとしたら、たしなめられた。ラベルを貼って簡単に分かった気にならないように。歴史は決して、短距離走者ではないのです、と。地理的にも時間的にも視野をぐっと広げて、2013年夏の日本と、安倍晋三首相率いる安定政権を眺めてみると……。

Q:参院選でも大勝した安倍政権について、米メディアでも右傾化を懸念する意見が見受けられますが。

A:実は、うんざりしているんです。過去数カ月間の日本に関する報道で、ナショナリズムや軍国主義といった言葉が実に多く使われています。世論調査の結果を考えれば、そんな心配はないことがわかるのに。
 
日本に関する海外メディアの報道は極端で、しかも浅い。日本がすぐに軍国主義になることはないし、憲法9条への支持はまだ強い。なのにメディアは安易にラベルを貼る。橋下徹大阪市長の慰安婦発言も好例です。まるでウイルスのように、あの種の発言は広まる。 
 日本人の多くは発言に賛同しているわけではないのに、米国人はそれを知らない。

 以前から感じているのですが、日本はいつも極端な言葉で形容されます。経済問題でもそうです。1980年代には『世界を支配する』、90年代には逆に『日本は終わった』と報じられ、その後、日本はほとんど無視された。安倍首相が再登板してアベノミクスを言い立てると、おお、欧州ができなかったことをした、再び日本に注目しよう――。私は歴史家だから確信していますが、世の中は決して、極端から極端へは変化しない。歴史は、短距離走者ではないのです。
   ■     ■

Q:海外メディアの日本理解の浅さは分かりましたが、安倍首相は憲法改正を目標に掲げていますね。

A:憲法改正を目指すことは、自民党政権として別に新しいことではありません。そもそも憲法9条を変えずとも、自衛隊の役割は劇的に変わった。カンボジアやイラクなど、事実を見れば自衛隊はすでに海外に派兵されている。アジアの地政学的要因や、さらなる防衛費負担を求める米国の圧力があったからです。将来的に、もし9条が改正されたとしても、それまでには、改正が必要ないほど多くのことが実現しているのではないですか。憲法は、シチューを煮るための鍋に似ています。大切なのは中身であり、鍋ではない。
 仮に今、憲法改正に着手したら、政治のエネルギーを吸い尽くしてしまうでしょう。中韓や東南アジア諸国との関係をどうするか、世界でどんな役割を果たすべきか、そんな課題が山積みだというのに。

Q:前回政権時、安倍首相は「戦後レジームからの脱却」を掲げていましたが、これはどう思いますか。

A:同種のことを言い始めたのも、別に安倍首相が最初ではありません。戦争が終わって70年近く経つというのに、いまだに『戦後』という言葉を使っているのは日本だけ、という点は実に興味深いですが。
 日本が戦後という言葉を使い続けた理由は、それだけ、この体制が安定したものだったからでしょう。諸外国では、このように使われる言葉を見つけられません。その理由のひとつは米国です。米国が、日本の記憶とシステムを『冷凍』していたから。そして日本にとっては、それが快適だった。おかげで天皇は象徴となり、民主的で平和な国家が続いている、と。
 安倍首相は『普通の国』になるために9条を変えることを欲するけれど、戦後体制の『ある部分』は変えたくない。それは日米関係です。民主党が試みて失敗したようなことはしたくない。安倍首相は、本当に戦後を変えたいのでしょうか。

   ■     ■

Q:安倍首相は終戦の日の全国戦没者追悼式で、アジア諸国に対する加害責任に触れませんでした。

A:安倍首相を含む自民党の右派政治家たちは長い間、戦後問題やナショナリズムに関わることを国内政治扱いしてきました。加害責任を否定することで、国内の支持を得ようとしてきた。彼らはまるで、自分たちの話す日本語は海外ではまったく理解されないと思っているようです。実際はソウルや北京やワシントンにすぐに流れるというのに。これは一種の『地政学的無神経』です。

Q:なぜ日本ばかりが謝罪しなければならないのか、という疑問を持つ人もいます。

A:この20年ほどで、戦争の記憶に関する『グローバル記憶文化』とでも呼ぶべきものが生まれました。それは、国家が過去に行った行為について新しい国際規範ができた、ということを意味します。
 戦後すぐは、その規範は存在しませんでした。国家の首脳は50年代、『ごめんなさい』と言って回ったりはしなかった。この『謝罪ポリティクス』につながる新しい記憶文化が生まれた理由のひとつはホロコーストです。欧州連合(EU)が創設される過程でホロコーストはヨーロッパ共通の記憶になりました。多くの国が追悼の日を設け、教育を始めた。EUが90年代以降に北・東欧に広がると、この記憶も広がった。私は『溶媒効果』と呼んでいます。
 トルコを例にとると、オスマン帝国末期のアルメニア人虐殺をトルコ政府が認めないことを、EUは重大視しています。EUの一員になるにはグローバル記憶文化の共有が要求されるのです。EUがトルコ加入に難色を示す理由として、これは明らかに政治利用されています。

Q:その新しい規範が、東アジアにも広がったということですか。

A:日本は長い間、戦争の記憶に関して何もする必要がなかった。強固な日米関係に支えられていたからです。中国は共産主義国だから、存在しないのと同じだった。しかし、冷戦が崩壊し、日米関係が唯一の重要な国際関係ではなくなった。
 アジアと向き合うことを余儀なくされ、90年代になって突然、日本政府は戦争の記憶に対処しなければならなくなったのです。それは世界的な『新しい常識』です。自民党が国内政治として扱おうとしても、それとは別種の国際環境が存在している。米下院が慰安婦問題で非難決議をしたのも、その流れです。
   ■     ■

Q:方で安倍首相は、8月15日の靖国神社参拝は見送りました。

A:靖国神社は取り扱いの難しい問題です。戦没者の慰霊施設だからこそ、人々はA級戦犯ではなく、戦死した祖父や曽祖父を思い浮かべる。少なからぬ国民が参拝を支持しているのは理由があります。これは国内問題でもあり、国際問題でもあるから、取り扱うには巧妙な手腕が必要ですが、自民党にそれができるとは思えない。この夏、安倍首相が靖国に参拝していたら、取り返しのつかない失敗となったでしょう。
 歴史問題は、いまや安全保障にすぐに結びつくのです。取り扱い次第で、すぐに『日本再軍備』反対という声が高まる。竹島や尖閣諸島などの領土問題でも、慰安婦や南京事件が持ち出される。歴史問題が利用されている面は確かにあります。


Q:「地政学的無神経」以外に気にかかることはありますか。

A:在日コリアンへの悪意に満ちたデモなど、ヘイト・ナショナリズムには懸念を持っています。これは安倍首相よりもはるかに危険です。中韓の若者たちは日本が嫌いだといい、日本でも……。まるでブーメランです。若年層がお互いに憎み合うとしたら、いったい東アジア全体では、どんなシチューができるというのでしょう。軽率な愛国心は、祖国に対する誇りとは違うのです。
 90年代、世界各国で新しいナショナリズムが生まれました。冷戦が終わり、不確実に変化する世界秩序を前に、経済的な繁栄を譲り渡さなければならないと感じた先進諸国が直面した問題です。このポスト冷戦期、日本にもたらされた最も大きな変化は、アジア諸国の成長、特に中国の台頭でした。東アジアで経済関係がこれほど分厚く広がったことはかつてありません。地政学上の大きな変動は緊張をもたらします。ナショナリズムの矛先が中国、韓国に向かうのは、そのためです。
 90年代からずっと言い続けているのですが、日本はグローバルプレーヤーになる努力をするべきです。非核国で、兵器も売らず、かつ世界有数の経済大国という稀有な国です。ノルウェーが平和交渉の仲介役をするように、他国がしない隙間の役割を見つけるべきでしょう。クール・ジャパンだけでは無理でも、もっと多面的なソフトパワーを武器にして、何かできるはずです。
 それは、台頭する中国にどう対処するか、という問いへの答えでもあります。軍備に軍備で対抗するのは、ばかげていますから。

 Carol Gluck:41年生まれ。米コロンビア大学教授。同大東アジア研究所所属。米国における日本近現代史、思想史研究の第一人者。

<取材を終えて>
海外メディアに誤解されやすい。かつ、世界的な「常識」の変化に無頓着である。グラック教授の日本への指摘を縮めれば、こうなる。言い換えれば、あまちゃんで自己プロデュースに失敗しているということか。国家の自画像をどう描くか。海外の反応が気になりがちな私たちにとって、この夏の宿題は難問だ。(ニューヨーク支局長・真鍋弘樹)


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